010ある養子と…?/今後の下準備

  マカミ領で生活して四週間後。ひとまず、この屋敷内にいる人間全て<鑑定眼A>でステータスを確認した。全然帰ってこないヤマトの爺さん、メイジャーさんをはじめとする何人かは<情報隠蔽A>以上のスキル、もしくは『欺瞞の首輪』みたいなアイテムを持っているようで、彼らのステータスを見ることは出来なかったけど。

  そこは多分、魔力と耐魔の数値が負けているからだと思う。スキルレベルが同数だった場合、均衡を崩すのはステータス数値だ。レベル4の俺が勝てる訳がない。今のところは…警戒していた『欺瞞の首輪』の効果を貫通するスキルを持っている人間は、ほぼいないと考えていいかもしれない。

  だけどダグラス・ナイトレイの固有スキル<鑑識眼>もあるし、いずれ俺が転生者だと看破する人間が現れるだろう。あまり『欺瞞の首輪』を過信しない方がいい。念のため他人に<鑑定眼>を使用された時に表示する、偽のデータは義理の姉…テューラ゠ナラのステータス数値を参考に、彼女より低めに設定してある。


「うん、身体に異常はないみたいね」


  目の覚めるような赤い髪。その色は一度見たら忘れられない。定期的に顔を出しにくるアンナ・リードさん。今日も俺の健康状態をチェックしに、ヤマトの爺さんが所有する屋敷へやって来た。彼女の兵種は医療術士ドクター。診察中はやることがないので、ちょっと<鑑定眼>でスキルを見させてもらった。

  ふむふむ…<調合>もあるのか。これからレベリングで山籠もり的なことになるかもだし、回復薬を自力で作れるようになった方がいいかな?パーティーを組めるようになったら、そういうのは回復職に任せるんだけど…うーん…一旦保留にしておこう。


「うーん…同い年の子の平均より、身長と体重の数値低いのが気になるところだけど…これからの食事で巻き返せるはずよ。消化機能も回復しているし、栄養価の高い食材を口にしても大丈夫そうね」


  そうそう、引き取られたばかりの頃はお粥が主食だった。因みにリードさん…もうアンナさんでいいか。彼女の言っていることに間違いはない。悲しいことに推し(十歳のすがた)より俺は背が低いし、テューラ゠ナラにも負けている。


○わんわん❘いっぱい食べろ

○猫ですよ❘これからよ

○ぴょん吉❘筋肉つけろ

○お揚げ君❘男児なんてそんなもん

○七つの子❘今のうちに沢山食べな


  うわーん!絶対二人より大きくなってやるからな!!


「そういえば女中さんから聞いたけど…アシュレイ君、好き嫌いはダメよ~」


 彼女の言葉に、俺は目を逸らす。


「ネギも美味しいんだから」

「でも辛いし…匂いが…」


  自動再生される神様達の声で「スキキライはダメよー」「農家に謝れ」「豊穣の化身に土下座しろ」と御叱りと抗議が続く。好き嫌いは良くないのは解っている。だけど、苦手なものは苦手なんだよ!


「あら? もしかして生のまま出されたとか…? ええっと、ふむふむ…昨日の昼食はソバ……薬味で出て来たのね。じゃあ、加熱してもらいましょ。熱処理をすれば苦みも和らぐからね」


  もともと味覚が鋭い子なのかしら…ブツブツと何か言っている。アンナさんは知らないか。奴隷時代の俺が何を食べて生き延びていたのか…それは言わなくていいな。複雑な空気になるのは目に見えているし。


「これから沢山、美味しいものを食べて元気に育ってね」


  もう君は奴隷じゃない…そう伝えたいのだろう。何も言わず、ただ黙ったまま頷いた。


◆◆◆


「今日はギルドで冒険者登録をして貰おうと思ってね」


  屋敷内の、とある一角。そこに呼び出された俺を待っていたのは、ダグラス・ナイトレイだった。白いシャツに紺色のベスト。凄くシンプルな服装だ。初めて会った時と違う服装だけど、腕章は変わらない。あれは竜魔導機兵ドラグーン部隊の階級を示すもの…なんだろう。


「これから先、君はマカミ領から出ることがあるだろう。そのために下準備をしなければならない」


  右手人差し指を天に向け、そのまま唇に当てて微笑む。《風妖精の鳥籠シルフィード・ケージ》が発動。俺とダグラス・ナイトレイのいる部屋を、透き通る風の色が包み込む。盗聴対策は徹底…なんだけど


