006ようこそ、名も無き転生者
同時刻。仲間の絶叫に怪鳥フラリが反応した。封じられた嘴を無理矢理開き、目の前にいる鋼鉄の巨人へ鋭い鉤爪を振り落とす。それよりも先に短刀を斬り上げる
「これで厄介な隠密行動は封じられたな」
淡々と呟くエイルは目標を睨む。少年が提案した作戦に初めは戸惑ったが、今は彼のことを信じるしかない。生身で大型魔獣とやり合うなど正気の沙汰とは思えない。それなのに何故なのだろう。彼なら無事にやり遂げられると思う自分が心の何処かにいた。会ったばかりなのに不思議なものだ、エイル・ナイトレイの口元が僅かに綻ぶ。
大型魔獣のボスが魔法陣を展開した。ここからは魔法の殴り合いだ。試作機も背面に魔法陣を展開し、大剣に冷気を纏わせる。電子水晶板に表示された残り魔力残存量を確認。飛翔時間も考慮して長時間の戦闘は避けたい。肺の中が空になるまで息を吐き出し、ゆっくりと酸素を吸い込む。伏せられた少女機士の眼が再び開かれる。
「――起動開始、
音声認証術式で起動。エイルの首の後ろが赤く輝き出し、彼女の双眸も真紅に燃え上がっていく。操縦士の■■と接続された
[エイル五等機士、何を――]
「30秒で片付ける」
エイル・ナイトレイの視界は変わった。
「いざ――勝負!」
空を蹴り、甲型弐式が突進する。まるで竜が咆哮を上げるように、悍ましい駆動音とともに
大型魔獣は火球を放つ。魔力を乗せた鋭い斬撃が炎の球体を切り裂く。上昇して距離を取ろうとする怪鳥フラリ。エイルは再び《
「……やはり心臓まで届かないか」
スキル<核炎>の効果により、怪鳥フラリの体内は常に高温だ。貫通特化の術式であっても高熱に溶かされては意味が無い。凍結スタン中の大型魔獣は嘴を大きく開くも、甲型弐式が飛ばした《
恐らく《
剥き出しになった心臓が宙を舞う。脈打つ臓器から血管が伸び、飛び散った肉と肉と繋ぎ合わせていく。未だにスキル<自己再生>は生きているようだ。しかし大型魔獣の肉塊を囲むように、展開された《
「――討伐完了」
凍結した大型魔獣の心臓を確認。核とも言える内臓は結晶化が始まり、真紅の魔鉱石へと姿を変えた。甲型弐式の目を通して見つめるエイル。格納スペースに討伐の証を収納。一息ついた若き操縦士は■■■■■■を停止させた。煌々と輝く
ふと視線を下げれば、点々と赤い血が滴り落ちている。電子水晶板に反射する自分の姿に顔を顰めた。充血した瞳から血が溢れ、急いで鼻血を指先で止める。操縦士へ過剰な負担がかかってしまうので、■■■■■■の使用を禁止されていた。30秒だけなら大丈夫だろうと思っていたのだが。やはり身体に影響が出てしまうようだ。鼻血が止まったのを確認し、短く嘆息をつく。
「……むう…またリードさんに怒られてしまう」
◆◆◆
怪鳥フラリの背に乗った俺は、ゆっくり地上へと降りて行った。既に地上戦は決着が付いており、例の商会たちは捕縛されている。消火活動しているチームと、討伐した大型魔獣を運ぶチームに分かれているようだ。作業中の
「ありがと。お疲れ様」
ぽんぽん、と頭を撫でる。さっきまで敵意剥き出しだった怪鳥フラリ。今では人懐っこい柴犬の如く俺に頬擦りをしている。ちょっと、こう……罪悪感が…っ
〇わんわん❘『隷属の首輪』の効果か?
