第13話 蒼真  俺の実力と才能

 俺は何をしているんだろうか?

『佐倉あお先生』と、呼ばれて、はいと応える。

佐倉あおではないのに……

ニセモノなのに……

芥川賞作家の佐倉あお

それは、蒼真オレなのだと、兄は言う。

俺には才能があるのだと。

いや、それは全然違う。

なんでそんなことを言うのか理解できない。

自分の実力は、自分が1番わかっている。

俺には小説を書く才能なんて、そもそもない。

投稿サイトで6作発表したけど、ほんの数人程度にしか読まれていない。

目にとまらなかっただけで、素晴らしい作品だったって訳でもない。

だって、“”いいね“” も もらえないんだから。

タダで読めるのに……

うっかり、読んでしまったけど、面白くもなんともなかったって感じなんだろう……

そんな俺の作品が、佐倉あおの新作という謳い文句がついたら、100万部売れたのだから笑える。

1冊1400円もするその本を100万人の人が購入したんだ。

こんな、ド素人の小説をだ。

それは、佐倉あおの小説だからだ。

俺の実力で?俺の才能で?

違うだろ!!

全然違う。

佐倉あおの、それまでの5作品。

兄が書いたそれらが素晴らしかったから。

だから、読者はまた読みたいと、佐倉あおの作品に期待をして手に取るのだろう。

俺の実力で?俺の才能で?

もし、兄が本気でそう言っているのなら、買いかぶりにも程がある。

俺が、気の毒でお世辞で言っているのなら、

頼むから止めてくれ。

余計 惨めになるから……




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る