第25話 青果市場

 その帰り道のこと。

「家を買ったていうのは、商談が上手くいったという事ね」

「ええ、納入が決まりました」


「そうなの、良かったね、これでパーティーは解散かな」

「いいえ、オルガさんさえ嫌でなければ、冒険者を続けたいと思います」


「それは、どうしてかな?」

「調味料作りが、どこまでうまくいくか分かりませんから」

「まあ、そうだよね」


「ただあまり危険は冒したくないので、考えたのですが」

「どんなこと?」


「森で採って来た山菜や果物を、買取ってくれるとことはありますか?」

「えぇ、青果市場で買取ってもらえると思うわ」


「ではそうやって二人で生計を立てていきませんか」

「えっ、ふた、ふた、二人で?」


 オルガさんがいくら強いといっても、必ず勝てるとは限らない。

 冒険者なんてやっていたら、いつ死んでもおかしくいない。

 特に俺なんかじゃ駄目だ。

 死亡フラグ満載だ。

 だから違う仕事を見つければいいんだ。


「オルガさんは冒険者が好きですか?」

「他に生活するのに、できることがないからやっているだけかな」

「だから山の幸を採って、生計を立てられれば安全でしょう。それに森に入れば魔獣や魔物に合う事もあります。その時は討伐するのも良いかもしれません」

「そ、そうね」

「では、いくらで買取ってもらえるのか、青果市場に行ってみましょう」





 俺達は青果市場に来ている。

 青果市場は繁華街の側にあり、飲食店の人が買い物に行きやすくなっている。

 市場に入ると野菜や穀物が並び、果物はほんの僅かだ。


 どこで買ってくれるのか分からない。

 仕方ない、誰かに聞くか。


 俺は売り場のところにいる、ちょっと体格のいいおばさんに声を掛けた。


「すみません、果物はどこで買取してもらえるのでしょうか?」

「あぁ、果物の買取はここで、できるよ。なにを売りたいんだい?」


「ブルーベリー、さくらんぼ、イチジク、ビワです」

「ほう、今が旬の果物だね、どこにあるんだい」

「ここです」


 俺は首から下げているポーチを軽く叩いて見せた。


「マジック・バッグ持ちかい。ならここに出しておくれ」

 俺は言われたテーブルに果物を出した。


 


「おぉ、こんなにかい!」


 おばさんは、驚いていた。

 ブルーベリー、さくらんぼ、イチジク、ビワは、バケツ一杯分くらいづつあった。


「これは、状態がとても良いね。まるで今、採ったみたいだよ」


 おばさんは何やら考えてから言った。


「ブルーベリーは6千円。さくらんぼとビワで6千円。イチジクは4千円。全部で16,000円でどうだい?」


 う~ん。高いのか安いのかが分からない。

 俺が悩んでいるように見えたのか、おばさんが言ってくる。


「私の買取は高い方なんだけどね。じゃ、思い切って17,000円でどうだい?」


「エリアス君、その金額で十分よ」


 オルガさんに言われ、俺は納得した。



 1日17,000円稼げた。

 2人で採って売れば1人、8,500円。


 この世界の平均日給が3,000円だから、冒険者をやらなくてもやっていける。

 だが何かの時のために、貯えも必要だな。


 今の内から貯えて行かないと老後、困るだろうし。

 年金もないこの世界では、働けなくなったら終わりだから。


 果物採取メインで、魔物に会うことがあれば討伐を考えればいい。

 これでなんとか、生活の目途が付いたな。


 

 また来ることを伝え俺達は名前を名乗った。

 おばさんはダニエラさんと言う名前だった。


 買い取る値段は一律ではなく人によって変わるから、私に売るんだよて言われた。

 たくさん採れるようなら、果物を売る商人でやっていけるかな。





 それから帰りに2人でアバンス商会に寄った。

 店の中に声をかけるとこの前、来た時の40代くらいの女性ではなく、50代くらいの恰幅の良い男性が出て来た。

 

 オルガさんは物珍しそうに、中をキョロキョロと覗いていた。

 普段なら商会なんて、来ないものな。



 お金が入って気が大きくなり、小麦粉を100kg。

 椎茸と鰹節もたくさん買ってしまった。

 やはり駄目ですね。

 普段、持ちなれないお金を持つと。


「失礼ですが、そんなに小麦粉を買われて、どうされるのでしょうか?」

「調味料を作るんですよ」

「調味料ですか?」

「えぇ、新しい調味料で『なごみ亭』という宿屋では、もう使っています」

「ほう、そうですか。では今度、食事に行ってみますかな」

 『なごみ亭』は食堂も兼ねているので、食事のみでも飲食可能だった。


「ではこれで失礼します」

 そう言って俺はストレージに小麦粉100kg、椎茸と鰹節を収納した。


「そ、それは!」

 男の店員さんが驚いている。

 商会の人なら珍しくないと思うけど。


「それはマジック・バッグでしょうか!!」

 店員さんが叫ぶように言う。


 顔がとても近かった。


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