〇お揚げ君❘懐いてんじゃん
『隷属の首輪』を解除したいんだけど、このタイミングで解放したら暴れるかもしれない。
[着地します。周囲の者は衝撃に備えてください]
エイルが駆る
俺は怪鳥フラリと顔を見合わせ、背中に乗って走らせる。流石に今このタイミングで飛翔すると味方機に撃ち落とされるかもしれない。『隷属の首輪』効果なのか、それとも人懐っこいのか。怪鳥は素直に従ってくれる。大型魔獣…と言っても、このフラリは全長20メートル未満。恐らく子どもだろう。親鳥と引き離してしまったことに罪悪感が加速するぅ…!
「よかった、そっちも無j」
緑魔法の飛翔系術式を行使し、エイル・ナイトレイが着地すると。俺の目では追えない速度で一気に距離を詰められた。その異様な速度に思わず硬直する。ちょうど魔獣から降りたタイミングだったので反応が遅れてしまった。スキル<瞬歩>?いや<縮地>か?原作エイルも持ってたな…ぼんやりと違うことを考え始めた俺。そんな俺はエイルに抱き締められた。
「ばかっ 心配したんだぞ!」
顔を上げたエイルが叫ぶ。その表情に噓偽りは無い。大人びた口調もメッキが剥がれたかのように、感情が剥き出しの少女から地金が出ている。同い年の子どもが大型魔獣とサシで挑む。彼女からすれば自殺行為に見えただろう。
「たまたま運が良かったものの…普通なら死んでいたところなんだぞ!?」
「ご、ごめん…」
「大型魔獣に『隷属の首輪』が効かなかったら、あのまま君は真っ逆さまに落ちていたんだ!
……うん、やっぱりエイルだ。弱きを助け、悪を挫く。10歳の女の子でも、それは変わらない。俺のために怒ってくれる。俺のことを本気で心配してくれて、俺を怒っている。他人のことを想う優しい女性。それが変わっていないことが嬉しい。だからこそ信じられないんだ。こんな優しい女の子が悪役令嬢化するなんて…信じたくない。
「…………何故笑っている?」
「えっ」
あ、ヤバい。ガチトーンだ。ちょっと冷気が漏れ出している。怒りゲージMAXになると周囲一帯を凍り付かせるアレだ。まだ幼い姿をしているが例のスチルを思い出してしまう。本気で怒ったエイルは恐ろしい。
「ご、ごめんなさい…こんなに真摯に、心配されたことが無かったから…嬉しくて」
嘘は言っていない。断片的に再生された奴隷時代の記憶。そこでは他の奴隷たちに手を差し伸べられることもなく、何事も無かったように扱われていた。それに関しては仕方のないことだと割り切っている。アイツらも自分のことでいっぱいいっぱいだったんだ。俺を庇えば矛先が変わるだけ。アイツのことは恨んでなんかいない。
「ありがとう、機士様」
抱き締めていたエイルの腕が緩む。その右手を取り、俺は真っすぐ彼女を見つめる。
「奴隷の僕を救ってくれて、ありがとう」
「当然だ。民を護るのが貴族の務め、そして民草の命を守るのが機士の役目」
…そう。この時点で彼女は人生を決めている。リメイク版エイル。貴族の娘が何で機士を目指しているのか、そのバックボーンは何か。現時点では解らない。だけどエイルの目を見れば分かる。
「先輩方に比べて未熟で、教官の足元にも及ばないがな。それでも、いつか最強の機士になりたい。力なき者を護るため、虐げられている者を救うため。それが力を持つ者の役目」
キャラクターの骨子というか、根元は変わっていない。
「まだ正式な機士ではないが、いずれ私は竜魔導機士として祖国のために…いつか」
原作エイルの旅は、終わりのない罪滅ぼし。遥か彼方に輝く星を掴むような、果てしない旅路。ゴールの無い贖罪の旅を続ける女騎士は、仲間を経て漸く終着点が見えた。罪滅ぼしのために剣を振るう彼女を忘れない。何度も見たスチルは今でも覚えている。星に手を伸ばし涙を流すエイル・スターンの姿を。
リメイク版エイルも伸ばす先は違っても、天に輝く一等星を追い続けているのだろう。冬空に力強く瞬く星を目指して。最強の竜魔導機士という一等星に憧れる少女。きらきらと目を輝かせて、煌めく星を目指す姿。贖罪の遍歴騎士、憧れと希望の少女機士。名前と年齢が違っていても、その目的に向かって走り続ける理由が違っていても
ああ、やっぱり
「…………好きだ」
硬直するエイル・ナイトレイ。みるみると顔が真っ赤になっていき、大きく開かれた瞳に薄く涙が張る。あれ?どうしたんだろう?
