第14話 約束

 俺達2人は冒険者ギルドに戻ってきた。

 バグベアは俺の手柄で良いとオルガさんが言ってくれた。


 その代わり子種が欲しい、て言っていた。

 大人のジョークはキツイな。


 俺担当の受付アリッサさんのところに並んだ。

 俺の順番が来た。


「おかえりなさい。エリアス君。怪我はなかったかしら」

「はい、無事に帰りました」

「今日はどうだったの?薬草、それともゴブリン討伐かしら?」

「いや~実はバグベアがいまして…」

「はっ?バグベア?!」

「はい、人が襲われていたので、つい…」

「襲われていた、つい?!」

 アリッサさんの表情が変わった。


「それで怪我はなかったの?」

「えぇ、俺もその人も無事です」

 そう言いながら俺はオルガさんの方を振り向いた。


「エリアス君。あなたはギルドに登録して、まだ4日目の新人なんですよ」

「あ、はい」

「はい、ではありませ~~ん!!」

 アリッサさんがとても怒っていた。


「いいですか、人を助けるのは良いことです。でもあなたが助かるとは限らないのですよ」

「はい、すみません」

「私達はたくさんの人を登録してきました。そしてたくさんの帰ってこない人を見ています。だから無茶をしないでくださいね」

「わ、分かりました」

 アリッサさんは良い人だ。

 俺のことをこんなに心配してくれるなんて。


「バグベアはまたマジック・バッグの中ですか?」

「そうです」

「では解体場で出しましょう」


 そして俺とアリッサさんは解体場に移動した。

「おう、解体かい?アリッサさん」

 50代のがっしりとした体つきの男の人が居た。


「えぇ、アンセルさん。バグベアだそうです」

「バグベアね、で、どこだい?」

 パン、パン。

 俺はバッグを叩いて見せた。


「あぁ、マジック・バッグかい」

「ここに出していいんですか?」

「おう、いいぜ」

 俺はバグベアをストレージから出した。

 ドサッ!

「うっ!なんだいこりゃ」

 さばきやすいようにお腹を上に向けて出したのだ。

 それを見たアンセルさんとアリッサさんは顔をしかめた。


「いったいこれはなんだい?肉が焼けてやがる。ま、あとは解体してからだな」


 俺とアリッサさんは解体場を出て受付に戻った。


「バグベアの他には、なにもなかったの?」

「はい、実はブルーベリーをたくさん採ってきまして。ジャムでも作ろうかと」

「ブルーベリージャム!!凄いわ、いいわね~」

「作ったらアリッサさんにも差し上げますね」


「まあ、ブルーベリージャムを作ってくれるの。嬉しい。待っているわ!」


 皆に聞こえる様な大きな声で言うと、アリッサさんは小躍りして喜んでいた。

 そんなにジャムが好きなのだろうか。


 後ろを振り向くとギルドの受付や冒険者の女の人も、欲しそうな顔をしている。

 それほど女子はジャム好きが多いのか?


「お~い。バグベアの裁定ができたぞ」

 解体場のアンセルさんが声をかけてきた。

「34万円だな。状態が悪くて肉は売り物にならないから、毛皮と魔石しか買取れないぞ。どうやったらあんな状態になるんだい。内臓は焼け鋼が中で溶け固まっているなんて、見たことがないぞ」

「それは俺のスキルなので言えません」


「スキルか。それなら仕方がないな」

 スキルはその人独自の能力だ。

 人にも言わないし、聞いても教えないのが普通だ。

 だからスキルだと言えばそれで話が終わるのだ。

「では、ありがとうございました」


 俺は受付を離れオルガさんのところに向かった。

 

「はい、これはオルガさんの分です」


そう言って俺は17万円を渡した。

「状態が悪くて34万でした。その半分の17万円になります」

「え、でもそれは悪い。ハイポーションを使ってもらい、剣も駄目にした」

「いいんですよ、オルガさん。それは俺が勝手にしたことだから。気にしないで」

「そ、それでも…」

「はい、話はここまでにしましょう。ではこれで」


 そう言って俺は冒険者ギルドを出ようとした。


「待って、エリアス君。どこに行くの」

「あぁオルガさん。武器屋です」

「それなら私も付き合うよ。新しい剣を私がプレゼントするわ。約束だからね」

「あ、ありがとうございます。ではお願いします」



 そして俺たちは武器屋に向かった。

 歩いている最中、オルガさんが尻尾でパンパン俺の背中を叩いてくる。

 そう言えば昔飼っていた猫も、同じようなことをしていたな。

 なんでだろう?



 歩きながらオルガさんに言われた。

「ねえエリアス君。あの冒険者ギルドの受付に、ブルーベリージャムをあげるの?」

「え?まあ、約束しましたから」

「それほどの付き合いなの?」

「まあ4日くらいですかね」


「ふう~ん。エリアス君はさ、私を見て嫌じゃないの?」

「どういう意味でしょうか?」

「獣人と歩いていて、嫌じゃないのかな、て思って」

「嫌ではないですよ、俺の家では小さい頃から、犬や猫が居ましたから」

「え、獣人と暮らしていたの?」

「一緒に暮らしていましたよ」

 飼ってたからとは言えないよな。


「私は虎猫族だけど、偏見はないのね?」

「はい、ありません」


「じゃあ、私にはくれないの?」

「なにをですか」

「ジャムよ、4日目の女にあげるんだから、私にも頂戴よ」

「欲しいんですか?」

「も、もちろんよ」

「では作ったらオルガさんにもあげますね」

「ほ、ほんと!嬉しい~~!」

 オルガさんは両手を胸の前で組み飛び跳ねている。


 そんなに甘いものにみんな、飢えているのかな?


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