第5話:スクールカウンセラー
放課後。彼女は玄関先に座って待っていた。小桜はおらず、代わりに坂本と、見知らぬ女性教師が居た。
「カウンセラーの
「あぁ、えっと……
「このちっこいのに捕まった」
そう言って月島先生は小森を指差す。
「ちっこいって! 先生だってそんな変わんないじゃないですか!」
「うるせぇな」
「で、なんで捕まったんすか?」
「友達のことが心配なんだと」
「友達って……小桜愛華ですか?」
「そ。知り合いってことは、少年も愛華関係で呼ばれてんのか」
「多分そうっす」
小森の隣に座る。すると彼女は本題に入った。聞きたいことというのはやはり彼女の噂に関することだった。
「疑ってるわけじゃないけど確認させて。噂流したの、君じゃないよね?」
「違う。ただ……俺にあいつの前の家のこと聞いて来た女子が一人いた。もちろん、何も話してない。話してないけど……父親のことが噂になってるのは気になる。どうやって知ったんだろう」
「うちらと同じ小学校の子なら大体みんな知ってる。だから、桜庭くんが漏らしたわけじゃないのは分かるよ」
「そうなのか……昔もこういうことあったのか?」
「うん。すぐ無くなったけど。なんでまた今更……」
「嫉妬してんだろうね。愛華は色々な人から愛されてるから。……こんなことしたところで余計に嫌われるだけなのになんでこんなことすんだろう」
坂本がイラついた様子で言う。小森も彼女に同意する。二人とも相当怒っているようだ。
「理由は色々と推測できるが……その子と直接話してみないことにはわからないな」
「先生、カウンセラーですよね。なんとかなりませんか?」
「ならんな。例えその噂を流したと思われる子を改心させたとしても、既に広がった噂をなかったことにするのは無理だよ。こういうのは自然に消えるのを待つしかない」
「……意外と冷たいんですね。月島先生って」
カウンセラーなのにと小森は言う。俺も驚いた。カウンセラーはもっと温かいイメージがあったから。こんな突き放すような事を言っても良いのだろうかと。すると月島先生は「まぁそうなるのも分からなくはないよ」と苦笑いしながら続けた。
「私だってあの子が辛い過去と必死に向き合おうとしてるのは知ってる。応援はしてる。けど、私が彼女個人のために動くことは出来ない。スクールカウンセラーだからな。私は。全校生徒、それと先生達のケアもしなきゃいけない。そのためには個人を贔屓することは出来ないんだよ。分かるか?」
「……まぁ、分からなくは……ないですけど……」
「伝わってるならよし。というわけで、個人的に動くことは出来ないが、サポートはする。だから困ったらいつでも相談に来い」
「……でも、マナのことは助けてくれないんですよね」
「助けないわけじゃない。ただ、私が出来ることには限りがある。だから、これはカウンセラーではなく、月島満個人としてのお願いなんだが、私の代わりにあの子のことを助けてやってくれ。言わなくたって、お前達はそうするつもりなんだろうけど」
そう言って月島先生は笑う。どうやら、思ったより冷たい人では無いらしい。やはり俺の中のカウンセラー像とはかけ離れているが、こういう人の方が案外相談しやすそうではある。
「あぁ、それと、助けてやってとは言ったが、あの子はあの子なりに自分の過去と向き合うために戦ってる。それの邪魔はしないでやってくれ。言いたいことわかるか?」
「過保護になるなってことですか?」
「そう。本当に他人を助けたいと思うなら必要以上に手を出すな。手は貸すだけにしとけ」
「だってよ。希空、桜庭くん」
「小森はともかく、俺はそこまで過保護じゃないと思うけど」
「いやいや、私からしたら二人とも充分過保護だよ」
「とにかく、あの子のことはよろしく頼んだよ」
しかし、なぜ月島先生は彼女のことを気にしているのだろうか。問うと、彼女は「あの子は幼馴染の子だから」と答えた。その幼馴染というのは血が繋がっている親ではなく、今の親のことで、過去のことは何も知らないらしい。
「あ、小森さん、坂本さん、桜庭くん。良かった。まだ学校に居たんだね。三人とも、親御さん心配してるよ」
どうやら長話しすぎたらしく、親から電話があったと担任の佐藤先生から知らせが入った。
「私送っていきますよ。今日は車で来てるんで」
「珍しいですね。いつもは電車なのに」
「今日は寄り道せずに真っ直ぐ帰れって妻から言われましてね。車で来てたら飲まない口実になりますから」
「何か特別な日なんですか?」
「いや。別に。ただ仕事が休みってだけです。っと……失礼。噂をすれば妻からです。もしもーし。はいはい。今から帰りますよ。ちょっとだけ寄り道するから……三十分くらいかな。え? 女の家。ごめんごめん。冗談だって。生徒を送ってくだけだよ。あぁ? 子供に手出すわけねぇだろアホか。良いから大人しく待ってろって。帰ったら抱いてやるから。えー? 早く帰ってきてほしいのはそういうことじゃないの? はいはい。分かった分かった。はい、はい、もう切るよー。また後で。んもー。うるさい。切りまーす」
そう言って先生は電話を強制的に切る。何故か佐藤先生達が恥ずかしそうに顔を隠している。
「……どうしたんすか」
「どうしたんすかじゃないですよ! 子供の前でなんて会話してるんですか!」
「普通の会話ですけど。NGワードありました?」
「ありました! もー!」
「心当たりが無いのでどの辺がアウトだったか教えてください」
「せ、セクハラで訴えますよ!」
「はははっ。さーせん」
「もー!」
どこがアウトだったのか俺には分からなかったが、坂本と小森は理解していたらしく、首を傾げる俺を見て「意外とピュアだね」と苦笑いしていた。
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