〇わんわん❘あんちゃん、
〇猫ですよ❘声に出てたよ
…………ん?
「すっ、す…っ」
ぷるぷる震え出すエイル。具合でも悪いのかな…もしかして画面酔い?それとも魔力消費し過ぎ?
〇ぴょん吉❘何なの?そっちに鈍いの?
(何が?)
〇七つの子❘好きって言ったじゃん!
(え、言った?)
〇お揚げ君❘無自覚なの!?
視線を上に向けたまま神様と会話をし、そのまま目線をエイルの方へ戻していく。熟れた林檎のように真っ赤だ。あれ?もしかして、こういうのに慣れていない…?リメイク版では令嬢って言ってたから、てっきり告白には慣れているのかと思ってたんだけど。
じっと見つめているとエイルが視線を逸らす。その逸らした方へ足を運び、わざと彼女の視界に入り込む。まるで背後に落とされたキュウリに驚く猫の如く、少女機士が軽く飛び上がった。吃驚してても手を離さないところが、彼女の優しさが表れている。これは…チャンスでは?
今のうちにアタックしておこう
「エイル・ナイトレイ」
「ひゃいっ」
俺は片膝を突き、彼女の手を優しく握り直す――きっちり両手で拘束するように
「貴女が好きです」
「え、えっと…それ、は」
「解っています。卑しい奴隷の身では、貴女と結ばれる未来は無い。ですが僕は諦めたくない。この恋が叶わなくてもいい、この想いが報われなくてもいい。ただ…貴女と同じ道を歩めるのなら。それだけでいい」
手の甲にキスを落とす。声なき声を上げるエイル・ナイトレイ。チャット欄で神様達が口笛を吹いたり、茶化しているが無視だ無視。
「どうか、貴女を想うことを許して欲しい」
「…………ぁ……う…」
目を白黒させて硬直するエイル・ナイトレイ。耳まで真っ赤になった若き機士の姿は、年相応の少女そのもの。原作エイルは女騎士を体現したような存在で、王子様のような女性キャラクターが大好きな俺にとって惚れるしかない。まだ10歳の彼女もヅカ系女子に成長する可能性を感じさせる。うーん、好きしかないな!何より、
王子様キャラが女の子扱いされてテンパる時にしか得られない栄養素があんだよ!!!!
〇わんわん❘ねえよ
〇ぴょん吉❘無いから
〇猫ですよ❘無いよ
〇七つの子❘そんなのない
〇お揚げ君❘ねーって
あーりーまーすー!!!!
「やあ、少年」
声をかけられた俺の肩が跳ね上がった。いつの間にか背中を取られていたのか…え、というか嘘だろ。気配すら感じ取れなかったんだが?
「…えっと、あなたは…」
「ん?ああ…そうか。君には名乗っていなかったね。私の名前はダグラス・ナイトレイ」
よかった…味方の人でマジ良かった。
「リードさんに、ダグって呼ばれてましたよね?」
「あれは愛称さ。彼女、あだ名で呼ぶタイプなんだ」
俺の背後に立っていたのはダグさん。いや、ダグラス・ナイトレイ。原作『ドラグーンズ アクシアⅦ』では存在しなかったキャラクター。リメイク版で登場する完全新規キャラとか、マジで前世の記憶があっても意味がねえな。どういう人なんだろう…というか、本当にエイルの兄?なのかな…
「ところで、いつまで手を握っているのかな?」
ダグラス・ナイトレイの言葉に目を瞬かせ、そのままエイルの方へ視線を向ける。吃驚したまま動かないエイル・ナイトレイ。親族の登場によって漸く正気に戻ったようだ。軽く咳払いをして俺に目配せを送る。そうだね、有耶無耶になったけど今は大人しく引き下がろう。
「改めて…ご協力感謝する」
「あ、いえ…こちらこそ」
立ち上がった俺は慌てて頭を下げる。ダグさんの作戦が無かったら奴隷のままだった。せっかく第二の人生を歩む権利を手に入れたのに、一生奴隷として消費されていたかもしれない。俺を助けてくれたエイルにも、アイテム『隷属シリーズ』を外す切っ掛けをくれたダグさんにも感謝している。人権カムバックいえーいっ!ここから俺の人生が始まるんだ!!両手を上げて走りながら叫びたいが、我慢我慢…
「近くに馬車を待たせているので、其処で少し話でもしましょうか」
「……え?」
「ほら、あるでしょう?保護した君を誰に預けるか、そこの怪鳥について今後どうするか…簡単な話し合いの場を設けるだけです」
取って食おうとしてませんよ?少しおどけた口調に困惑しながらも頷く。威嚇する怪鳥フラリを宥めると、ダグさんの後ろに控えていた部下が前に出た。俺の代わりに魔獣を見てくれるらしい。良い子で待っているんだぞ。俺の命令に怪鳥フラリは大人しくなった。
進もうとした俺の足が止まる。エイルのことが気になってしまい、咄嗟に試作機がいる方向へ振り向いた。赤面していた少女機士は調子を取り戻したのか、凛とした佇まいで立っている。俺と視線が交差すると淡く微笑み、手を振ってくれた。ありがとう。俺も手を振り返し、待ってくれているダグラス・ナイトレイのもとへ駆け出した。
膝を突くように地に伏す甲型弐式。怪鳥フラリのボスと死闘を果たし、操縦士の命を護り切った。竜を模した兜を被る鋼鉄の巨人は、次の戦いに備えて再び整備されるだろう。その周辺に他の機体…合流した壱号と参号が集まっていく。操縦士同士で会話をしているのだろう。もう一度俺はエイル・ナイトレイ達のいる方へ頭を下げ、急いでダグさんの後を追った。
黒竜の何機かは先ほどの戦闘で損傷している。蛟竜弐号が俺の姿を捉え、その横に立つ肆号も頭部を向けた。あの二機は損傷個所が見当たらず、かなりの手練れだということが分かる。確か設定資料集の年表だと…767年ってマジで黎明期なんだな。全ての
「さあ、どうぞ」
濃紺の隊服を身に纏う隊員がドアを開け、恐る恐る馬車の中へと足を踏み入れる。よろよろしながら段差を登り、座って良いのか戸惑っていると促された。柔らかい背もたれ、ふかふかの椅子。これが貴族の財力…!見た目は質素だけど素材が高級だ。
パチン、と音が鳴った。
何の音だ?俺が顔を向けると、ダグさんと目が合った。
「風属性の魔法ですよ。まあ防音効果のある術式、と思ってください」
足を組んで微笑むダグラス・ナイトレイ。その洗練された動作に息を呑む。あれ?そう言えば神様たち黙ったままだな…どうしたんだろう…
「ようやく君と話せる機会が得られました」
「…?」
「全く…あの侵入者が来なければ予定通りになっていたのに……困りますよねぇ」
「? ??」
「ふふ、すみません。無駄話をするところではありませんでしたね。さて…単刀直入に言いましょうか」
淡い微笑を浮かべていた青年。その身に纏う雰囲気が変わった。まるで春の暖かな日差しが、雨雲に覆われて冷たい風に襲われるように。何処までも冷たい双眸が俺を射抜く。
「――――君の目的は何かな、転生者君?」
息の漏れる音が大袈裟なくらい大きく聞こえた。ダグさん…いや、ダグラス・ナイトレイは転生者を知っているのか…?というか、此処って転生者が認知されている世界なのか?ゲームの世界としか知らなかったけど、そもそも
「沈黙は肯定…と受け取っていいかな?」
「……どうして、そう思ったんですか」
本能が警鐘を鳴らす。このまま黙ったままではマズい。ダグラス・ナイトレイに転生者と認定されたらヤバい気がする。
「質問を質問で返せないで欲しいな」
「すみません。保護される前の記憶が無くて……転生者かと問われても、返答に困ります」
嘘は言っていないぞぉ!!
