現れ出たる義経公。御覧じよ、浦島伝説後日譚――異聞・九郎判官義経伝説

江戸時代の頃、九郎判官義経公は浄瑠璃や歌舞伎等で大人気のキャラクターで、源平伝説などとんと関係ない話にも「現れ出たる義経公」という語りと共に義経が登場し、「さしたる用もなかりせば」と何もせずに引っ込んでいくという演出があったとか。
そんな雑でいいの? と思ってしまいそうなところですが、これが普通に拍手喝采だったとか。

――閑話休題。

そんないにしえからの愛されキャラクター、九郎判官義経公にどういう訳か憑依してしまった現代の大学生・中村蔵人。
義経公の目を通して彼が見聞きするのは音に聞く源平合戦の世界――かと思いきや海の底、竜宮城の世界。しかも和風ファンタジーかと思いきやそうでもなく、海の底は何やら異世界風――という、私などはちょっと他所で類例を見たことのない奇抜な仕立ての物語です。
タイトルや紹介文で何かしら目を惹かれたを覚えた方は、是非お手に取ってみてくださいませ。

さぁて、ここからが本題。
本作は、義経公がですね。かっこいいのですよ。
冒頭で江戸時代の頃の義経公の人気っぷりなんて関係ない話ぶち込んだのもですね、その辺りに理由あればこその前書きです。

蔵人くんに憑依された義経公、読者は基本的蔵人くんの目を通して義経公を見る訳ですが。
蔵人くん経由で現代の知識などちょいちょい拝借しながら快刀乱麻の活躍ぶりを見せる義経公。彼の性格が、男っぷりがとてもいい。

武士らしく豪放にして泰然自若、好奇心旺盛かつ茶目っ気があって、ちょっとくらいの失敗ならその愛嬌で何となく許されてしまう可愛げのある御方。作中で分かりやすく周囲の女性に好かれてたり、姫君の初恋キラーになったりしているのが大変得心のいく、たいへん魅力的な「九郎判官義経公」です。
そんな御方が、竜宮城から帰り来る後の浦島太郎と共闘するというおとぎ話めいた展開が繰り広げられたり、和風ファンタジーならぬ異世界風味の海中世界で乙姫の娘を救出せんとその身を張って活躍したりするわけです。
物語総体として深く刺さるかどうかは人それぞれではあるでしょうが――その一点に関してだけ言うなれば、もう「かっこいい」の一言に尽きるものでしょう。
こうした「説得力の高い」キャラ造形、いいなぁー、と思います。素敵です。

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