第14話魔王退魔相談所再び
「私は怪異とかオカルトとかは全く信じないタイプなんですけど・・・・・・」
「それでも今回の件はタイミングが合い過ぎる、と?」
「それは勿論ありますけど、お父さんもお母さんも本気で怖がってるみたいで。 だけど、こんな事を警察に言った所で信用して貰えるわけ無いですし」
「だから、怪異研究部である我々に相談しに来たと?」
「高月先輩はこういう事に慣れていると噂で聞いたので」
「ふむ、自分で言うのも何だが、有名人なようだな、私は」
「つい先日失踪までして事件にまでなったばかりですし、そりゃ有名にだってなるでしょ・・・・・・」
「ふふっ、それもそうか」
呆れ気味言う零の言葉を聞いて、雫はおかしそうにクスっと笑う。 そんな二人を美琴は不思議そうに見ていた。
部室で美琴の話を聞いた後、零と雫は美琴を連れて学校を出ると、そのまま最寄り駅である│
美琴の相談には乗ったはいいが、雫達に出来る事などたかが知れている。 そこで何度も世話になっている「その道のプロ」を紹介しようという話になったのである。
「私、こっち方面は殆ど来た事がないんですよね」
「だろうね。 繁華街があるのは北口方面だし、南口は何の店も入ってないテナントが並ぶシャッター街だ。 北口の開発が進んで客があちらに流れる前は中々賑わっていたそうだけども」
「相変わらず人通りが少ないですね、こっちは」
「ああ、筆上君は来た事があるんだったね」
「・・・・・・まさか再び訪れる事になるとは思っていませんでしたけど」
3人はその寂れた街中に建つ古い雑居ビルの中を階段で進んでいた。 エレベーターも一応あるがメンテナンスを知らせる告知が貼ってあり動いている様子が無い。 そもそも、零が以前訪れた時も全く同じ状態だった記憶がある。 まともに管理されてるのかどうかすらかなり怪しい節がある。
「さぁ、着いたよ」
「ここが・・・・・・?」
ビルの4階、そこには「魔王退魔相談所」という文字がデカデカと書かれた怪しい看板が掲げられた、どう見ても怪し過ぎる事務所があった。
「・・・・・・えっと」
困惑した表情で美琴が零の顔を見る。
(そりゃ困惑するよなぁ)
ここまで胡散臭い名前の事務所なんてこの世にはそうそう無いだろう。 まるで怪しい宗教団体である。 こんな所に連れてこられたら誰だって困惑して当たり前である。
そんな二人を尻目に雫は事務所の扉を開けた。 その直後である。
「こんのクソ犬がぁぁぁぁぁぁぁ!」
奥で女性の罵声が鳴り響いていた。 続いて何やら男女の言い争う声が聞こえる。
「アタシの楽しみだったカツサンド勝手に食いやがってぇぇぇぇ!」
「おいおい、そんなに怒るなよ。 そんな高カロリーな物ばっか食ってたら太るぞ? 代わりに俺が食ってやったんだ。 俺なりの気遣いって奴だ」
「余計なお世話だ! こう見えてもプロポーションには気を付けてるわ! カロリーコントロールしてるわ!」
「まぁ、どれだけスタイル良くてもその裂けてる口を何とかしないとどうしようもないわけだが」
「殺す。 今すぐ殺す」
「うるせーぞ、お前ら。 痴話喧嘩したけりゃ外でやれ」
「アンタも死ぬ?
「やめろ、包丁向けんじゃねぇ!」
困惑する零と美琴。 雫は「今日も賑やかだね」と呟いて笑っている。
さらに続いて物騒な単語が幾つか聞こえた後、ドタバタと走る音が奥から玄関へと近づいて来る。
「お、嬢ちゃん、来たかい」
「やぁ、ポチ」
そこには柴犬が居た。 人間の男をの顔を持った柴犬が。
零は横目で美琴を見た。
「・・・・・・」
表情が硬直したまま立ちすくんでいる。
「待ちやがれ! このクソ犬・・・・・・って、雫ちゃん!? それに筆上君も!?」
「どうも、お裂けさん」
「ど、どうも」
続いて現れたのは、包丁を逆手に持った口が両耳まで裂けた黒髪の女性である。 雫だけでなく、零に加えて見知らぬ女子が一人居るのに気づいて、慌てて包丁を後ろに隠してオホホと誤魔化すように愛想笑いをする。 普段ならば人前ではマスクをつけているのだが、完全に気が緩んでてつけ忘れていたようである。
「ようしばらくぶりだな」
その後ろから、頭に二本の角が増えた紫肌の男が頭を掻きながら現れる。
「こんにちは、魔王さん」
「相談があるって? 依頼を受けるかどうかはわからんが、まぁ、入れや」
「そ、それじゃあ、お邪魔します」
雫や零が事務所の中に入ろうとするが、美琴は全く動く気配が無い。
「おい、そこの嬢ちゃんどうした? 全然動かねぇぞ?」
「む、本当だ。 小島さん、どうかしたのかい?」
「あら、気分でも悪いのかしら?」
零は美琴に近づいて、その顔を覗き込む。
「・・・・・・立ったまま気絶してる」
「器用だな、この嬢ちゃん」
ポチが感心したように呟いた。
「いや、感心してる場合ですか!? 小島さんしっかりして!」
「ふむ、やはり怪異慣れしてない人にここは刺激が強すぎるか」
「初対面相手の人間が来るときは、オレが許可するまでは隠れてろいってんだろうが、ポチ」
「おいおい、まるで俺の所為みたいに言うなよ。 どう考えても俺じゃなくてマスク着けるの忘れたドジっ子口裂け女の所為だろ」
「はぁ!? 人の所為にしてんじゃないわよ! むしろそこの紫肌のせいでしょ!? 頭に角まで生えてるし!」
「ちょっと待てや! どう考えてもオレが一番まともだろうが!」
3人とも慣れてない人間が見たら気絶しますよ? という言葉を零は何とか口には出さないで飲み込んでおいた。
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