第3話:彼女の家族
その日の放課後。俺は彼女に改めて当時のことを謝罪した。
「しみ——小桜の言う通り、最初は嘘だった。けど、最初だけだ。それ以降は、俺の意思」
「……そっか。正直に話してくれてありがとう」
「ずっと謝りたかったんだ」
「私も。ずっと謝りたかった。何も言わなくてごめんね」
「いいよ。ところでさ、お前、男子苦手なの?」
「男子というか……大人の男性がちょっとね。同年代は平気だよ」
思えば、彼女の担任は全員女性だった気がする。三年しか一緒にいなかったからたまたまかもしれないが。
「……そうか」
「うん。桜庭くんは平気。改めて、よろしくね」
「おう。よろしく」
差し伸べた手を、彼女はなんの躊躇いもなく両手で取った。そしてぶんぶんと上下に大きく振る。
「ちょ、腕、腕取れるって」
「あははっ。ごめんね」
笑いながら手を離す。そんな悪戯っ子のような笑顔を見たのは初めてだった。
「お前、ほんと明るくなったな」
「ふふふ」
「小桜って、今の親の苗字なんだよな?」
「うん。そうだよ。凄く素敵な人だよ。お母さんは女の人と結婚してて、もう一人のお母さんは苗字が違うの。だから、お母さんって呼ぶとどっちか分かんなくなるから名前で呼んでるんだ。小桜って苗字のお母さんが
「へぇー」
「あ、そうだ。桜庭くんのこと日記に書いてもいいかな」
「日記?」
「交換日記してるの。お母さん達と三人で」
「家族で交換日記? 家に居るのにか?」
「百合香さんと海菜さんは生活リズムが逆転してるから。海菜さんは夜勤なんだ。夜中に帰ってきて、日中はほとんど寝てるからゆっくり話す時間がないから、言いたいことは日記に書くことにしたんだって」
「ふうん。なるほど……」
「それでね、今は私もそこに参加させてもらってるんだ」
彼女はそう楽しそうに語る。今の家族と上手くやれているのは聞くまでも無かった。彼女が笑えているのは小森たちだけではなく、母親達のおかげもあるのだろう。最初に笑い方を教えてくれたのは君だと彼女は言った。けれど、結局俺と出会わなくたってきっと彼女は笑えていた。そう思うと複雑だったが、その複雑な感情はすぐに彼女の幸せそうな笑顔に吹き飛ばされる。俺は彼女が好きだ。恋愛的な意味で。きっと、初めて彼女の笑顔を見たあの日からずっと。再会出来た時はその恋がようやく実ることを期待したが、彼女は明らかに俺を恋愛対象として見ていない。どうしたら意識させられるのだろう。そもそも、彼女は異性は恋愛対象に入るのだろうか。
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