「…そう。では君の質問に答えようか」
ダグラス・ナイトレイは指先を天に向けた。
「まず、異様に高いスキルを持っていること。レベル3で鑑定眼Aを持つ子どもなんて異常すぎる」
「…いえ、自分は奴隷として働いていました。スキル鑑定眼のレベルがAまで伸びた可能性もあるのでは?」
スキルポイント。ステータス画面の別ウィンドウに表示されている、SPと省略されていたアレか。原作『ドラグーンズ アクシアⅦ』に関する知識は未だに全て思い出せていないのが痛い。推しであるエイルだけ思い出せたが…そもそも此処、リメイク版の世界なんだよなぁ………マジで前世の記憶があろうが無かろうが何も対策を取れないのが辛い。
「それもあるね。でもスキルポイントを消費すれば、一気にレベルAを取れることがある――所持しているスキルポイントが常人よりも多かったら、ね」
「そう…なんですか」
そういえば…ゲームシステムは同じ、って神様が言っていたよな?というか推しに関する記憶だけ思い出せるのなら、限界まで推しを育成していた時の記憶も可能では…?えーっと…えーっと………そう!レベルアップ時に得られるスキルポイントは10~20。兵種によってポイント数が変わるし、消費するポイントもランクごとに違う!
いや、それだとおかしい。レベルが1上がるごとに最低でも10と考えて、レベル3の俺が<鑑定眼>をAまで取得出来る訳がない。順調にレベルを上げてスキルポイントの合計が20、一気にA級クラスのスキルと取得するには合計150は必要だ。残りのスキルポイントを確認したいが…どう考えても今ステータス画面を開く場合じゃねえし…
「それにしても、君…何だか他人事みたいに話すねぇ」
「すみません。
「……へえ」
この新規キャラ怖いんですけど!?俺のこと疑ってるし、滅茶苦茶警戒してんじゃん!まだゲーム本編開始じゃないのに、これ下手したらスタート切る前に殺されるんじゃねえの俺!!?
「すまないね。君が何処の陣営から来たのか、それが分からないから此方も警戒せざる負えない。王国側のスパイか、または帝国の刺客か…偶然を装ってテスト操縦士と接触した可能性もある」
………まあ、そっか。子どもとはいえ素性不明の人間だから、相手に警戒されるのも仕方ない。奴隷=主人の資産。主の命令でダグラスが警戒するような何かを奪うことも出来る存在だ。とはいえ…奴隷時代の記憶は朧げだ。ただでさえ【生前の俺】に関する記憶も欠けているのに…
「そして、もう一つは先の立ち回り。戦闘経験があるとは思えない子どもが、生身で大型魔獣に一泡吹かせた。只者ではない…が、素直な印象かな」
「あの時は、必死で…」
「そう。あの土壇場で『隷属の首輪』を怪鳥フラリに装着させる…なんて、普通なら思い付かないものだよ?」
ヤバいヤバいヤバい自分で自分の首を絞める形で返って来た!?考えろ、考えるんだ…!
