第4話 魔王退魔相談所

「うーん・・・・・・」

「あら、気がついた?」


 零の意識はぼんやりとしていた。 

 徐々に記憶が鮮明になってくる。

 

(高月先輩が行方不明になり、例の連続失踪事件に巻き込まれたんじゃないかと学校中で大騒ぎになった。 警察には通報済みだと聞いたけれども散々迷った結果、高月先輩から聞いた緊急連絡先である「魔王退魔相談所」にやってきたんだ。 それで確か・・・・・・)


「この薄気味悪い人面犬の顔見て気絶しちゃったのよね? お客様?」

「この気持ち悪い口裂け女の顔を見てひっくり返ったんだよな、坊や?」

「やかましいわよ! このクソ犬!」

「フッ、負け惜しみは見苦しいぜ?」

「どう考え江も両方だろ両方。 いででっ! この薬中々沁みるぜ・・・・・・」

「・・・・・・」


 目の前には口裂け女とにらみ合ってる人の顔をした柴犬と、手鏡で口の中を覗きながら綿棒で薬を塗っている紫の肌に、頭に角を生やした男の姿があった。


「あああああああ!? 夢じゃなかったぁぁぁぁぁぁ!?」

「落ち着け坊や、別に取って食ったりしないから」

「そうそう、別に『あたし綺麗?』とか質問した後に刃物持って追っ掛けたりしないから」

「説得力ゼロなんですけど!? 特に後者!」


  一体どうなってるんだ、ここは!?


「いいから落ち着けって。 少年、お前は嬢ちゃんの紹介でここに来たんだろ?」

「嬢ちゃんって・・・・・・高月先輩の事ですか?」

「そうそう。 高月雫ちゃんよ」

「あの嬢ちゃんはお得意様だからなぁ。 骨ガムとか時々くれるし。 そんなわけで、嬢ちゃんの紹介とあらば邪険には扱わないから安心しろ」


 そう言って人面犬は後ろ足で自分の顔をバババと掻いていた。 

 いや、そんな事よりも・・・・・・。


「あ、貴方達は一体・・・・・・」

「見ての通り私は口裂け女よ。 皆からは裂け子とかお裂けって呼ばれてるの。 よろしくね」

「俺は人面犬。 名前はポチ。 見ての通り本物さ」

「・・・・・・貴方は?」


 僕は紫肌の男性に問いかけた。


「俺? 俺は魔王さ」

「ま・・・・・・おう・・・・・・?」


 その男性は手鏡を置いて、僕の方に向き直り、言った。


「俺は異世界から転生してこっちにやって来た正真正銘の魔王だよ」


 ますます訳がわからなくなった。


「とにかく改めて用件聞かせて貰えるかしら?」

「そうだな、それがいい」


 数分後、零は未だに理解が追いついて居ない状態だったが、少なくともここの連中に害意が無いのは本当らしいので、とりあえず今回の用件を伝える事にした。


「嬢ちゃんの紹介って事は当然怪異絡みなんだろうが・・・・・・一体どんな奴かな?」

「いえ、その高月先輩が怪異に巻き込まれたっぽいのですが・・・・・・」

「嬢ちゃんが?」

「あー、またか。 本当にあの嬢ちゃん怪異に好かれてるなぁ」


 雫がが今までに何度も怪異に巻き込まれたというのは本当だったらしい。 そしてここに居る人?達が何度もそれを助けているという事も。


「・・・・・・って、待ってください。 そもそも貴方達だって怪異その物じゃないですか!」

「良い所に気がついたな、坊や。 その通りだ。 人面犬に口裂け女、この国でもトップクラスに知名度が高い謂わば怪異の大御所だ、俺達は!」

「まぁ、そんなアタシ達がなんでこんなボロビルでこんな商売やってるのかっていう話はまた今度にしましょ。 今は雫ちゃんの事が気になるわ」

「さ、話せ話せ」


 催促されて、零はようやく話し始めた。 今年の春に高校に進学し、高月先輩に誘われた事。 そして仮部員として入部し、最近多発している連続失踪事件とこの街に伝わる怪異『江藤夫人』の調査をしようとしていた事・・・・・・。


「あー、江藤夫人か。 この街では定番の怪異だな」

「知ってはいるけど、実際にやり合った事は無いわねぇ」

「・・・・・・今回の事件が本当に怪異の仕業なのかはわかりません。 あくまで先輩がそうかもしれないって言ってただけで・・・・・・」

「だが、実際にこんな短期間で20人近い被害者が出てるってのに、警察の捜査には一切進展がない。 確かにきな臭いな、こいつは」


 自称魔王の男性はポケットから煙草を取り出して、一本口に加えて火をつけた。


「煙草って良いモンだよなー。 こっちの世界に来てから色々と良いモンに出会ったけど、最初にあげるとしたらこの煙草だわ」

「ちょっと、暢気に煙草吸わないでよ。 雫ちゃんのピンチかもしれないのよ! あと、煙草吸うなら外で吸いなさい! 副流煙はカラダに悪いのよ!」

「バケモンの癖に一々細かいな、お前は」

「バケモン言うな! 事実でも言い方ってモンがあるでしょーが!」

「・・・・・・今更だけど、俺達にも健康被害とかあるのかね? 俺達は現世に発現した怪異であって、正確に言えば生物ですらないしな。 オレにも一本くれよ」

「・・・・・・」


 こんな人?達に任せて本当に大丈夫なんだろうか。 零はますます不安になってきた。


「とにかく状況は把握した。 調査予定だったっていう廃屋の屋敷の位置も判ってるんだよな?」

「は、はい」

「よし、今から行くぞ!」

「えっ!」

「今回の件が本当に江藤夫人とやらの仕業なら、急がないと手遅れになるかもしれないからな。 お裂け、車出してくれ」

「はいよ!」

「久々の仕事だ。 坊や、ついてきな」


 二人と一匹が次々と外に出て行き、零も慌てて後を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る