死の淵で償いのための再戦を、道士と剣士の重厚な中華バディブロマンス!

古代中国で魘魅蠱毒、つまり呪術は常に王朝の脅威としてあり、実際に呪術を行った者に厳罰を与える律令まであった。
この作品の王朝も呪術によって生まれた血塗られたもので、主人公は皇帝のため影で呪殺を行う暗殺集団の道士だ。

確かな教養と豊富な語彙で作られた中華ファンタジー風世界は、隙のない重厚さで、制度から市井の風景ひとつまで雰囲気たっぷり。
ただ美しいだけでなく、さらっと血生臭く殺伐とした古典中国文学らしさもあるのが魅力的だ。

儒教的な縦社会で生きてきた道士は年下の人遣いが荒い、武侠に生きる剣客は義を持って接してくれるがひとたび敵と分かれば一転して牙を剥く……など人物造詣も、しっかりと世界観に根付いたものなのがすごい。

死期を悟った物静かな年上に見えて意外と向こう見ずな道士・夜静と、思い切りも面倒見もいく快活だけど汚れ仕事も手慣れた剣客・洛風のコンビがとてもいい。
お互いに信頼も秘密もあり、この先関係がどう変わっていくのか予測がつかないのも楽しみだ。

そして、物語を突き動かす死者蘇生の禁術。
あるときは、自身の所業に疑問を持つきっかけとなった故人の姿を取り、傲慢で蒙昧だった過去の自分と重なり、死霊たちはふたりの旅路に影を落とす。

死を待つだけだった道士にボロボロの身体を引きずってでも奮起を促す一連の事件は、それ自体半分死者だった夜静への"反魂"かもしれない。

苛まれ、酷使され、それでも歩む中に新たな繋がりが育まれる。
陰と陽、死と生、両岸を行き来する物語。良質な伝奇で、本格中華ファンタジーで、探偵小説で、バディブロマンスです。

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