「発言よろしいでしょうか…?」

「……そんな囚人みたいに言わなくても」


  どうぞ、と片手でジェスチャーされる。


「今の術式……効果、ありますよね?」

「ええ」


  さらりと答える。何だ、その「今日も良い天気ですね」みたいなニュアンスは


「やっぱり殺す気じゃないですかー!やだー!!!」


  急いで壁際まで後退し、術式で覆われた扉を両手で叩く。非力な少年の腕力では敵わないことなどハナから分かっているが、今はオーバーなアクションを取ってでも相手の非道さを訴えたい気分なのである。


「いえいえ、窒息させる効果もありますが発動のタイミングは選べるので」


  うおおおおおおおお今回も発言次第では秒で御命頂戴コースかよ!!!


「……ん? あれ、でもダグラスさんも入っていますよね?」

「? ああ、そういえば君のスキルでは全て閲覧できませんでしたね」


  ダグラス・ナイトレイによる魔導講座が始まった。魔導による術式はスキル同様に、打ち消せるものがある。例えば<気配察知C>と<気配遮断D>では、ランクの高い術式が貫通。つまり<気配遮断D>を発動させても、<気配察知C>持ちには無意味。それは俺が警戒している<鑑定眼A>持ちみたいなものだ。


「ダメージを軽減できるスキルがあるのですよ。物理攻撃ならば物理軽減、物理半減、物理無効。魔導攻撃なら…緑魔法で例えるなら、緑魔軽減、緑魔半減、緑魔殺し、緑魔無効……ですかね」

「へー、すご…」

「ただしスキル取得条件があるので、今の君では無理ですね」

「ええー…」


  まあ、そりゃそうだよな。初手いきなり物理無効なんて取得できたら、ゲームバランス崩壊まっしぐらだし。嫌すぎるな…物理無効村人とか…


「我が妹が破滅の未来を迎えるのは、まだ先。すぐにでも手を打ちたいところですが…君の知っているゲームとやらを考えるに、下手に動くと君の知る可能性が高い。それでは対策も取りにくいでしょう」

「えっと……未来予知スキルを持っていても、ってことですか?」


  ダグラス・ナイトレイが眉を下げた。時間という大樹、そのから伸びる無数の枝が「もしも」の未来。どの枝が折れるのか、どの枝が一番伸びるのか。それは俺たちにも分からない。スキル<未来予知>は自分がいる時間軸に最も近い範囲のみ観測できるそうだ。

  俺にとって分かりやすい例えは何だろう?頭を傾けていると神様が話を振ってくれた。天気予報。一週間までなら”ほぼ”予測を立てられるが、一か月、一年後…そのぐらい遠い未来までは難しい。現在から離れれば離れるほど、当たる確率も下がっていく。

  つまり今いる位置から離れた場所にある、可能性を予知することは出来ない。仮に見えたとしても、あるかもしれない未来…の一つみたいなものか。でも何で遠いエイルの運命が見えたんだ…?その疑問が顔に出ていたのか、ダグラス・ナイトレイの眉間に小さな皴が寄る。


「申し訳ありませんが詳細は言えません」


  流石に企業秘密かー、と文字が流れた。


「なんか…未来予知って、自由自在に使えないんですね」

「それは君の固有スキル、生存本能にも穴がある。完全無敵なスキルなど存在しません」


  今さらっと怖いこと言わなかった?


「では、本題に入ります」

「さっきの何ですか」

「今後のスケジュールについて話し合いましょう。今の君に出来ること、しなくてはいけないこと」

「スルーされた!!?」

「すぐにも我が隊へ入ってもらいたい…のですが、年齢制限と必須スキルがあってね。そのためにも研鑽して欲しい」

「え…? はいはい!質問!!」

「どうぞ」


  血相を変えて挙手する俺の姿を見て、神様たちが「授業参観で背後に母親がいると気付いた小学生」と言っている。何なの例え


「エイルはどうなんですか、ほぼ俺と同い年じゃん!?」


  ダグラス・ナイトレイが目を逸らした。


「……本当は私も入隊を反対したのだけど、決定権は上が持っていてね」


(どういうこと?)

