011ある養子と…?/機士と冒険者の軋轢

  道中、俺はダグラス・ナイトレイに気になることを尋ねた。もちろん防音術式を張り終わったのを確認してから。


「何でギルドに登録しなくちゃいけないんですか? 普通に旅して、普通に冒険するもんじゃ…」

「実績のある人間、実績のない人間。どちらの方が信頼を置けるかな?」


  返された言葉にぐうの音も出ない。穏やかな微笑を浮かべたまま、ダグラス・ナイトレイが続ける。


「いるんですよねぇ…勝手に村へ入り浸り、俺たちが護ってやっているんだと好き勝手に暴れる山賊崩れが。もしくは無断で関所を作り、通行料として身包み全て剥ぎ取る盗賊とか。または何の変哲もない石ころを魔鉱石と偽り、知識のない相手へ売り捌き金を巻き上げるクズとか。そういう輩に限って力を持っているから余計に質が悪い。戦いに慣れていない村人では追い出すことも出来ず、ずっと寄生されて一方的に搾取される側となる」


  一気に言われて困惑を隠せない。過去に何かあったかのような口ぶりである。もしかして駆け出しの頃、散々な目に合ったのかな…


「つまり…もう一つの身分証?」

「ええ、ギルドに加入するということは己の身分を確立させること。素性の分からぬ者に護衛を任せられますか?出来ませんよね。ギルド側もブランドに泥を塗るような輩は即刻解雇か、斬り捨てるなど対処は幾らでもあります」


  それと、人差し指を天へ向けて一度区切る。


「ギルドを通して、この世界のルールを知るのもいいでしょう。マカミ領も狭くはありませんが…やはり多くの地を渡り、知見を広めるのが最善」


  郷に入っては郷に従え、付け加えられた言葉とともに真っすぐ俺を見る。ぽかんとした顔で見つめ返す姿に、ダグラス・ナイトレイが思わず苦笑を漏らす。


「レベル上げをしたいのでしょう?」

「えっ、あ、はい」

「ならば警告しておこうか。


  足を組み直し、説明に入る。


「我が浮島諸侯同盟でギルドが誕生したのは、星歴678年。それまではギルドという概念が存在しなかった。隣接…していた王国内領土、とある酒場でギルドという冒険者組合を立ち上げた者が現れ……我々浮島諸侯同盟でも設立されました」

「もしかして…転生者が?」


〇ぴょん吉❘ということは

〇ぴょん吉❘時系列はⅥか

〇わんわん❘データ破損しているから

〇わんわん❘Ⅵ転生者の動きが分からん

〇ぴょん吉|使えねえな

〇わんわん❘あ゛?

〇ぴょん吉|アァン?


  喧嘩しないでくださーい


「公式記録で確認された転生者の数は、6人。しかし表に出ることのなかった転生者の数は四桁と言われています」

「多っ!?」

「歴史の闇に埋もれ消えた転生者達……彼らの行動は、山賊・盗賊・海賊・野盗ととして記録されるケースが多い。我々のルールを守らず、利己的に動き、私利私欲のために力を振るい――賊として処刑された」


〇七つの子❘あ、あー…

〇猫ですよ❘海外や修学旅行先で

〇猫ですよ❘はっちゃけるタイプ…

〇わんわん❘後先考えずに行動して

〇わんわん❘周りの目に気付かずに…

〇お揚げ君❘だから此処の異世界人、

〇お揚げ君❘既にヘイト値が高いのか


「自由の象徴である冒険者。しかし、秩序がなければ賊と同じです。暴力を振るい恐怖で支配するなど、あってはならないこと。だからギルドというルールが必要なのです」


  ……これが好き勝手に動き回っていた先輩転生者達のツケか。何て言うか迷惑というより、哀れみが先に出て来るな。名を遺すこともなく、賊として消されるなんて。


「さっきの…闇雲に魔獣を狩るな、も?」

「その通り。ギルドでは討伐対象の魔獣、その一部を持ちかえれば換金できるシステムもあります。ですが金欲しさに必要以上に狩る者が現れた。あまり乱獲すると、魔獣の数が減るし…適正価格が変動するからね。君が今装着している『欺瞞の首輪』に使用されている、怪鳥フラリの卵が良い例だ。制限をかけないと魔獣が絶滅してしまう」

「……それも、転生者が?」


  ええ、短くダグラス・ナイトレイが答える。何やってんの先輩転生者ァ!!!


「ジェムラッシュ、海獣狩り、第三次ドラゴンスレイヤー大戦…公式、非公式記録の転生者が関わった事例で有名なのは、このあたりかな?」


○ぴょん吉❘Ⅳ~Ⅴ事案じゃん

(何、何?)

〇わんわん❘海獣はⅡか、

〇わんわん❘あそこ海がメインだし

○猫ですよ❘ドラスレはⅥ確定だよね

○ぴょん吉❘素材が美味しいからなー

○猫ですよ❘逆鱗ドロップ渋い

○ぴょん吉❘雷刃竜ヤバかったな…

(何????)

○わんわん❘要は飛竜狩りだな

〇お揚げ君❘ジェムラッシュは?

〇猫ですよ❘Ⅳも後半関わっているよね

〇ぴょん吉❘そ、Ⅳ~Ⅵは地続き

〇ぴょん吉❘というか同じ大陸だし


  ダメだ、過去作は全く思い出せない。エイルに関する記憶しか出てこないのって、こういう時は辛いな…あとで神様たちに教えてもらおう


「――ちょうどいいタイミングですね」


  す…と音もなく右手の人差し指が外へ向けられる。指し示す方向へ視線を向ければ、窓の向こうに海が広がっていた。海…いや巨大な湖か?反対側の岸が全然見えないな。


「あれ、何だと思います?」

「海…それか湖じゃないんですか?」

「そうですね…湖と呼ばれていますね。、ですが」


〇ぴょん吉❘自然発生じゃないのに湖とは

〇お揚げ君❘人口なら池じゃね?

〇猫ですよ❘でも水深5m以上ありそう


  神様のチャット通り、かなりの深さがある。水没した大樹、巨大生物の骨…草木に覆われているから、相当な年月が経っているんだろう。老朽化した槍が風に揺れ、ボロボロの旗が微かに動いた。しばらく眺めていると湖が揺れ動き、三角形っぽい何かが顔を出した。

  それは水面を切るように走り、水中の魚を捕食している鳥へ真っすぐ向かう。鳥…といっても、この距離で見えると言うことは相当デカいはずだ。謎の三角形は一度沈み、僅かな沈黙の後――姿を現した。唖然と見上げる俺。下手したら竜魔導機兵ドラグーンより巨大な魚が逃げ惑う鳥たちを丸呑みした。


「デッッッッッッッッッッ」

「昔、列強諸国の侵攻を許してしまったことがあってね。その時に食い止めた転生者が放った術式で大穴が空いたんだよ」

「いやそっちじゃなくて何ですかアレ!!?」

「大規模な混合魔導術式による影響で巨大化したブナキさ。あれは薬として効能を発揮する生物だから、よくギルドの討伐対象で指定されるのですよ。ちなみに鱗が黄色や金色のブナキは希少且つレアリティが高いから、王都の豪邸が購入できる値段で取引されます」


  浮島諸侯同盟では縁起の良い生物なので、その姿を見た者に幸運をもたらすと言われています。よかったですね、そう言いながらダグラス・ナイトレイの解説終了とともに、一際大きい水柱を立てながら黄金に輝く巨大生物が沈んでいく。でっ…あれを討伐するとか正気か?竜魔導機兵ドラグーンじゃないと無理だろ…

  巨大生物の登場で呆気に取られていたけど、試しに<鑑定眼A>で湖を再度見つめる。直系約103メトル(神様曰く、こちらの世界で使われる単位)の大穴。月のクレーターかよ!とツッコミが流れた。水脈と重なっていたのか、噴き上がって巨大な湖となったそうだ。泉じゃねえの?とコメント欄で審議が始まった。


「術式の影響で巨大化するんですか?」

「しますよ、家畜に餌を与えて太らせるのと一緒です」

「じゃ、じゃあ…あんな大穴を術式で開けることも…?」

「可能ですけど、あそこまで威力を出せる魔導士は限られています。混合魔法は爆発的な威力を誇るが、高度な術式を組み立てることを要求される。単体属性であっても同じです。最高位術式まで辿り着ける魔導士くらいでしょう。地形すら変えてしまう人間は、通常ネームドしか有り得ない。」

「…………ダグラスさん、も?」


  にっこりと笑みを返された。どうとでも解釈できる反応は困るなぁ…


「えっと…………表向きは…密猟者が溢れかえってしまうのを防ぐためルールが制定された、で合っていますか?」

「正解。裏は転生者による乱獲の被害が、これ以上広まらないように……いえ。が正しいでしょう」


  ひゅっ、と息を呑む音が大きく聞こえた。それが自分自身のものだと気付いたのは、数秒後。ヤバい、本当に俺…何も知らないんだ。転生者を憎む異世界、実際どのレベルで俺たちを憎んでいるのか理解も実感もないまま。まだ転生者を憎んでいる人間にも会っていないから、如何にヤバい異世界なのか分かっていなかった。

  見えない罠が幾つも張り巡らされたダンジョンにいるようなもの。目隠ししたまま手探りで歩くってレベルじゃねえ!!下手したら異世界が全力で俺を殺しに来ているじゃん!!!とんでもないところに転生させたな神様ァ!!!!うう…本当にダグラス・ナイトレイと協力関係を結べたのが奇跡だろコレ…


「では、打ち合わせをはじめましょうか」

「?」

「アシュレイ君、君の特異な魔導色は?」

「え、えっと…緑魔法と青魔法…?」

「そうですか。ではギルドに登録する際は竜魔導機士見習いで構いませんね?」

「? ??」


〇ぴょん吉❘兵種は自己申告なんだ

〇猫ですよ❘竜魔導機士はいいぞ~

〇猫ですよ❘魔法職+騎兵だから

〇猫ですよ❘進軍パートの移動凄い


  だいぶ時間が経ったから忘れていたけど、どうやら原作『ドラグーンズ アクシアⅦ』とリメイク版『DRAGOON’S AXIA Ⅶ』の進軍パートは同じらしい。進軍。つまり他の国へ戦争を仕掛ける、または侵攻を食い止めるパートが章によって発生する。冒険者として進むパートと、他国への進軍パートでは仕様が違う。

  前者は作り込まれたダンジョン内を歩くのだが、後者はマス目状を決められた歩数で進むターン制バトルだ。移動できるコマの数は、重装兵、歩兵、騎兵、機兵、飛行兵…と兵種ごとに違う。ドット絵のキャラクターへ指示を出し、敵を全て倒す…うんうん、これは思い出せるな。


「ギルドでは…まあ、色々と問題が起きるでしょうが…これも良い経験になるでしょう」

「登録するだけなのに何か起きるのは確定なんですか!?」

「ええ。何かしら起こるのは確かです」


〇ぴょん吉❘ギルドは酒場発祥だし

〇わんわん❘酔っ払いに絡まれるだろ


  あ、あー…そういうこと…?


「ですが…今日は登録だけが目的ではないのです」


  その声に視線を上げれば、曖昧な表情が其処にあった。


「君が目指す竜魔導機士の立ち位置が、今どういうものなのか知ってもらうためだよ」






――冒険者ギルド、マカミ支部


  白塗の壁が入り組んだ区画を、多くの人間が行き交う。馬車から降りた俺が顔を上げれば、屋敷にいる人と似たような服装の人でいっぱいだ。槍を持った甲冑の人、腰に刀を下げた冒険者。あそこで屋台をやっている人は何なんだろう…神様に訊いてみたら、どうやらアイテム屋らしい。

  まるで魚の鱗のように敷き詰められたカワラ(神様曰く、瓦と表記するらしい)の屋根。その真下に門番が二人配置されている。懐から何かを取り出すダグラス・ナイトレイ。それを確認した門番が閉ざされた扉へ手を翳す。重苦しい開錠音。重たい扉は独りでに動きはじめ、俺たちの前に道が開かれた。


○お揚げ君❘あれって猛獣使い?

○七つの子❘剣聖は!?剣聖いる!?

○猫ですよ❘ねえwww待ってwww

○猫ですよ❘暗殺者がwwwいるwww

○ぴょん吉❘忍者だろアレ

○わんわん❘白昼堂々忍者がいるワケ

○わんわん❘いたわ…


  小石が敷き詰められた中庭。その真ん中にある大きな敷石を足場に、俺はダグラス・ナイトレイの後ろを歩く。ギルドの人間と擦れ違うたびに、自分より大きな体でビックリしてしまう。5、6人と擦れ違ったところで漸くダグラス・ナイトレイが俺のために壁となっていることに気付いた。


「王国からの流れ者め」


  上から降って来た言葉に、思わず振り返る。見えたのは矢筒を携えた弓兵の後ろ姿。今のって…そう思っていたらダグラス・ナイトレイが俺を呼んだ。はぐれないように、そう注意するところは上官(になる予定)よりも兄らしい。エイルに対しても同じことを言うのだろうな…


「あの…さっきの、って」

「……ああ、聞こえてしまいましたか」


  少しオーバーに肩を竦め、淡々と説明をはじめる。


「現在、我々竜魔導機兵ドラグーン部隊は大型魔獣討伐を専門としている。あとから設立された部門なので、元々ギルドで活躍している彼らからすれば面白くないでしょう」


  あー…つまり?


○わんわん❘仕事を取られた恨み

○猫ですよ❘俺らみたいな感じ

(リアクションに困るぅ…!!)

〇ぴょん吉❘そこはスルーでおk

〇七つの子❘大型魔獣専門なんだ

〇猫ですよ❘市街地戦に向いてないからね

〇七つの子❘ああ…

〇お揚げ君❘図体デカいからな…

〇わんわん❘全長5~7mだし

〇七つの子❘二階建てレベルじゃん

〇お揚げ君❘でも何で分業なんだ?

〇わんわん❘大型魔獣、最低でも6m

〇わんわん❘最大は作品ごとに違う

〇七つの子❘無理では?

〇お揚げ君❘余裕で人間踏み潰せるじゃん

〇猫ですよ❘だから竜魔導機兵が要るのさ

○ぴょん吉❘大型魔獣戦ハイリスクで

○ぴょん吉❘ハイリターン案件だから

〇猫ですよ❘金銭的に美味しいんだけど

○ぴょん吉❘そ、傭兵には厳しい状況


  なるほど…死のリスクが高い分だけ給料が凄いのか。だから装甲で守られた状態で大型魔獣を討伐する竜魔導機士ドラグナーは、目の敵にされているんだな。いやでも竜魔導機士ドラグナーも大変だろ?エイルが操る竜魔導機兵ドラグーンだって凄まじいGがかかっていたし…


「…惜しいな」

「何がです?」


  うおっ!?コメントに返したつもりが口に出ていたか…顔に出ているようだし、誤魔化せないので大人しく思ったことを言おう。


「その…同じギルドに所属しているのなら、協力し合えば良いのに…って」


  実際、竜魔導機兵ドラグーンは戦える場所が限られている。閉鎖空間は勿論、狭いダンジョンには持ち込めない。軽装竜魔導機兵ライトドラグーンじゃないと小回りが利かないし、重量が増えれば増えるほど的となってしまう。それに冒険者には無いデメリットが存在する。


「我々の重要性を理解してもらうには、時間が必要なのですよ」


  そう、『ドラグーンズ アクシアⅦ』は竜魔導機兵ドラグーンの黎明期。本格的に実戦投入されるのは、中盤以降。まだまだこれからなのだ。『ドラグーンズ アクシアⅦ』の後半では、竜魔導機士ドラグナー達の価値を示す物語となる。次のⅧへ繋ぐための――

  …ん?もしかして、はぐらかされたのか。竜魔導機士ドラグナーを憎んでいるのなら、何で王国って単語が出たんだ?ダグラス・ナイトレイ個人を恨んでいるのなら、彼の名前、彼に関することを口にするだろう。うーん…王国出身なのか…?流れ者って、どういうことなんだろう…


「こんにちは、本日はどのような――ひいっ!?」


  明るい声から急降下。俺たちを出迎えてくれた受付のお姉さんが、ダグラス・ナイトレイを見て悲鳴を上げた。その声量にビビった俺は咄嗟にダグラス・ナイトレイの後ろに隠れる。


「今日は付き添いです。楽にしてください」

「は…はひぃ…」

「本当はヤマトが同行する予定だったのですが、今は別件で手が回せないので。私が保護者代理として、新規冒険者の登録に来ました」


  この子です、そう笑顔で背後に回った俺を前へ進ませた。受付のデスク越しに俺を見下ろすお姉さん。眼鏡の縁を指先で押し上げ、まじまじと俺の顔を見る。そして、にっこりと笑みを浮かべた。


「ようこそ、マカミ領支部へ。冒険者の登録ですね、こちらへどうぞ」


〇猫ですよ❘営業モード

〇七つの子❘切り替え早い

〇お揚げ君❘社畜の鑑


  何か知らんけどスルーしとこ…


「僕、読み書きは出来るかな? 代筆…私が代わりに書こうか?」


  案内されたスペースで、椅子に座った俺とダグラス・ナイトレイ。二人と向かい合うように席に着いた受付のお姉さんが、用意した紙と羽ペンを机に出す。大丈夫です、と断りを入れて筆記用具一式を受け取った。


「こちらが契約書になります。注意事項を読み、同意する場合はサインを。わからないところがあったら遠慮なく訊いてね」


  頷いた俺は契約書に視線を落とす。どれどれ…冒険者は魔導ランク同様、F~Sの七段階でランク付けされる。最初はFランク冒険者として、初心者向けの仕事が割り振られるのか。薬草採取、低級モンスター討伐…まあ、そうだよな。いきなり大型魔獣と戦ったりしないよな、普通。

  討伐した証として魔獣の死体を持ち帰る、人力で不可能な場合はギルド職員が転移で運ぶ。その際は先に冒険者が、討伐した魔獣の牙や爪を剥ぎ取り、転移のマーカーとしてギルドへ渡すこと。指定された数以上を討伐してはならない…これはさっき話した通りだ。なるほど、細かいルールが結構あるんだな。

  

「質問なんですけど…FランクからEランクに上がる条件って」

「はい。項目3をご覧ください。各ランクごとに昇級試験があります。毎月行われるのですが、昇級する条件を満たした方のみしか試験を受けられません」


  お姉さんの説明は続く。FからEランクの昇級試験を受ける場合、ギルドに加入して三か月が経過していること。依頼、またはクエスト達成が七割を超えていること。一つ上のランクを持つ冒険者、またはギルド職員との一対一の模擬戦に勝利すること。この三つをクリアしないと、Eランクの冒険者にはなれないようだ。


〇わんわん❘あれだな

〇わんわん❘雇用期間みたいなもん

〇七つの子❘三か月間は仮契約かー

〇お揚げ君❘途中でリタイアするかもだし

〇お揚げ君❘実績と信頼重視だな


「ちなみにS級の昇級試験を受ける場合は、もれなく私と戦うので頑張ってくださいね」

「えっ」


  ダグラス・ナイトレイと受付のお姉さんを交互に見る。眼鏡の縁を指先で押し当て、神妙な面持ちで肯首した。


「無理では!?」

「そんなことないですよ」

「お言葉ですが。ダグラス様が試験監督として請け負ったS級昇級試験は、3年連続合格者が1人も出ていません」

「無理では!!?」

「そんなことないです」


  そう簡単に合格者を出したらS級冒険者の価値が下がるじゃないですか。至極真っ当な回答を出されて俺は黙り込む。神様たちもコメントで「転生者が無双するから」「現地人にシワ寄せが来ておる」と苦言を漏らす。どうやら他の異世界に飛ばされた転生者たちは自重していないようだ。


「…ダグラスさん、凄い人だったんですね」

「おや? 言っていませんでしたか、浮島諸侯同盟ギルド竜魔導機士ドラグナー部門 竜魔導機兵ドラグーン部隊 総指揮及び総隊長――」


  そう言いながらダグラス・ナイトレイが、懐から小さな金属板を取り出した。


〇七つの子❘ドッグタグ?

〇猫ですよ❘そうそう

〇猫ですよ❘ギルド所属の証

〇お揚げ君❘金属でランク分け?

〇猫ですよ❘ドラアクは魔鉱石だよ


  流れる神様のチャットから目を離し、俺は契約書へ目を落とす。そしてダグラスさんが手に持つドッグタグ、もといギルド証に填め込まれた魔鉱石を確認。施設の証明を受けて淡い光を宿す七つの石。独特な紋章…レリーフが寄り添うデザインだ。銀色のタグに輝くメインの石は、角度によって濃淡が変わる。紫…ウィンドウも開くか


___________________________________________

冒険者ランク


S:紫流晶フロージスト

 二つ名/ネームドのみ

 厄災、神の御使い討伐を担当

 S級冒険者同士の戦いは地形すら変える

 多国間の戦争に投入される人間兵器


A:紺碧玉サフィマリン

 勇者クラス

 魔王軍残党の討伐を担当

 かつて魔王を倒した勇者のランク

 魔王幹部討伐依頼を優先される


B:紅宝珠ルベーネル

 達人クラス

 昇級試験の試験監督を担当

 武術・魔術の道場を開く場合、

 Bランク到達が条件となる


C:黄陽石トパツィリン

 熟練クラス

 このランクに到達しなければ

 領内、領外の上級ダンジョンへ

 足を踏み入れることを許されない


D:翠光柱ペリラルド

 中堅クラス

 実力が伴えばC級の依頼も可能

 このランクに到達しなければ

 領内、領外の中級ダンジョンへ

 入ることを許されない


E:白氷璃ロックモンド

 一般クラス

 実力が伴えばD級の依頼も可能

 このランクから領内で確認される

 ダンジョンまで行動範囲が広がる 


F:黒輝玻オルロモンド

 新人クラス

 低級の依頼を担当

 行動範囲は各ギルドの領内のみ

 誰もが皆、はじめは駆け出し

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「S級冒険者のダグラス・ナイトレイです。改めてよろしくお願いしますね、アシュレイ君?」


〇わんわん❘えっ

〇猫ですよ❘え?

〇ぴょん吉❘え

〇七つの子❘何何何???

〇お揚げ君❘どしたどした

〇わんわん❘この時点でS級だっけ

〇猫ですよ❘いやわからん

〇ぴょん吉❘あー!思い出した!!

〇ぴょん吉❘史上最年少記録!!

〇ぴょん吉❘設定資料集にあったわ!

〇ぴょん吉❘名前ないから誰かと思ったら

〇猫ですよ❘それだーーー!!!

〇わんわん❘コイツかよ!!?


  無から生えた、ならぬリメイク版から新登場したキャラクターだから分からないんだが。知らないもんは仕方ない。だけどS級冒険者は流石にビックリだわ。受付のお姉さんがビビっていたのも頷ける。ギルド内にいる他の冒険者が距離を置いているのも、ダグラス・ナイトレイの実力知るが故に恐れているのだろう。

  にしてもS級冒険者相手に陰口叩いた、あの弓兵なんだったんだろう…。通りすがりにボソッと言うのは、独り言だから悪口に入らないって解釈で言ったのか?それとも王国関係者に恨みを抱いているのか…うーん、わからん。俺が考え込んでいる間に、いつの間にか手続きが進んでいた。


「こちらがアシュレイ君のギルド証になります」

「! わあ…」


  銀のドッグタグに(神様曰く)唐草模様が刻まれた、新たな身分証。この世界で使われる文字は、俺の名前を記している。唐草模様に包み込まれた魔鉱石へ視線を向ければ、透き通った薄い墨色の石が輝いて見えた。これはオル…オ……なんだっけ


黒輝玻オルロモンドは黒魔法耐性を持つ、貴重な魔鉱石だからね。持っていて損はない」


  黒輝玻オルロモンドの説明をダグラス・ナイトレイから受ける。ほえー、そういう効果もあるのか。ただのランク付け用の装飾品じゃないんだな。駆け出しの頃から黒魔法対策を持たせてもらえるなんて、良いじゃん。


〇お揚げ君❘これリメイク前も同じ?

○猫ですよ❘色は同じかな

○猫ですよ❘バフ追加はリメイク版から

〇わんわん❘グラフィック段違いだが



「本日からクエストを受けることが可能ですが…」

「いえ、今日は登録だけで」


  勝手に進めるとヤマトが不機嫌になるんでね。冗談なのかマジなのか。判断に困る言葉に、お姉さんと俺は苦笑いを浮かべることしか出来ない。



◆◆◆



  数日後、順調に経験値を積んで目標のレベルに到達。ひたすら木刀を振り、身近なモノに<鑑定眼A>をかける日々は終わり。スキルレベル経由の経験値は塵と積もれば山となり、レベルアップに貢献してくれた。あのスキルセーフティは、もう暫くしたら緩和してみよう。少しずつ肉体を慣れさせなくちゃな。

  リカルドさんに千切っては投げられ、ボコボコにされた後はメイジャーさんに術式を教わる。白兵戦の立ち回りだけじゃ足りず、そこに魔導戦も組み込んで魔導機士の戦い方を学ぶ。道場で吹き飛ばされる俺の姿を、義姉はどう思っているのやら。遠目から見ていると話は聞いているけど、その姿を見ていない。

  そんなこんなでヤマトの爺さんから、ようやく領内の森へ入る許可を貰えた。領内と言っても正確にはマカミの庭…と言った方がいいか。屋敷から数百メトル離れた森を指差され、そこに侵入した小型魔獣を追い払う・倒すミッションを言い渡された。


________________

▽対象の偽造ステータス


〖アシュレイ゠アスカ・マカミ〗

年齢:10 クラス:見習い機士

レベル:6 称号:取得無し


固有スキル

 :生存本能


常時発動パッシブスキル

 :心眼E

 :気配察知E


術式

 :青魔法E

 :緑魔法E


スキル

 :鑑定眼A

 :悪食D

 :剣術C


パラメーター

 筋力:15

 耐久:10

 敏捷:20

 魔力:21

 耐魔:20

 幸運:10


補助効果

 :『???』

 :生存本能

 :悪食D

________________



「ふむ……あまりスキルを取得していないようだが?」

「……………色々あり過ぎて…選べなくて」


  嘘は言っていない。実際に取得可能なスキルが多過ぎる。三桁どころじゃない。何回、何十回スクロールしても終わりが見えなくて逆に恐怖を感じるレベルだ。戦闘に関係するスキルだけではなく、生活に関するスキルも混ざっている。どうやって使うのかもわからないスキルもあって、誰かの助言が欲しくなるのだ。


「この術式逆流ってなんですか」

「術式の方向性を、指定された向きと真逆に変更するものじゃ。例えば自分に向けられた攻撃を、僅かに軌道を逸らす、もしくは術式を放った相手に返す…そんな風に使用するスキルだ」


〇わんわん❘実質魔導版カウンター

(なるほど)

〇お揚げ君❘SFでいうEMPか?

〇ぴょん吉❘DEWじゃね

(わからん)


「そもそも術式とは魔導属性、魔力量、威力、方向、発動時間。基本的に5つのバランスを調整して繰り出す魔導である。スキル術式逆流は、その方向に特化した妨害術式。指定された方向に介入すれば、相手の自爆や回避へ繋がる。取得して損は無いスキルじゃな」


  ほえー、それも欲しいなー!


「スキル選びに悩んでいるのだろう」

「は、はいっ」

「そう難しいことではない。大体3つの区分で選べば良いのだ」


  そう言いながらヤマトの爺さんが説明してくれた。


「1つ、魔導。これは各個人によって得意・不得意の魔導色がある。赤魔法が伸びやすい者、逆に適性が無い者…基本的に全ての魔導色を取得することが可能ではあるが、色によって適正に個人差が生まれる」


  ギルドに向かう前、馬車の中でダグラス・ナイトレイに言われたことを思い出す。得意な魔導色。赤魔法、青魔法、緑魔法、黄魔法。そして白魔法、黒魔法。まだ他の色を取得していないから分からないけど、俺の場合は比較的に緑魔法が伸びやすいかもしれない。


「2つ、戦術スキル。剣・槍・弓・斧・盾…機動力が欲しいのなら騎乗スキルだな。竜魔導機兵ドラグーンを操縦するにも必要なスキル。そして兵法も此処に分類される」

「へいほー…?」

「一対一では恩恵が少ないスキルじゃが…そうだのう、後方支援が取得しているとパーティーメンバーのステータス数値を底上げする、と言った方がいいか。パーティーのリーダーでは、カリスマを持つ者もいる。集団戦には持ってこいなスキルと覚えておけばいい」


  ようは強化バフ系ってことだな。非戦闘員代表の回復職は、味方に強化バフを捲くスキルをガン詰みするのがセオリーみたいなもんだし。原作エイルも<カリスマ>を持たせて味方同士の火力底上げしてたな。というか非戦闘員はレベル上げがシビアだから、こうでもしないとボス戦で詰むんだよな…


「3つ、基本スキル。これは戦闘・非戦闘も含めたものだ。ここはワシから言うことはない」

「えっ」

「……剣士の道を選ぶか、魔導士の道を選ぶか。竜魔導機士ドラグナー以外の道を進みたいという、そういう未来もあるだろう。得られるスキルポイントは限られている。何になりたいか、そのために最適なスキルは何か…自分自身で決めろ。迷った時は周りに頼れ」


  ヤマトの爺さんも、アンナさんも。みんな俺を尊重している。元奴隷という搾取される側だった人間を、自分の意志で選び取ることを優先してくれるのだ。そうだよな。スキルぐらい自分で考えて選ぶべきだよな…数が多過ぎて迷うけど。お言葉に甘えて、爺さんの助言を参考にさせてもらおう。

  最優先で取る予定の<情報隠蔽B>を<情報隠蔽A>へ変更。消費SP1800が痛いが、今日から屋外でレベリング解禁なので一気にレベル7へ駆け上りたい。SP200以下に収まるよう、取得するスキルは必要最低限に絞る。先に<騎乗F>を取得し、<術式介入F>と<術式解析F>、さっきの<術式逆流F>も取った。


「ふむ、騎乗を選んだか。作業機ワーカー…いや、低級モンスターなら乗りこなせるだろう」


  ちなみに『欺瞞の首輪』効果で、ヤマトの爺さんには<騎乗F>しか取得できていないように見えている。騙しているようで良心が痛むけど、転生者だとバレる訳にはいかないから…!


「では、杜へ入る前に。マカミの掟を守ってもらう」

「……おきて?」


  敷地内にある小道を進み、小石が敷き詰められた先を見る。チャット欄で神様たちが「鳥居だ!」「いいなー」とはしゃいでいるようだ。朱色の門みたいなのが幾つも連なり、その最奥部に小さな祠が見えた。そこを目指すようにヤマトの爺さんが歩き出し、俺も慌てて後ろを追いかける。


「初代マカミは調教師テイマーとも召喚士サモナーとも言われている。まあどっちも似たような役職ジョブじゃ。気にせんでいい」

「はあ…」

「本題はここからだ。我々マカミ一族は代々誓約を課せられており、それは血の繋がりのない養子にも例外ではない。我らマカミの家紋、覚えているか?」

「…オオカミ?」


  そうだ、とヤマトの爺さんが頷く。


「初代マカミの相棒がオオカミでな。その際オオカミと契約した時に、誓ったのじゃ。生涯、相棒の同胞を殺さない…とな」


  ヤマトの爺さんは続ける。初代マカミは最初の相棒であるオオカミを仲間にした際、相棒との信頼関係を築くために自ら誓約を課したと。この世界に於いて、誓約というものは重要なものであると。誓約を守っている間は様々な恩恵が与えられ、それを破った時に与えられた分の反動が襲い掛かってくる…らしい。


「どうして子孫にまで、誓約が続くんですか?」

「たった一代では返し切れぬ恩恵だからじゃよ」


〇七つの子❘ゲッシュみたいなもん?

〇わんわん❘そんな感じ


「もし、間違って殺しちゃったら…?」


  祠の前に到着したヤマトの爺さんが歩みを止める。流れる沈黙に耐え切れず、恐る恐る見上げると。真顔で見下ろす爺さんと目が合った。徐に持ち上がった右手の親指を立てて、首を斬るジェスチャーをした。


「ワシが殺す」

「気を付けます!!!!!!」


  カカッと笑い声を上げ、祠の石へ手を翳した。淡い小さな光が浮かび上がり、石の手前にある平べったい敷石から魔法陣が広がっていく。


「何何何何何!!?!?!?!」

「杜まで飛ぶ転移祠じゃよ。帰る時はワシがやったように手を翳せ」


  敷石から離れたヤマトの爺さんが、ほいと小袋を俺に向かって投げた。


「回復アイテム、毒消し…いわゆる冒険セットじゃな。今回は特別にやる。次回からは自力で用意するんじゃよ」

「! あ、ありがとうございます!」

「そこのオオカミ避けの鈴が入っている。紛失したら…解っているな?」

「気を付けまーす!!!!!」


  ちょうどエンカウントした時の対処法を訊きたかったので有難い。オオカミ避けの鈴があれば、あっちから来ることはないだろう。よっしゃあ、あとは指定された低級モンスターを決められた数まで倒すだけ!楽しいレベリング&実戦の始まりだ!!


「夕飯前には帰ってこい」

「はい、行ってきます」

「ああ…――――気を付けてな」


  大きく手を振る俺は光に包まれ、ヤマトの爺さんが見えなくなった。転移される直前まで、爺さんは養子を見送ってくれた……待って何に気を付けて、って言った?よく聞こえなかったんだけど。何?俺は何に気を付ければ良いの!?ねえ、ちょっと待……待ってええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!



________________

▽最新ステータスが更新されました

▽一部、対象が取得したスキルが

 取得順から変更されました


〖アシュレイ゠アスカ・マカミ〗

年齢:10 クラス:見習い機士

レベル:6 称号:取得無し


固有スキル

 :生存本能

 :■■■■


常時発動パッシブスキル

 :心眼D

 :気配察知D


術式

 :青魔法D

 :緑魔法D

 :■■■■F


スキル

 :悪食D

 :鑑定眼A

 :騎乗F

 :剣術C

 :術式解析F

 :術式介入F

 :術式逆流F


パラメーター

 筋力:35

 耐久:35

 敏捷:51

 魔力:71

 耐魔:51

 幸運:40


補助効果

 :『欺瞞の首輪』

 :『???』

 :生存本能

 :悪食D


転生ボーナス

 :良成長補正

 :取得SP数上昇

 :識字補正

 :■■■■


残りスキルポイント

 1420



▽これまでの旅路をセーブすることが

 出来ませんでした

 引き続き、異世界ライフを

 お楽しみください

_________________

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天狼の竜魔導機兵/転生先が死後発売されたリメイク版RPG @O5my_

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