第4話:ストーカーじゃない

 それから数日すると、同級生の女子からこんなことを聞かれた。


「桜庭くんってさ、小桜さんと小学校一緒だったんでしょ?」


「あぁ、小一から小三までだけどな」


「あの子の前の家のこと、知ってんの?」


「……いや、何も知らん」


「えー。本当に? 何かないの?」


「何か知ってたとしても、あいつの許可なく話すことはしないよ。俺は」


「……あー。君もあの子にたぶらかされてる側かぁ。まぁ、そんな気はしたけど」


「残念だったな。俺はあいつの味方だ」


「あーあつまんな」


「あいつのこと嫌いなのか?」


「嫌いじゃなかったらわざわざ弱み握ろうとしないでしょ」


「嫌いだったら放っておくけどな。俺は。わざわざ嫌がらせしようとするのは構ってほしいからじゃないか?」


「は? うざ……」


 舌打ちをしてぶつぶつ言いながら去っていく女子。どうやら校内は彼女の味方ばかりではないらしい。

 数日すると、彼女の父親に関する噂を耳にするようになった。どこから聞きつけたのかは知らないが、あの女子が流したのだろうか。本人は特に気にしてなさそうに見えたが本当に大丈夫だろうか。


「小桜」


「あ、桜庭くん。今から外周?」


「そっ。じゃ、行ってくるわ」


「行ってらっしゃい」


 部活の外周前に彼女の様子を見に花壇に寄る。彼女は園芸部だった。『花が似合うな』なんて浮かんだ感想は口には出さずに、一声だけかけて校門前に集合する。


「さ〜く〜ら〜ばぁ〜。なに? 今の。恋人?」


「いや、友達っす」


「友達の割にはなんか良い雰囲気だったけど。お前、最近転校してきたばかりじゃなかった?」


「一時期小学校一緒だったんで」


「なに。追いかけてきたの?」


「なわけ。たまたまですよ」


「なにそれ。やだー運命的」


「たまたまっすよ。本当にたまたま」


 先輩達に揶揄われながら外周から戻り、花壇を除く。俺に気づいた彼女が自分をアピールするように大きく手を振る。振り返すと『頑張ってねー』と声援をくれた。


「……なぁ、マジで付き合ってねえの?」


「……付き合ってることにして良いっすかね」


「良いわけねぇだろ」


 不意に背後から殺意を感じた。振り返るとそこに居たのは小森だった。


「桜庭くん。君に聞きたいことがある。部活終わったら待ってる」


「……小桜のことか?」


「……とにかく、待ってるから。あと、マナにちょっかいかけんな。勝手に付き合ってることにしようとすんなストーカー」


「やっぱストーカーなんだ」


「ちげぇって! 俺の希望で転校先決めれるわけないだろ」


「じゃ、また後でね。ストーカーくん」


 そう言い残して小森は逃げるように去っていった。


「だーかーらー! ストーカーじゃねえっつってんだろ!」

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