第7話 教会と腕時計

 宿屋に戻りベッドに横たわる。 

 転移した初日は疲れるな、そんなことを考えていると大聖堂の鐘が鳴った。

 14時か、忘れていた腕時計の時間を合わした。



 ゴォ~~ン!ゴォ~~ン!


 鐘の音で目が覚めた。

 どうやらベットで横になり、そのまま寝てしまったらしい。

 腕時計を見ると15時40分。

 鐘は20分早いのか。

 いや、合わした時間が合っているのかさえも分からない。


【スキル】世界の予備知識、が教えてくれる。

【時間は昼は日時計で太陽のある昼間を6等分、日が沈んだあとを6等分とした

不定時法。

 季節によって日の出は変わり、あくまで目安。『大体』となります。

 夜は北極星ような星があり、その星の動きを見てある程度の予測を付けている。

 どちらにしろ夜は寝てるから、20時くらいから日の出まで鐘は鳴らさない。

 雨や曇った日は『大体』で。

 ある意味、庶民は時間の感覚があり、時間の精度は問題視しない】だって。


 地球にいた時のように時間が正確なら、それに合わせて生活してるから合わないと気になる。

 だが大体しか分からないなら、それ程、気にならないし。


 待ち合わせをしてお互い相手が『大体』ならこちらが待つか、逆に遅れるかだ。

 『のどか』てことだのね。

 時計があっても意味ないかもな~。




 そう言えば教会はどこだろう。

 女神ゼクシーにお礼を言わないと。

 お祈りすれば会えることもあるって言ってたな。


 俺の部屋は2階にある。

 1階に降りるとサリーさんが居たので聞いてみた。


「教会はどこですか?」


「教会?あぁ、大聖堂のことですね。大聖堂は…」


 場所を教えてもらい、歩いて10分くらいのところに大聖堂があった。

 大きなお城のような建物の横に教会の様な建物があり、そこで参拝ができそうだ。


 中に入ると女神ゼクシーだと思われる像があった。

 どう見ても盛っている。

 実際にあった俺にはわかる。


 そんなことを考えていると、40代くらいのシスターがやってきて声をかけられた。


「どの様なご用件でしょうか?」


「初めて参拝に来たのですが、どの様にすれば?」


「特に決まりはありませんが女神像にひざまずいて、目を閉じ祈ればいいのです」


 俺は言われた通り跪いて目を閉じ祈った。

 すると転移した時のように、白い靄のようなものに包まれた場所にいた。


『私を呼ぶのは誰ですか?』


『女神様、こんにちわ。俺です』


 女神ゼクシーが現れた。


『あら、あなたは……』


『あなたに名前をもらったエリアスです』

 女神ゼクシーは毎日、仕事でたくさんの魂を見送っている。

 すっかりエリアスの事など忘れていた。


『あぁ、あの時の…。で、なんなの?』

 ややゲンナリした顔をされた。


『質問です、母さん』


『あぁ、もう母さんなのね。はぁ、なに?』


『どうして盛っているのですか?母さんはボン、キュッキュではありません!』


『はい?』


『もう一度言います。どうして盛っているのですか?実際の母さんはボン、キュッキュではありません!』


『そ、そ、それは…少しくらい盛らないと信仰という人気が出ないからよ』


『でも、さすがにメガ盛りはどうかと…』


「そんなことを言いに来たの…(泣)』


『冗談はさておき、生活の目途が立ったことを報告に来ました』


『そ、それは良かったわね。私も少しは安心したわ、アハハハ』


『これも母さんのおかげです。これからの俺の人生を、どうか見守っていてください。また来ますね』


『そんなことを言いにきたの?律儀ね。はい、またね』




 俺は現実世界に戻り、目を開け立ち上がった。


 待っていた様にシスターがやってきてた。

 良く見ると服がややくたびれ、顔も痩せていた。

 今居る建物の外壁も塗装が剥げ、老朽化気味だった。


 俺はそのことをストレートに、シスターに聞いた。

「教会は寄付で運営しております。ただ昨今は寄付が減りました。それだけみなさんの生活が苦しいということでしょうか。大聖堂は大きく、他に建物もあり今の寄付の額では修繕が追い付かないのが現状なのです。それに孤児も引き取っておりまして…」


【メンタルスキル】魅力効果が発動しており、好感をもってくれたようでシスターは素直に話してくれた。

 これは警戒心を持つ人や初対面の人と、話すには丁度いいスキルだ。


 帰りに心ばかりの寄付として50,000円をシスターに渡した。

 シスターはとても驚いていた。

 残金も乏しいが働けばいい。


「こんなに頂いて宜しいのでしようか?」


「俺もある意味、神の子ですし。このくらいは当然ですから」


「そうですね、人はみな神の子です。あなたに神のご加護があらんことを」


 立ち去ろうとした俺は振り向きシスターに「これ差し上げます」と言った。


「なんでしょうか、これは?」


「腕時計です。正確に時刻が分かる道具です。必要でなければ売ってください」


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 後日、教会はもらった腕時計をオークションに出品した。

 それは1億円で国に落札され、そのお金で建物を修繕しシスターや孤児たちの生活も改善された。


 更に国は腕時計を国宝に指定。

 教会に貸し出し、腕時計の正確な時刻を基準とし大聖堂の鐘が鳴る様になった。

 日の出が遅い冬でも時間が分かり、待ち合わせをしても時刻が分かるので長く待たなくてもよくなり、商談にも良い影響を及ぼした。


 良いのか、ずれたままの時刻が基準で。


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