第8話 蒼真  兄とオレ

 俺と兄の蒼也は、本当によく似ている。

見た目が。

中身は全然違うけど。

小さな頃から、1歳違いの兄は1番身近にいる

お手本だった。

だいたい、何か習い事を始める時には、2人一緒だった。

ピアノを始めたのは、兄が5歳で俺が4歳。

兄はどんどん弾けるようになったが、俺はまったくうまくならなかった。


兄が7歳、俺が6歳の頃、陸上教室に入った。

俺は、運動神経抜群だったし、小学校でリレー選手だったし、走るのは早いと思っていた。

だけど、一緒に走ってみたら、兄には全然追いつけなかった。

そのうち抜かすぞ!って思っていたけど、兄が小学校卒業で、陸上教室を辞めるまで、一度も抜かすことはできなかった。


小5と小4で、英語教室に入った。

英語は俺に合っていた。

コミュニケーション能力が高いから、平気で喋れる。

意味がわからない単語とかは、それなに?って聞き返せば、わかり易く相手が答えてくれるし。

これは、初めて兄よりすごいって褒められるんじゃないか?

そう思ったのが間違いだったと、すぐに気づかされた。

小学生の部だから、たいした内容じゃないんだけど と、兄は笑っていたが、英語論文コンテストというもので賞をもらった。

兄が書いた論文は『環境破壊による未来への危惧 』だそうだ。

1個上だから?

俺よりなんでもできて、当たり前なのか?

1年経って、俺が今の兄と同じ年になったって、きっと俺にはそんなものは書けない。

今よりもペラペラと喋れるようになるくらいだろう。


中学生になって、はっきりとテストの点数で比較できるようになった。

改めて、兄は優秀な人なんだとわかった。


優秀だけど、人とかかわるのは苦手な感じ。

家で1人で机に向かっている時間が長かった。

高校受験が終わった頃からか、勉強ではなく、何かをノートにひたすらに書いていた。

「何を書いてんの?」と、聞くと

「小説……みたいなものかな?」

と、兄は答えた。


兄が、大学1年の夏に、小説のコンテストに応募してみようと思ってると言った。

今まで書きためていたものの中から、今回の募集要項に当てはまりそうなのが2つあって、どちらを出そうか迷っているから、俺に決めてくれと言った。

兄の書いた小説を初めて読ませてもらった。

衝撃的だった。

2作品で迷っていると言ったのに、片方を読み終わって、俺はマシンガンのように喋りつづけた。

この作品を出すべきだ!!と。

この作品がどんなに胸に刺さったのか、本当に興奮して喋りまくった。


『冬枯れの景色』


コンテストで優秀賞を受賞して、これが兄、

“”佐倉あお“” のデビュー作になった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る