第8話 改めて、怪異研究部へようこそ
零達が生還した後、警察によって江藤邸の徹底的な調査が行われ、内部から大量の人骨や人体の一部が発見された。
鑑定の結果、それは今回の被害者と過去の失踪事件の被害者の物だったと判明する。
どんなに隠そうとしても、どこかから情報は漏れるもの。 唯一の生存者だった雫の話を聞こうと大量のマスメディアが学校に押しかけて学園はちょっとした騒ぎになった。
勿論、怪異の仕業だなんて言えるはずも無く、雫は「急に気絶させられて気づけば江藤邸の中に居た。 犯人らしき姿は見ておらず、隙をついて自分で脱出して通報した」と、主張した。
今回の事件と過去の失踪事件の犯人は同一人物であるにも関わらず、誰もその姿を見ていない。
テレビでは毎日の様に特番が組まれて目撃情報を募ったり、プロファイリングで犯人の分析を行ったりしていた。
それは皮肉にも、一種のお祭り騒ぎの様にも見えた。
「やぁ、筆上君」
数日後、零は怪異研究部の部室に訪れていた。
「大変ですね、先輩。 連日テレビの人達が押しかけてきて」
「まぁね。 だがそれも時期に止むだろう」
雫が空の電気ポットに水を入れて、スイッチを入れる。
「この事件の真相を知っているのは私達を含めたごく一部の人間だけだ。 公にする事はできない。 世間に大しては『調査はしているが、手がかりも証拠も見つからず已む無く迷宮入り』という形で落ち着くだろう。 今こそ面白半分に騒いではいるが、新しい情報が入ってこないならいずれ皆飽きてしまうからね。 気がつけばあっという間に忘れ去られるさ」
「・・・・・・本当は今回みたいな事件が世の中にはたくさんあるんでしょうか?」
「多分、ね」
電気ポットがコトコトと音を立て、お湯が沸いた事を知らせる。
机に並んだ二つのコーヒーカップに雫がお湯を注いだ。
「砂糖とミルクは必要かな?」
「ミルクだけ貰えますか?」
零は雫からカップを受け取り、ありがたく口をつける。
「今回はすまなかったね」
「いえ、そんな・・・・・・」
「まさか調査する前にこちらが先に襲われるとは思わなかったよ。 完全な不意打ちだった。 怪異の調査には慣れていたつもりだったが油断していたよ」
ふぅ、雫がため息をついた。
「あの、先輩。 今回助けてもらったあの事務所の人?達の事ですけど・・・・・・」
「ああ、面白い人達だろう」
「面白いというか、何と言うか・・・・・・まさか口裂け女や人面犬に助けを求める事になるとは思いませんでした」
「だろうね。 お裂けさんから聞いたよ。 キミが対面した時にひっくり返って気絶したって」
「し、仕方無いじゃないですか! 誰だってびっくりするに決まってますよ、あんなの!」
「はははは」
むくれる零を見て雫が楽しそうに笑う。
「それに、あの魔王さん・・・・・・でしたか? 一体何者なんですか? 異世界から転生してきた魔王を自称してましたけど?」
「さぁね、私にもそれがどこまで本当なのかは知らないんだ。 だけど怪異なんて物が実在する以上、異世界転生という物があっても不思議じゃないとは思うね」
「それは・・・・・・そうかもしれないですけど」
あの日経験した、たった数時間の出来事で零の中にあった色んな常識がひっくり返ってしまった。
架空の存在だと思っていた怪異、そしてその怪異と戦う事を生業とした口裂け女、人面犬、そして自称魔王。
「例の江藤邸だけどね、 警察の調査が終了次第取り壊す事に決まったそうだよ」
「やっぱりそうですか」
かつてはあの屋敷でも、幸せな家族が幸せな時間を過ごしていたのだろう。 それが一つの悲劇によって全てが狂い、江藤夫人本人を含めた多くの人間を不幸にした呪われた場所になってしまった。
「でも、これで江藤夫人は二度と現れないんですよね?」
「それはどうかな?」
「えっ?」
「怪異は人間が作り出すものなんだよ、筆上君。 生きてる人間が江藤夫人の事を覚えている限り、そう簡単に消える事は無いと思うよ」
「それじゃあ、先輩はまた江藤夫人が現れて今回のような事件を再び起こすと思っているんですか?」
「無いとは言い切れない。 もしくは似たような怪異が新しく生まれてくる可能性もある。 人間が居る限り、怪異とはこの世から消えない物なのさ」
「・・・・・・怖いですね」
もしかしたら江藤夫人以外の怪異も、この街にはたくさん潜んでいるのかもしれない。 そう思うと零は背筋が寒くなった。
「それで筆上君、君はこれからどうするつもりかな?」
「これから?」
「君は現在仮部員という立場だが、初っ端からこんな恐ろしい目に遭ってしまっただろう? 嫌気が刺しても仕方が無いと私は思っている」
要するに部活を続ける気があるのかどうか? 雫は零にに聞いているのだった。
「・・・・・・もう少し、続けてみようと思います」
確かに恐ろしい目には遭った。 怖くて怖くて仕方が無かった。
「怪異に興味が湧いたのかな?」
「それもあるかもしれませんけど・・・・・・」
雫はあんな目に遭っても一切怖がる素振りを見せなかった。 そもそも雫は何で怪異研究など始めたのだろうか。 何故危険な目に遭うと判っていながら怪異を追っているのだろうか。
怪異よりも、雫自身の事を零はもっと知りたくなったのだった
。
「まぁ、色々です」
・・・・・・・もっとも本人の目の前でそんな事を言えるわけないのだけれど。
「そうか、ならこれからもよろしく頼むよ、筆上君」
そう言って雫はふふっ、と笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます