第12話 蒼也 佐倉あお なのは
俺はわかっていた。
蒼真に作家としての才能があることを。
いや、作家だけでなく、タレントとしてもやれるだろう。
持ち前の社交性と、華やかさは、女性を惹きつけるだけではなく、同性からも慕われ、可愛がられる。
俺とは大違い。
こんなにも姿かたちが似ていても、俺の中身は空っぽなんだ。
俺に、惹かれてくれる人なんて、誰一人いない。
7作目も、蒼真が書いてくれた。
玉響~tamayura~
蒼真なりに気を遣ってくれたのだろう。
なんて言うのか、俺が書いたような内容だった。
佐倉あお らしい……とでも言うのか。
せっかく、前作で過去の作品からの脱却って言われてたのを、なんでまた戻すのか?って思われそうなくらい、佐倉あお らしい作品だった。
これが、芥川賞に選ばれた。
そうか……
すごい!!やったな!!おめでとう!!
実の弟が芥川賞なんてとったら、兄は普通そう言って喜ぶのだろう。
俺が感じたのは敗北感だけだった。
いや、この敗北感は今更じゃない。
小さい頃からそうだ。
母は俺のことをよくわかってくれていて、何をやるにも、必ず蒼真と一緒だった。
俺は1人じゃ何もできないし、どこへも行けないから。
蒼真と一緒だと、新しいことでもなんでもできた。
蒼真は小さいのに、すごいなぁ……
それに引き替え、僕はなんてダメなお兄ちゃんなんだろう……
いつもそう思っていた。
敗北感……
そもそも、同じ
さすがに、芥川賞の受賞式を欠席するわけにもいかず、蒼真に行ってもらった。
佐倉あお として。
テレビや雑誌の取材も、蒼真にうけてもらった。
今まで、ほとんど顔出しNGみたいな感じだったから、俺ではなく、蒼真が佐倉あおとして出て行っても、誰も疑いもしない。
蒼真が顔出ししたことで、佐倉あおはまた一気に売れた。
過去の作品までバカ売れだった。
8作目は俺が書き、9作目は蒼真が書いた。
10作目は俺が書き、11作目は蒼真。
もはや、どんな物を出そうが、芥川賞作家の佐倉あおの新作というだけで売れるんだな。
佐倉あおは、俺だった。
だけど、芥川賞作家 佐倉あお なのは、
蒼真だ。
佐倉あおは、蒼真。
蒼真の方が、佐倉あおにふさわしい。
俺は……佐倉あお の お兄さん……
もう、俺は佐倉あおから離れるべきなんじゃないのか?
中身が空っぽの俺が離れようが、佐倉あおは
揺るがないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます