盲目の娘は神の下へと嫁ぐ花嫁。彩深く描き出される、和の異種婚姻譚

描き出される世界の香りと彩り、その深さ鮮やかさに驚かされます。

第一幕の物語は、朽ちた枯木の野を思わせるほの暗いくすみを帯びながら。
第二幕の物語は、薫り高く咲き誇る山桜を思わせる鮮やかさと、幽玄の霞を帯びながら。

うち捨てられるようにして神への供物に捧げられた娘・椿と、桃源郷とも綽名されるひとつの村の繁栄のために「神」として繋がれた男・朧。
本作ではこのふたりが出会い、心を通わせ、やがて夫婦として共に歩み幸いなる時を共に歩むまでのひとつひとつが、ありありと描き出されています。

古来、盲目であるということは、神に通ずることであるとされていたそうです。
いわゆる「巫女」と称されるものの中には、神の世界へ通ずるためにその目を塞ぐものもあったとか。
あるいはすべてを承知の上で構成されたものであるのかもしれませんが――というより、そうである公算の方が高いでしょうが――本作の中で象られた構図、盲目の娘が神へと嫁ぎ、自らも「ひとならざるもの」となって共に歩むという本作の物語、その何と示唆的であることでしょうか。

人として生まれながら人ならざるものとなった、その拭い難い喪失感を引きずりながらも、二人の歩みは確かに満たされたもので。
その人生の道程は只人のような幸福に満ちながら、しかし只人では辿り得ない幽玄たるものであろうと、そう思わせるものでした。
その確かな説得力の、なんと心地よいことか。

たまらなく上質は、「ひとならざる夫婦」の物語です。

その他のおすすめレビュー

遠野例さんの他のおすすめレビュー360