第11話 蒼也 書きたくない
小説家デビューしてからも、出版社の担当さんとは、電話かメールのやり取りで直接会ってはいなかった。
デビュー作の受賞式は、当日ドタキャンした。
実際、緊張しすぎて高熱を出して寝込んでいた。
コミュ症なので、と、顔出しの仕事はお断りしていた。
書いた原稿は、宅配便で当日着で簡単に送れたし、家で出来る この仕事は、自分にあっている。
そう思っていた。
6作目を書こうとしていた時、ふと、書きたくないなと思った。
なんで書きたくないのか、わからなかった。
ネタ切れしたわけではない。
書きたいと思って、構想を練っていた作品は何作かあったし、短編でもいいって言われているから、未発表の作品の中から1つを出してきて、ブラッシュアップしたっていいだろう。
だけど、そういうことではなくて、ただ単純に、書きたくないと思ってしまっていた。
それをそのまま蒼真に話した。
「わかった。兄さん、少し休みなよ」
優しく微笑んでくれた。
蒼真は、自分の部屋からノートを手に戻ってくると、
「佐倉あおの名を落としちゃうかもしれないけど、俺に書かせてくれない?これ、読んでみて!」
そう言ってノートを俺に手渡した。
『メイクひとつで変われるくらいなら』
素晴らしいと思った。
独自の視点とざん新な切り口。
冴えない少女の成長物語。
俺が見込んだ通り、蒼真には才能がある。
これは、佐倉あおの作品として出すのではなく、
桜森蒼真のオリジナル作品として世に出すべきだ。
俺は蒼真に何度もそう言った。
「兄さん、俺ね、兄さんとは違って 全然これっぽっちも才能がないんだよ。
でもね、小説は書きたくて、今まで書きためてきたから。
それが、佐倉あおの作品として日の目を見ることができるのなら、本望だからさ。
ただ、佐倉あおの読者には、こんな作品 受け入れてもらえないかもしれないけど」
発売と同時に話題が話題を呼んで、これまでの
佐倉あおの作品で最高の売上部数となった。
『佐倉あおの新境地!!』
『過去の作品からの脱却!!』
だそうだ。
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