03 王都から脱出
徐々に視界が光に満ちていく。
殺されてから結構経っていたと思っていたけど、ほとんど配置が変わらないままの人間たちが目の前にいる。
実際は数秒も経っていない?
首を飛ばされたのに、生きているって変な気持ちだ。
そういえば最後にゲイルがなんか言いかけていたけど、猿が何とかって何のことだ?
まぁ、どうせロクなことじゃないからいいか。
「あっ」
周りの人間は、倒したはずの俺がまた現れたもんだから、驚愕と恐怖を露にしている。
うん、とりあえずここは逃げよう。
逃げるが勝ち。
俺はゲイルに貰った布で全身を隠すように包み、全力で地面を蹴って包囲網を突破した。
『
『
信じられないスピードで街を走り抜ける俺の後ろには、たくさんの武装した人間が何か叫びながら走ってきていた。
ふむ。ゲイルの言う通りであるなら、俺は人間とは敵対種なんだよな。
このまま逃げて、追いかけ続けられるのは正直鬱陶しいな。
ここは、この体のお試しがてらに、異世界テンプレ第一。チンピラに絡まれるでもやろうかな!
俺は逃げるのをやめ、後ろへと振り返った。
「聞け! 劣等種族の矮小な人間共!」
うほー、悪者っぽい!
チンピラはどっちかって言うと俺か?
でも、この容姿でそんなこと言われても怖くも何ともないか。
なら、もっと派手に悪者ぶるか。
追ってきた人々は距離を開けて立ち止まっている。
うーん、その距離だとかなり大声で言うことになるけど。
なる様になれ。
「聞け、人間よ! 宣戦布告だ。俺はこの新世界の神になる! 仇成す者には天の裁きをくれてやる!」
大きな道のど真ん中、布をマントの様に旗めかせ全裸で両手を広げ宣言してやった俺の心境は興奮の一言だ。
な、なんだこの胸の高鳴りは!?
変態、変質者、歩く公然猥褻。
前世だったら、今の俺の状況はそれらで一発逮捕だ。
でもここでは違う。
あんな痛々しい発言をしようが、街中で全裸で叫ぼうが、俺はそもそも人ならざる者。
関係がないのだ。
ただただ敵として睨まれるだけ。
これは気持ちいい、何かに目覚めそう。
そんな俺の心境とは裏腹に、俺が発したこっちの世界じゃない言葉を挑発だと勝手に解釈した一人のフルアーマーの騎士が剣を構えながら走ってきた。
辺りを見ると、同じような鎧を着ている人が何人かいる。
騎士団おでましですか? 楽しくなってきた!
俺はその剣の太刀筋は見えていたものの、耐性確認の為にあえて食らった。
剣は見事に首を捉え、勢いも十分にあった。
騎士は笑みを浮かべる。
だが無駄だ!
俺は興奮冷めやまぬ表情を押し殺し、真顔のまま首にかすり傷一つも付けられなかった剣を掴んだ。
「
俺の言葉は通じない。
それでも、押しても引いてもビクともしない。
ましてや、全力の剣撃を幼女な魔族一人に止められたというその事実に、騎士は顔面蒼白になって剣を手放した。
うん、この程度なら弾けるのか。
防御力が高くなったわけじゃないから、それなりに首は痛いけど、その程度かな。
走り出した時も思ったけど、魔人と人間の力の差ってこんなにも離れているものなのか?
俺は剣の刃を素手で掴んでいる。
血は出ていない。
うん、まぁ試験も終えたし許してあげようかな?
「これ以上やったら死んじゃうよ?」
俺はこの容姿にぴったりな優しく可愛げのある笑顔を浮かべながら、優しーく告げた。
殺戮がしたいわけじゃないしね。
「じゃ、これからは無闇に
俺は騎士の剣を放り投げ、伝わっていないであろう忠告を言い残してそのまま王都を後にした。
最後のセリフは、もしかしたら魔法で意思のある言葉は翻訳できるかもしれないからしてあげた。
魔法使いがいたら、俺の言葉を調べてくれるだろうし。
それに、ここでいらぬ遺恨を残して追われてきたら面倒だしね。
王都の外壁をよじ登り、飛び越えた俺はゲイルとの会話の中で出てきた初級冒険者の集まる街、”リンピール”を目指すことにしている。
何はともあれ、お金がなきゃ困るし。
せっかくの異世界だ。冒険者業を体験してみたい。
しかし、そんな気概は初日に折れた。
俺は燦々と照りつける太陽の下、飲まず食わずでトボトボと歩き続けてかれこれ3日。
いくら状態異常無効で空腹が来なくとも食欲はあるし、何も口にしていないという事実が精神的なダメージを蓄積していく。
「なんか、食べたい」
空腹ではないけど、飢餓感?
変な感じだけど、感覚的にお腹が空いた。
王都を出てからはずっと草原と林が続いていたが、それもようやく終わりを迎えようとしている。
目の前に広がるは大森林。
この森を抜け、山を超え、谷を跨いだ先の草原の中心が目的地のリンピールだっけ?
「——…遠っ」
そもそも、なんで転生先が王都だったんだよ。
敵地のど真ん中に送るか、普通。
くそっ、あの神もどきにいつか絶対に復讐してやる。
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