○猫ですよ❘オイオイネー


「じゃあ…必須スキルはクリアしているから、特例ってことですか」


  神妙な面持ちで頷くダグラス・ナイトレイ。本人も不服なのか…それとも兄心から来るものなのか。妹を危険な目に合わせたくないのは本心なのだろう。女の子がテストパイロットに選ばれるって、どういう流れなんだろうな?体重が軽いから?おっと、今はそれどころじゃない


「……入隊条件を教えてください」


  今は追求しない方がいい。ダグラス・ナイトレイも俺のことを、そこまで信用していないはずだ。仮にエイル・ナイトレイのことが機密事項なのならば、うっかり口を滑らせかねない年頃の子どもになんて開示する訳がない。これ以上突いても話さない、それを察した相手に向かってダグラス・ナイトレイが微笑を浮かべた。


「年齢13、騎乗スキルD、術式解析、そして術式介入。後者二つはランクに指定はありません」


  おお、どれもリカルドさんが持っていたスキルだ。そりゃそうか


〇お揚げ君❘術式解析と介入って?

〇お揚げ君❘何で必須なの?

○猫ですよ❘術式=コードだからね

○猫ですよ❘プログラミングで要る

○猫ですよ❘技術みたいなものかな…

〇わんわん❘要はハッキング系

〇わんわん❘相手の術式対策で必須


  ほーん? 竜魔導機兵ドラグーンは魔法ぶっ放すロボ同士の殴り合いみたいなもんだしな…怪鳥フラリ戦みたいに、物理と魔法を織り交ぜた戦闘だったし。というか剣と魔法の世界なのに、ロボットが浮いてねーか?


「では取得可能スキルの一覧を確認、術式解析と術式介入を…………おや、その表情から察するに今は取得できないのですか?」


  ウィンドウを開きかけた俺は固まる。このタイミングで開くと、今のステータスがダグラス・ナイトレイに丸裸なんだよな…


「………えっと、SPが足りなくて」

「おやおやおや……十分余裕があるように見えるのですが?」


  やっぱり鑑識眼ズルッッッ!!!!!!仕方ない、ここは素直に話すか…


「そ…そうなんですけど、なるべく早く情報隠蔽Aを取得しろって言ったの、ダグラスさんじゃないですか!!」

「しかし取得できるスキルポイントは、我々よりも多いはず」

「まだレベル一桁なのに、いきなり高ランクなスコア持っていたら怪しまれますって!?」

「…………ああ、隷属の首輪を無効化する人間を警戒しているのですね?」


  俺が何に対して警戒しているのか察した。優雅に手を組み、にっこりを微笑む。


「その魔導具は簡単にステータスを開示させません。記録した偽の情報を敢えて出す、そう説明したでしょう?」

「で、でも…どのランクまでがボーダーラインなのか」


  ダグラス・ナイトレイの眼が瞬き、じっと俺を見つめる。


「もしやと思いましたが……スキルのセーフティが掛かっているのに、気付いていないようですね」


  セーフティ?何が何だか分からないまま、ダグラス・ナイトレイの言う通りにステータス画面を触っていくと、

___________________________________________

▽警告:スキルセーフティ解除に伴い、

 対象の脳に多大な負荷が掛かります

 そのため完全解除ではなく、一時的な

 セーフティ緩和として処理されます

▽一時的にスキルセーフティを解除しますか?

 yes←

 no


▽一時的にスキルセーフティを解除します









▽スキル〈鑑定眼A〉により、

 アイテム『欺瞞の首輪』の鑑定結果が出ました


『欺瞞の首輪』

魔導具ランクB

サイズ:約1.7ⅽⅯ 首回り:約20~33ⅽⅯ

総重量:約15G  材質:革、金属、魔鉱石

カラー:ブラックレザー、シルバー

解除不可/換金不可/??不可

 錬成に必要なスキルを所持していないため

 アイテムの強化が行えません


効果

・装着時、対象のステータス情報を偽造

 エネミーによるスキル<鑑定眼>で

 得られる対象のステータス情報を偽造

 自身の魔防がエネミーの魔力よりも

 低い場合、この効果は発動しない


・装着時、対象のレベルの偽造

 エネミーによるスキル<鑑定眼>で

 得られる対象のレベルを偽造

 自身の魔防がエネミーの魔力よりも

 低い場合、この効果は発動しない


・所持スキルのランクを偽造

 エネミーによるスキル<鑑定眼>で

 得られる対象の所持スキル、

 所持しているスキルのランクを偽造

 自身の魔防がエネミーの魔力よりも

 低い場合、この効果は発動しない 


・混合魔法 高位術式による自爆効果

 【閲覧規制】


生成時に必要な素材

・怪鳥フラリの卵

・魅女ヒノマエンの??

