暗殺によって玉座を奪った皇帝の統べる国の奥地には、呪術を扱う道士たちの暗殺集団が存在していた。ひとりの暗殺者は部下の死から脱退を決意し、舞い戻った都で、自身の呪術が何者かに悪用されていることを知る。彼は偶然巡り合った剣客と共に、死期の近い体を抱えて事件の究明に挑む。
確かな知識と流麗な語彙で作られた中華風の世界観だ。重厚だが簡潔でわかりやすいため、中華ファンタジー好きは勿論、普段馴染みのない読者でも楽しめる。厳格な儒教社会や、血塗られた歴史と隣り合わせの殺伐とした雰囲気が根底に覗く人物造形も上手い。
また、薄幸で大人しそうに見えて命知らずな道士と、気風のいい兄貴肌だが血生臭いことにも慣れた剣客のコンビも魅力的だ。彼らは信頼しつつも互いに秘密を抱え、薄氷を踏むような危うい関係でもある。ブロマンスとしても、探偵小説としても楽しめるが、やはり注目すべきが因と縁が折り重なるホラーの部分。反魂の術を巡る事件は、奥に秘めた悔恨や咎も暴き出す。
生者と死者の安寧を奪った者の償いの行脚の先にあるのは、報いか許しか。今後も目が離せない。
(「ホラー×〇〇」4選/文=木古おうみ)
古代中国で魘魅蠱毒、つまり呪術は常に王朝の脅威としてあり、実際に呪術を行った者に厳罰を与える律令まであった。
この作品の王朝も呪術によって生まれた血塗られたもので、主人公は皇帝のため影で呪殺を行う暗殺集団の道士だ。
確かな教養と豊富な語彙で作られた中華ファンタジー風世界は、隙のない重厚さで、制度から市井の風景ひとつまで雰囲気たっぷり。
ただ美しいだけでなく、さらっと血生臭く殺伐とした古典中国文学らしさもあるのが魅力的だ。
儒教的な縦社会で生きてきた道士は年下の人遣いが荒い、武侠に生きる剣客は義を持って接してくれるがひとたび敵と分かれば一転して牙を剥く……など人物造詣も、しっかりと世界観に根付いたものなのがすごい。
死期を悟った物静かな年上に見えて意外と向こう見ずな道士・夜静と、思い切りも面倒見もいく快活だけど汚れ仕事も手慣れた剣客・洛風のコンビがとてもいい。
お互いに信頼も秘密もあり、この先関係がどう変わっていくのか予測がつかないのも楽しみだ。
そして、物語を突き動かす死者蘇生の禁術。
あるときは、自身の所業に疑問を持つきっかけとなった故人の姿を取り、傲慢で蒙昧だった過去の自分と重なり、死霊たちはふたりの旅路に影を落とす。
死を待つだけだった道士にボロボロの身体を引きずってでも奮起を促す一連の事件は、それ自体半分死者だった夜静への"反魂"かもしれない。
苛まれ、酷使され、それでも歩む中に新たな繋がりが育まれる。
陰と陽、死と生、両岸を行き来する物語。良質な伝奇で、本格中華ファンタジーで、探偵小説で、バディブロマンスです。