「そ、れは…あの首輪を付けていたからです。貴方の作戦で『隷属の首輪』と『隷属の足枷』が外れた後、スキル鑑定眼で使用方法を確認しましたし」
というかスキル<鑑定眼>で確認してなかったら、あの無謀な作戦をエイルに提案してないし。本当は二つともボスに填めて大人しくさせるつもりだったけど、救援に来た怪鳥フラリが来て予定が狂った。いや、ボス怪鳥を助けに来ることは予想していた。万が一に備えて『隷属シリーズ』は一つずつ使うべきだ。そう神様たちにもエイルからにも指摘され、作戦を修正して良かったと思う。
「ふふっ」
ダグラス・ナイトレイが笑みを零す。だけど目が笑っていない。全く笑っていないし、感情すら籠っていなかった。
「面白い子ですね。奴隷にしては頭の回転が良い、それに語彙が豊富だ。怪鳥フラリに襲われて死にかけたというのに、臆することなく生身で空中戦に挑む度胸の持ち主。土壇場でパニックにならず冷静に作戦を実行できる――だからこそ、君が転生者であることが残念です」
俺は何も言えない。何も言い返すことが出来ない。やり過ごせると思っていた、だけどダグラス・ナイトレイの目が俺を転生者だと確信している。どうして?何故ダグラス・ナイトレイは転生者に拘るんだ?
〇わんわん❘あんちゃん、諦めろ
〇わんわん❘そいつは…いや、そのキャラは
やり過ごそうとしていただけなのに、もう俺には打つ手がない。
〇わんわん❘鑑定眼の完全上位互換スキル持ちだ
________________
▽スキル<情報隠蔽>により、鑑定失敗
対象のステータスが一部表示されました
〖ダグラス・ナイトレイ〗 年齢:ERROR
クラス:ERROR レベル:ERROR
二つ名:【ERROR】
称号:ERROR
固有スキル
:鑑識眼
スキル
:ERROR
:ERROR
補助効果
:ERROR
パラメーター
筋力:ERROR
耐久:ERROR
敏捷:ERROR
魔力:ERROR
耐魔:ERROR
幸運:ERROR
________________
<鑑定眼>を使った俺は息を呑む。何だ、これ…弾かれた?大型魔獣を見た時は見たい項目だけ確認できたが、ダグラス・ナイトレイのステータスは何も見えない。ERROR、ERROR、ERROR…所持しているスキルの数も分からない…
「おや…私に鑑定眼を使いましたか。どうです?サービスして固有スキルのみ開示しましたが…ああ、スキルは駄目ですよ?これでも結構スキルは獲得してきた方ですし、スキル欄が圧迫して見えにくいでしょう。もし見たいのであれば、言ってください。ただし追加料金をいただきますからね」
任意で開示するスキルを選べるんかい…!というか待って、完全上位交換??
〇わんわん❘鑑定眼ってのはデメリットがあってな
〇猫ですよ❘スキル情報隠蔽よりレベルが低いと
〇猫ですよ❘鑑定失敗して情報が得られないんだよ
〇わんわん❘相手が情報隠蔽Cを持っている場合、
〇わんわん❘それを無効化するのは鑑定眼Bから
(つまり…俺の鑑定眼Aより上の情報隠蔽スキル持ち…?)
〇わんわん❘だろうな。情報隠蔽Sかー
〇ぴょん吉❘しかも鑑識眼は情報隠蔽Sを無効化できる
はあ!?ちょっ、そんなのアリかよ!!?
「誘拐されかけた君を助けた時、さらっと鑑識眼で見させてもらいましたが…面白いスキル構成をしていますね?何でしたっけ…そうそう、
所持スキルで身バレとか、そんなのアリ!?
〇ぴょん吉❘『隷属シリーズ』も無効化できんのかよ
〇お揚げ君❘どういうこと?
〇猫ですよ❘基本『隷属シリーズ』は装着した相手のみ
〇猫ですよ❘術式構築・強化・スキル使用を無効化する
〇猫ですよ❘そして所持しているスキルが第三者にも
〇猫ですよ❘見えない認識阻害効果を持っているんだよ
〇七つの子❘あー、あんちゃんが鑑定眼持ちみたいに
〇七つの子❘枷が外れてから判明するパターンか
え、じゃあ俺…ダグラス・ナイトレイと会った時から転生者だってバレていたのか…?背筋がゾワゾワして気持ち悪い。悪寒が止まらないし汗が噴き出す。なにこれ、何が起きてんだ?