・妖鬼ヌーリヒョンの??

・惑獣ヌイノの??

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  どわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?!?!


「いくら鑑定眼Aを所持していても、まだ君は子どもだ。莫大な量の情報を処理できる脳ではない」


  いつもより情報量が多いのにも驚いたが、それ以上に突如襲い掛かってきた激しい頭痛に思わず悲鳴を上げる。目が痛い!!何だこれ!?頭の内側から無数の釘が打ち破るような痛みなんだけど!!?畳の上で転げ回る俺をよそに、湯飲みを手に取るダグラス・ナイトレイ。用意されたお茶を優雅な動作で飲んでいるのが腹立つ。


〇わんわん❘なるほど

〇お揚げ君❘ソフトとハードが

〇お揚げ君❘噛み合っていない例

〇七つの子❘処理落ちしとる…

〇猫ですよ❘あんちゃん大丈夫!?


「…クソ痛ぇ…………でもアイテム効果が詳しく分かった…」

「君に欺瞞の首輪を渡した理由は色々ありますが、ランクの高すぎるスキルを持っている=転生者と見なす人間が多いですからね。本来ならば成熟しきっていない肉体で、ランクA級のスキルを使用すればダメージが発生するもの。君が受けた痛みがそれです。鑑定ですからね、脳と眼球への負担は凄まじいものでしょう?」


  我々の世界に於いて、幼い子どもが高ランクのスキルを所持していない理由でもあるのですよ。続けられたダグラス・ナイトレイの言葉に頷くしかない。なるほど、スキル使用時に掛かる人体への負荷。それに耐えられる肉体へ辿り着いていない年齢では厳しい。というか内臓にまでダメージあるとか聞いてねえよ…

  これはコントローラーを握るだけのプレイヤーには分からないだろう。設定資料にあったかな…思い出せないな…というか、ダグラス・ナイトレイはどうなんだろう?固有スキル<鑑識眼>。それを生まれた時から所持している彼の幼少期は…たぶん、俺の想像以上に厳しかったと思う。


「ちなみになんですけど、アシュレイ君」

「あい?」

「君が取得しようとしているのは、情報隠蔽Bかな?」

「…………その通りです」

「ふむ…いい判断ですね。君のステータスを見る限り、どうやらレベルが1上がるたびに最低でもスキルポイントが500入手できるようだ。早急に対策を取ろうと努力していますね」

「個人情報ぉ!!!!!」


  反射で叫ぶことが出来る余裕ができた。あの激しい頭痛も、少しずつ治まってきたようだ。うええ…読み取れる量って、あんなに違うのか……だけど今のままじゃ人体へのダメージもセットだし。文章だけじゃなくグラフや画像もセットなのは正直ありがたいんだけど、脳の処理が追い付けなくて知恵熱でそう。

  ん?ということは……普段からセーブされていたのか。奴隷時代の俺も必要な時だけセーフティ緩和していたのかもしれない。どうするかな。戦闘時にエネミー…倒さなきゃいけない相手の情報は多い方が良い。だけど人体へのダメ込みだと隙を付けれて最悪死ぬ。うーん…………保留にしよう。


「一気に情報隠蔽Aまで取得しても問題ないと思いますが?」

「いや…まだ屋敷の外に出られないし……モンスターとか倒せられないから、経験値そんなに稼げないし…」


  仮にレベルが1上がるごとに、SPを500ゲットできるとする。<情報隠蔽A>を入手するには1800必要だ。ちょっと余裕を持たせたいのもあり、急いでレベル6にならなくちゃ………なんだけど。ここに来てから一週間は過ぎたけど、未だにレベル1しか上がっていないのだ。


