触れれば肌が切れるような。強く強く引き絞られた「アオハル」を駆けろ

たとえば、自分がいちかや彼女を取り巻くひとたちと同じくらいだったころ。
こんなにも切実にひたむきに、何かへ打ち込んだことが果たしてあっただろうか。

ままならないことや終わってしまうことが辛くて悔しくて、後悔に涙を流すほどに何かを追い求めたことが果たしてあっただろうか。

手が届くかもわからない高み、それでも誰かがそこに立つのだろうその場所を目指して足掻き苦しみ、時には周りを振り回して挙句に自分も傷つくような。そんな目標を持ったことが一度だってあっただろうか。

スポットライトの当たるそこへたどり着いた誰かを見上げて暗がりに佇む自分、あるいはスポットライトを浴びて選ばれた舞台に立つ自分を、そこに在る自分が辿ってきた「それまで」を想う日は、これまで一度だってあっただろうか。

目の前の壁に怖気て、自分に言い訳をしてしまうような日は――これは、まあ、あった気がします。割といっぱい。


読み解く手を止めてぼんやりと天井を見上げる時に、ふとそんな埒もことを思ってしまうような。本作はそうした「アオハル」の物語です。

本作の題材となっているのはジャズビッグバンドですが、ジャズを知らなくても楽しめると思います。音楽と縁がなくても読み解けると思います。

本作で描かれているのは、誰もがきっとそのかけらに触れるだろう一時の輝き、成功と挫折、努力と空回り、友情だったり失敗だったり言い訳だったり空しさだったり、まだ辿り着いていなくてもいつかはそこにたどり着いて、終わってから振り返ればそんなこともあったなぁと眩しく目を細めてしまうような、そんな一時のアオハルを駆け抜ける女の子と、彼女を取り巻く仲間達の物語です。
そういうのちょっとでも琴線に触れるようであれば、是非に。おすすめです。

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