〇わんわん❘それ、固有スキル生存本能だろ
〇ぴょん吉❘死を回避することに極振りしたスキル
(スキルが発動している、ってことは…)
〇猫ですよ❘現在進行形で発動中
〇わんわん❘あんちゃんの返答次第で
〇ぴょん吉❘死ぬ状況に陥っている
待って詰みかけてんのか俺!!?
「………自分は、これからどうなるのですか?」
とにかく…殺されるのか、生かされるのか。どちらなのかハッキリさせたい。記憶障害というカードを切った以上、現時点で俺が出せる情報は無い。医療術士の人が言うには、何かが切っ掛けで思い出すかもしれない…らしいけど。『隷属の首輪』を外そうとした時に流れた電流みたいに、肉体に蓄積された記憶が蘇る可能性はあるけども。
転生者だと言うことに頷かない。まだ、まだ道は残されているはず。スキル一覧の転生ボーナスとか、んなもん見てる余裕ねえよ!!大型魔獣と戦うことしか考えてねえし、使える魔法とか
「もし自分が転生者だったら…殺されてしまうのでしょうか?」
「まあ、そうだね」
マジかよ
「………殺される理由を訊いても?」
「ああ…そうだね。うん、君たちには知る権利がある」
足を組み直してダグラス・ナイトレイが続ける。
「まず、過去に公式記録で確認された転生者は6人。いずれも災害・魔王・神の試練に挑み、それぞれの地を人知を超えた脅威から救ったと。輝かしい功績を治めた彼らは英雄として祭り上げられ、多くの人々に支持された――ここまではいい」
言葉を区切った男の目が、より一層冷たいものへ変わっていく。
「全ての転生者は強力なスキルを所持しており、彼らに適う人間はいなかった。誰にも負けない力・実績に反映して得た富・救われた者たちから贈られる名声…この3つが合わさると、どうなると思う?」
「………傲慢になる、とか?」
「そうだね。魔に堕ちた王を討った転生者は新たな王として迎えられるも、賢王とは程遠い存在であった。剣の腕が優秀でも政治には向いていない男だったらしい。異世界…いや君からすれば前世か。前世の知識を見様見真似で政策を行うも失敗。年を重ねるごとに傲慢な性格となっていき…最後は革命軍によって殺された」
〇猫ですよ❘これⅢじゃね?
〇七つの子❘王様√のバッドエンドってこれ
「ああ、そうそう。彼、女癖が悪くてね。暗愚王を討ったパーティー、旅先で出会った女性、王女様…多くの女性を妻に迎えてハーレムを作ったそうだ。後妻だけじゃ飽き足らず、メイドに町娘に令嬢…お陰で後継争いが絶えず、その転生者が死んだ後も王国に血が流れた。しかも性病持ちだったようでね、君たち異世界の病には対処する術が無く……最終的には未知の病が蔓延して王国は滅亡した」
〇七つの子❘おいⅢ!!!!
〇ぴょん吉❘王道ストーリーが売りだろⅢ!!
〇猫ですよ❘昼ドラEND迎えてんじゃねえよ!!
(昼ドラENDって何!?)
〇七つの子❘Ⅲはマルチエンディングに力を入れてて
〇七つの子❘リメイク版は全部√回収させる気が無い
〇猫ですよ❘その中に昼ドラENDもあるぞ(白目)
〇七つの子❘お陰でリメイク版のCEROが上がった
「一番大きな被害があったのは…シキ国でしょうね。詳しい資料は殆ど残っていないので正確な情報が乏しいのですが…転生者によって海に沈んでしまった国です」
〇わんわん❘Ⅱ!!!!!!!
〇猫ですよ❘バッドエンドじゃねえか!!!
〇わんわん❘嘘だろオイちょっと待て
〇ぴょん吉❘おい管理者ァ!!
〇ぴょん吉❘どうなってんだよ!!!
〇わんわん❘俺が聴きてえよ!!!
〇わんわん❘急いで過去の転生者ログ確認したが
〇わんわん❘何で誰一人クリアしてねえんだよ!?
え?