「おや? スキルを使用した時にも経験値は入るのですよ」

「え?」


○猫ですよ❘あんちゃん、あんちゃん

○猫ですよ❘実績、見てないのあるでしょ


  そういや読んでいない実績情報あったな…ダグラス・ナイトレイの前でウィンドウ開くの嫌だけど今は見るしかねえ…


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▽実績『初めてのレベルアップ』により、

 対象者の前世情報が一部公開されました。


レベルアップ


 『ドラグーンズ アクシアⅦ』及び『Re:turn of DRAGOON'S AXIA Ⅶ』では、①モンスター、エネミー撃破時にもらえる経験値によるレベルアップと②スキル使用回数によるレベルアップ、③武器使用回数によるレベルアップ、この三つでプレイヤーはレベルの上げることが可能。尚取得できる経験値の多さは①>②≧③である。


①モンスター、エネミー撃破の経験値

 出現するモンスター、敵対キャラクターとの戦闘に勝利した時のみ獲得できる経験値。この経験値は②と③とは異なり、モンスターやエネミーとのレベルの差が大きければ大きいほど獲得できる経験値数が多い。(無論、倒す相手のレベルがプレイヤーより高い場合を指す)逆にレベルの低いモンスターから得られる経験値は少ない。

 他にもパーティーによるレイド戦では、ボスエネミーを倒したキャラクター(※討伐者)、サポートしたキャラクター(※討伐補佐)に其々経験値が割り振られ、パーティーメンバーにも経験値が入る仕様となっている。(中略)この時に獲得できる経験値数は、討伐者>討伐補佐>パーティーメンバーの順に高い。


②スキル使用回数

 各スキルに自体にレベルが存在しており、特定の使用回数に達成するごとにランクが上がる。(例:剣術Fで敵を10体撃破→剣術E)尚リメイク版では使用回数が倍増となり、とくにスキルランクB、A、Sまで必要な使用回数が段違いなので、原作版感覚で進めると育成チャートが間に合わないため注意すべし。

 因みに魔導、術式も②に該当する。赤魔法・青魔法・黄魔法・緑魔法。この四つは原作同様に使用回数で経験値が溜まるが、白魔法・黒魔法・■■■、この三つのみ獲得できる経験値が少なく、ランクアップに必要な経験値数が異常に多い。これは二周目対策ではないか?とプレイヤー間で噂されている。


③武器経験値

 こちらは『ドラグーンズ アクシアⅡ』から導入された経験値取得方法。剣・槍・弓・斧、近接戦闘武器、盾といった攻撃手段だけでなく、杖も該当する。これは回復職・後方支援役のレベル上げが間に合わない、なかなか経験値が溜まらずベンチ入り…そういったケースが多かったのか、開発陣が救済措置として導入したらしい。


 どうしてレベル上げに必要な経験値獲得方法が三つもあるのかというと、初代『ドラグーンズ アクシア』があまりにも鬼畜使用(総合能力を鑑みて、特定の兵種しかラスボス戦に向いていない)(回復職のレベル上げがシビア)(そもそも次の戦闘パートまで確保できるレベリング時間が少ない)だったからである。

 しかし『Re:turn of DRAGOON’S AXIA Ⅶ』の女主人公は■■■系の固定職であるため、レベル上げに間に合わず最終決戦でベンチ入り…という、とんでもない状況が発生。『ドラアクシリーズ』界隈のRTA走者も、ほとんど男主人公を選択し、回復職キャラを捨てている模様。


  これを受けて開発陣営はレベルアップ方法を追加。後方支援職、及び非戦闘員救済処置は続く『ドラグーンズ アクシアⅢ』以降も継承されていった。しかしリメイク版では要求される経験値数が倍となっており、更に無限経験値稼ぎ対策として各マップに出現するエネミーの数が調整されたようだ。

  また加入キャラクターである村人・奴隷の固有スキル<良成長補正>によって、主人公よりも強くなってしまうキャラクターが出てきた。良く言えば初期ステータスが低くても、育成を頑張れば誰でも輝ける環境になった。ゴリ押しプレイの例として真槍の令嬢をはじめ、殴殺聖職者や暗殺しない暗殺者などたびたびネタにされる。

  リメイク版でも特定の戦闘パートで編成制限が設けられるため、好きなキャラクターばかり育てていると痛い目を見るのは最早シリーズ恒例行事であろう。とはいえドラアクシリーズに登場するキャラクターは総勢400近くを越え、推しを強くしたい層にとって三つのレベル上げ方法は有難いシステムである。

  

___________________________________________


  …なるほど、全然レベルが上がらない訳だ


「自分自身に鑑定を行う、身近にある無機物へ鑑定を行う…動き回るエネミーに鑑定を行うのは次の段階ですね。普通は」


  最後に添えられた一言、短い単語に込められた声音が冷え切っていて怖い。いやアレはアンタの策略でしょうが!?俺だって初戦の相手が巨大エネミーとか思ってもいねえし!!?でも逆に、初めて戦った相手がフラリで良かった…図体デカくて見失うのが逆に難しいレベルだし。


「話を戻しましょう。君が付けている魔導具、欺瞞の首輪は誰も君の本当のステータスを見ることは不可能です」

「………今後は誰かが看破する、ってことですよね」

「そうですね、ステータス数値に左右されますが鑑定眼Sなら見破るでしょう。しかしながら通常のレベリングでは、ランクSまで到達する者はいません」


  序盤はレベルが1上がるごとに、SPが10配布される。レベル10、レベル20…と特定のレベルに到達すれば取得するSPの量が変わる仕様だ。確か50から跳ね上がるんだっけ?あとで神様たちに確認するか。と、その前に


「質問、こちらの世界では取得SPを増やすスキルを持つ人間はいますか?」

「いません」


  バッサリと切り捨てられて思わず目を丸くする。いや待って、おかしくない?


「俺が持っているのなら、スキル一覧にもあるはずでしょ!? というか誰だって真っ先に取得したがるスキルじゃん!!」

「アシュレイ君」


  ゆっくりと左右に首を振り、神妙な面持ちでウィンドウへ指差す。口で説明するより、見た方が早いらしい。


___________________________________________

取得SP数上昇

ランクなし

 解放条件

 ・特定のスキルを所持

 【閲覧規制】

 【閲覧規制】

 【閲覧規制】

 ・上記のスキルのランクが

  全てA以上に達した時のみ解放

 必要SP数

 ・2400

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  思わず硬直してしまう。誰もが欲しがるスキル…簡単には手が出さない代物らしい。それを転生ボーナスとして引っ提げてきたのだ。なるほど、ダグラス・ナイトレイが警戒する訳だ。異常なモノを見る目だったのも、嫌でも納得する。レベル一桁代だから接触してきたのだろう。今なら楽に殺せるからな。

  これからレベルアップするたびに手が付けられない化け物に進化する、そういう認識で見られているんだろ?その気は無いけど、ダグラス・ナイトレイと敵対するのは極力避けよう。緑魔法・高位術式≪風妖精のシルフィード・鳥籠ケージ≫の中にいる今、俺という転生者を生かすも殺すも彼次第なのだから。

  神様曰く、マカミ領はゲームの序盤でプレイヤーが駆け抜けるエリア。ということは此処にいる人間も、徘徊するエネミーもレベルは高くない。だけどダグラス・ナイトレイをはじめ、部隊に所属する人間は例外。あまり気を緩めない方がいい。そして、俺が最も警戒すべきなのは――


「では、そろそろ行きましょうか」


  その一言と同時に、廊下の向こうから彼の名前を呼ぶ声が聞こえた。≪風妖精のシルフィード・鳥籠ケージ≫を解除し、外に出るようダグラス・ナイトレイが促す。ギルドへ向かう馬車の準備が終わったのだろう。すぐにでもレベルを上げたい身なので、拒否権などない。


〇お揚げ君❘ずっとダグラスのターンだな

〇七つの子❘そうだね

〇七つの子❘主導権を握られっぱなし

〇ぴょん吉❘仕方ないだろ

〇ぴょん吉❘敵対√トップのキャラだぞ

〇わんわん❘作中随一の知将だからな

〇猫ですよ❘郷に入っては郷に従え

〇猫ですよ❘この世界のルールに従おう

〇ぴょん吉❘だな

〇ぴょん吉❘今はダグラスに従うしかない

〇ぴょん吉❘じゃないとあんちゃんが死ぬ


  そういえばと歩きながら、ふと顔を上げる。あれから俺はエイル・ナイトレイと会っていない。屋敷のある島…島なのかイマイチわからないけど…ここからウシオ島まで結構距離がある。まだ自由に行き来する許可を貰えていないので、俺から彼女のもとへ会いに行くことは出来ない。

  今頃エイルは何をしているのだろう。水面下で彼女を愛する者たちが、必死になって運命を変えようと足掻いている。そのことをエイル・ナイトレイは…知らないはずだ。このまま何も知らないまま、普通に生きて欲しい。推しの幸せは俺が護る。そのためにも、もっと強くならなくては

  

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