本作の題材はジャズ。しかし、身構える必要はなく、むしろ気楽に読み進められる内容となっております。
というのも高校生編から始まっておりまして、ジャズではなく吹奏楽。この辺りは経験などなくても、校内の練習くらいは誰でも見たことがあるかと思います。
詳しい内容は読んでみてほしいのですが、ざっくり説明しますと主人公は将来的に進むべき道を見失っていた。何がしたい。何になりたい。そういったものを考えられなかったわけです。つまり遠回りすることになり、迷走していたと言うべき時間が綴られることに。
ただその期間は主人公の人となりや考えを推し量る期間にもなっておりますし、イベントも充実しておりますので飽きることなく読み進めることができます。
是非とも手に取っていただきたい作品です。
青春と呼ぶべき1ページを開いてみてください。
音楽に限らず、芸の道を行く者にはだいたい二種の人間がいるものです。
エンジョイ勢とガチ勢。この二種類。
その間には深い溝と価値観の相違があり、時には意見が衝突することも…。
この話の主人公もどちらかと言えばエンジョイ勢よりで、ガチ勢の努力を冷めた目で見つめています。所属する部活を辞めたいとすら思っていました。けれど、ついていけない、辞めるの繰り返しでいったい何が残るのでしょうか…その先にあるものは?
一方でガチ勢の副部長も努力が報われているとは言えず、周りの理解も得られず、辛い思いをしてばかり。
両者はやがて同じ疑問に行き当たるのです。
「私の青春は、人生は、これで良いのだろうか?」と。
真逆の生き方をしているはずなのに、何とも不思議なことです。
しかし、それもそのはず、どちらの青春も一度きりの貴重な時間であり、その大切さは万人に共通なのですから。
芸術の女神は、いつも道を離れず続ける者に微笑むもの。
結局のところ、楽しんで満喫した者こそが一番の勝者なのかもしれません。
人生と音楽の意味を考えさせてくれる学園青春小説。
音楽好きであれば、是非!
たとえば、自分がいちかや彼女を取り巻くひとたちと同じくらいだったころ。
こんなにも切実にひたむきに、何かへ打ち込んだことが果たしてあっただろうか。
ままならないことや終わってしまうことが辛くて悔しくて、後悔に涙を流すほどに何かを追い求めたことが果たしてあっただろうか。
手が届くかもわからない高み、それでも誰かがそこに立つのだろうその場所を目指して足掻き苦しみ、時には周りを振り回して挙句に自分も傷つくような。そんな目標を持ったことが一度だってあっただろうか。
スポットライトの当たるそこへたどり着いた誰かを見上げて暗がりに佇む自分、あるいはスポットライトを浴びて選ばれた舞台に立つ自分を、そこに在る自分が辿ってきた「それまで」を想う日は、これまで一度だってあっただろうか。
目の前の壁に怖気て、自分に言い訳をしてしまうような日は――これは、まあ、あった気がします。割といっぱい。
読み解く手を止めてぼんやりと天井を見上げる時に、ふとそんな埒もことを思ってしまうような。本作はそうした「アオハル」の物語です。
本作の題材となっているのはジャズビッグバンドですが、ジャズを知らなくても楽しめると思います。音楽と縁がなくても読み解けると思います。
本作で描かれているのは、誰もがきっとそのかけらに触れるだろう一時の輝き、成功と挫折、努力と空回り、友情だったり失敗だったり言い訳だったり空しさだったり、まだ辿り着いていなくてもいつかはそこにたどり着いて、終わってから振り返ればそんなこともあったなぁと眩しく目を細めてしまうような、そんな一時のアオハルを駆け抜ける女の子と、彼女を取り巻く仲間達の物語です。
そういうのちょっとでも琴線に触れるようであれば、是非に。おすすめです。
メンバーが心を一つに一つの目的に向かって全力で邁進する青春小説は、数限りなく描かれてきました。しかしそんな至福の青春を送れた人は、どれだけいるでしょうか?
多くの人はむしろ「不完全燃焼」のまま青春を終え、「本気で駆け抜ける青春」に憧れたまま過ごしているのではないでしょうか。
この作品は、「人が集まり一緒に何かをする」事の難しさや苦味を真正面から描いた稀有な青春小説です。
人が「本気出したい」という時期は様々です。そしてサークル活動ではメンバーの目的、技量、熱意もバラバラ。そんな中、一人の思いが先走る事で誰かを深く傷付けもする……。
そんな痛みを伴う青春時代の思い出が、読みながら走馬灯の如く甦ってきました。
しかし、他者との関わりの中で生じる軋轢を恐れず、乗り越える事でこそ得られる物の尊さが、ひしひしと伝わってきます。
あまり馴染みがなかったジャズに関しても、大変興味が湧いてくる内容です。
やる気のない高校時代の吹奏楽部の大会で味わった後悔。もう二度とサックスは吹かないと決めていたはずなのに……。
大学に入ってからの不思議な縁によって、主人公の「金海いちか」は、ジャズの世界に魅了されていく。
過去の後悔を断ち切れない、いちか。それでも音楽の道を歩みたいと思う葛藤の中、時間だけはズルズルと過ぎ去っていく。
セルリアンブルー・ジャズ・オーケストラに入部するが……。容姿端麗の部長の翠や、クセの強いトランぺッターの碧音に振り回されていく……。
高校時代の同じ部員だった美雪との再会による、蘇る過去の後悔。翠の過去のトラウマが部員の絆を切り裂いて、部内は壊滅状態まで追い込まれてしまう。
果たして、この様な状態でいちかは、多くの部員たちと夢の舞台「ヤマノ」の予選を突破し、本選に参加出来るのでしょうか?