〇お揚げ君❘あんちゃんみたいに接触した?
〇わんわん❘してねえよ!!!
〇わんわん❘前任者に倣って基本放任主義なんだよ!
〇わんわん❘あんちゃんはデータ破損疑惑による特例で
〇わんわん❘接触したが、過去の転生者は違う!!
〇七つの子❘やけに転生待機列が長いな…と思ったら
〇七つの子❘ゲームオーバーした転生者が続出か
〇ぴょん吉❘ちょっ、Ⅳの転生者は何してんだ!?
〇わんわん❘行方不明でゲーム未クリア
〇猫ですよ❘Ⅰは?てか残りの転生者はどうした?
〇わんわん❘クリア直前で自殺している
〇わんわん❘ⅤとⅥはデータが消えて確認できない…
〇ぴょん吉❘管理者ァ!!!
〇わんわん❘送り出すまでが仕事なんだよ!!
〇わんわん❘それが、何で…みんな、どうして
管理者と呼ばれた神様の文字が、頭の中で悲壮の色を浮かべたまま消えて行く。他人の人生を消費する無慈悲な存在かと思っていたが、最後の文字から伝わる感情は本物だった。送り出した転生者が死亡したと知り、強いショックを受けたように俺の魂も揺れる。
〇猫ですよ❘ワン公、ちょっと休んでろ
〇わんわん❘うるせえ猫助
〇わんわん❘あんちゃんの危機だぞ休めるか
怒涛の情報量でフリーズしていたから、思考もフリーズしてしまった。はっとした顔を向ければダグラス・ナイトレイが黙ったまま見つめている。俺の…いや転生者の出方を窺っているのだろう。ダグラス・ナイトレイから見れば未知の存在。この世界で過去に確認された転生者達の過ちによって、少なくとも二つの国が地図から消された。危険な生き物を見る目を、俺に向けている。
「では、改めて君に問おう――――君の目的は何かな、転生者君?」
内容次第で殺す、という訳か。ここは…正直に話した方が良いよな?
〇わんわん❘それがいい
〇猫ですよ❘相手は未来の知将だからな
〇ぴょん吉❘舌戦で勝てる相手じゃない
〇お揚げ君❘でも一方的すぎるだろ
〇七つの子❘今の手札じゃ勝負にもならん
手札か…ん?待てよ?
「自分の…いや、
ダグラス・ナイトレイの目付きが変わった。俺の予想通り、妹の名前を出したら反応した。相手は十代後半、まだ二十歳にもなっていない青年。ワーグナーのおっさんを追い込む策士であっても、弱点は存在する。大丈夫、イケるはずだ。相手はスパコンみたいに無感情の人形じゃない。
「俺は彼女に助けられました。エイルがサザナミ採掘場に来なければ、あのまま怪鳥フラリに殺されていたでしょう。俺にとって、エイル・ナイトレイは命の恩人です。この恩は一度だけじゃ返せない。一生…俺の全てを使ってでも恩を返したい」
原作のエイル…エイル・スターンも、贖罪の旅を続ける中で人助けをしていた。弱きを助け悪を挫く。剣のように真っすぐな性格の女騎士。リメイク版のエイル・ナイトレイは10歳の少女であっても、その性格と在り方は何一つ変わらない。
「認めましょう、俺は転生者です。だけど貴方たちと敵対する意思も、国を亡ぼすつもりもありません。俺の目的は一つだけ――エイル・ナイトレイを救いたい。破滅の未来から彼女を救い出したい、彼女を死の運命から遠ざけたい。だから俺はエイルに救われた命を、彼女のために使う。今度は俺が彼女を救う番です」
唯一エイルというキャラクターに異なる点が存在する。一神教並みに生涯ただ一人を推し続けた俺が言うのだ。ディスクが擦り切れるほど原作をプレイし、エイル・スターンの√全てを開放し、各セーブデータごとに能力値・兵種を別々に分けたんだ。間違いない。原作エイル・スターンと、リメイク版エイル・ナイトレイの違い。それが鍵だ。
「
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