多くの苦難には、それぞれの後悔と葛藤が付き纏う。過去に流した涙。諦めない強い想い。胸が熱くなるようなヒューマン・ドラマ。青春時代の揺れ動く心理描写が秀逸です。音楽を文章で表現する筆力も高く、サウンドが聞こえ臨場感も味わえるほどです。
最終話の一文
見ず知らずの少女が、過去の自分が、今の自分に憧れて、泣いてくれた。
「なんだ……私、ずっと……走ってたのか……」
思わず胸が熱くなりました。青春時代の熱い一コマの物語でした。
なにかに真剣に取り組むことを避け、引いた姿勢で物事を見ていた主人公が、あるきっかけでジャズの世界に飛び込み、失っていたものを取り戻すべく音楽に青春をかけていく物語。
悔しさと虚しさを覚える、胸を掴まれるような序盤から、ビッグバンドジャズとの出会い、そして夢に見たコンクールへの道のり。
主人公の成長の過程が、ユーモアのある会話と丁寧な心情描写とともに、テンポのよいストーリー展開で描かれ、青春が息を吹き返す様子が生き生きと伝わってきます。
主人公に負けない存在感を放つバンドのメンバーも魅力的です。明るさと葛藤を内包する彼らの、それぞれの再起をかけた挑戦もこの作品のもうひとつの見どころ。彼らのやり取りに笑わされ、じんとさせられながらも応援せずにはいられません。
現代的な軽快なタッチでありながら、しっかりと地に足の着いた文章。
なかでも演奏シーンのライブ感は素晴らしいとしか言いようがありません。まるで生き物のように躍動する旋律。ページからジャズの音色がほとばしるような熱気。その迫力には読者も聴衆になったかのように圧倒されることでしょう。音楽をここまで文字で描写してみせる筆者の感性と筆力に脱帽します。
どうか最後まで彼らの姿を見届けて下さい。
胸が熱くなる、素晴らしい青春物語です。
私も実は、JAZZバンドを趣味でしております。
といっても、遊びですのでそこまで詳しくありませんが。
それでも、分かることがあります。
このお話は間違いなく、JAZZです。
プレイヤーの気持ち、欲しい音や、合せたいタイミングなど、この物語はスタジオでの音合わせや、ちょっとだけお店で引かせてもらうあの空気の、そんなワクワクを毎回頂けるのです。
ビッグバンドとトリオ/カルテットとの違いや、大学やホールとBAR等との違い等はありますけれど、ただそれが違うだけで、私が楽しませて頂いているJAZZ音楽が根本にあり、1文字1文字の旋律により奏でられています。
とても素直で青春のお話なのですが、物語が運ぶウイスキーとシガレットの香りと、グラスの音と少しの煙り、時折見せえる大人の空間と雰囲気を感じながら、ちょっとだけ大人の時間と青春の振り返りをしながら、この旋律に酔ってみませんか?
最後に作者様の音楽への愛に、感謝を込めて。
いつも素敵な音楽をありがとうございます(*''▽'')
すごく面白い! 楽器知らないー、という人でも問題なし。
人の心の動きも、音楽の表現も、目を見張るキラキラした表現をなさる作者さまです。
はじめは、主人公の高校時代の部活の挫折が描かれます。それが終わってから、大学編となるのですが、途中で読むのをやめないで!!
音楽──青春。それが描かれるのですが、同時に、人の醜い内面にだって、物語はぐっと肉薄していきます。
触れれば、血がでる、人の心。
鋭いナイフのような青春。
しかしドロドロではなく、美しく、爽やかな青春の風も、同時にこの物語は失いません。
あっ、また私は分かりにくいレビューを。
じゃあ、もう少しわかりやすく。
大学の仲間は、個性豊か。
わちゃわちゃ学祭の様子も楽しく。
そして、明るく良い人である「ある人物」には、実は秘密があり───。
とてもオススメですよ。是非ご一読を。
高校時代に吹奏楽部で、ちょっとビターな青春を味わった『いちか』は吹奏楽部卒業後、音楽から遠ざかっていた。
入学した大学で一人静かな学生生活を送っていたところ陽キャから強引な勧誘を受けて、ジャズサークルとの出会いを果たす。
自由で輝かしいビッグバンドを目にしたいちかは、また楽器と向き合うことを決意する――
第一章「高校編」では、厳しい吹奏楽部の練習と、仲間たちの団結にいまいち加われない主人公の心境が語られます。
心情描写がとてもリアルで、10代の少女の瑞々しい感性が豊かに描き出されます。
いちか本人にとっては決して明るくない思い出なのでしょうが、実際の青春はむしろうす暗く悩みに満ちたもの。振り返ったときにこそ輝くのでしょう。
大学入学後ジャズと出会ったいちか。
ビッグバンドというと一般的にはグレン・ミラーのような古いスウィングジャズをイメージするかも知れませんが、実際は多種多様です。
マイルス・デイヴィスを思い起こさせるようなモダンジャズや、古典的な調性から解き放たれたモードジャズも演奏されます。
今まで吹奏楽部やクラシックの常識に生きてきたいちかがジャズの世界で何を見て感じていくのか?
青春×音楽というテーマを正面から扱った本作、ぜひ読んでみてください!