目的模索編

01  早速死んじゃった

 早速だけど、俺は見覚えのある所に立っていた。


 あの真っ暗な部屋、四隅で燃え盛る柱の炎。それを結ぶ炎の壁。

 目の前には、ニマニマしながら俺が着ていたはずの服を手にしているゲイルが。


「——おいっ」






 時は俺が異世界に降り立ってすぐの頃に戻る。



 視界が徐々に開けてきたな。

 お、おぉ!

 ここが異世界、ここが俺のユートピア!


 心の高ぶりを抑えて周囲を見渡す。

 真っ先に見えたのは街のシンボルの様に聳え立つ、ネズミが支配している某遊園地のようなデカい城。

 その城を中心にいくつもの道が伸びており、酒屋に防具や道具屋といった冒険者が集まりそうないかにもな店から、レストランに宝石店や花屋、図書館などの一市民から貴族が集まりそうな店など、たくさんの人で賑わっていた。


 初めまして異世界! これから末長くよろしく異世界!


 ……ん?

 なんか、視線を感じるんだけど。

 俺、見られてる? なして?


 よく見ると、衛兵の様な人が俺を見ながら手にしている槍を小刻みに振るわせている。


 うーん、まぁ、それもそうかな。

 俺が言うのも何だけど、こんな美少女(美幼女?)が居て見るなって方が無理な話だもんね。


 震えるほどの可愛さってのも、ね?

 正直、自分の体だけど前世の俺と容姿が違い過ぎて、いまだに他人事の様に感じるけど。


 そんな中、俺はとある違和感に気がついた。


「なんか、スースーするんだけど、まさか——…っ!?」


 ゆっくりと視線を下に向けると、俺は全裸で立っていた。


aicv魔族だ  aiudbi2'!魔族が出たぞー

Vif,8ai*!早急に警備兵を呼べ!


 突然、周囲の人たちが騒ぎ出した。

 けど、何言ってんのか全く分からん。


 異世界親切サポートは無い感じ?

 何を騒いでいるんだ?

 魔物でも街中に侵入してきたのか、それとも緊急クエスト?


 もしかして、全裸の俺に気を使って服でも調達しようとしてくれている感じ?

 だったら、しばらくはここで待っていた方がいいよね。

 話しかけても、どうせ言葉通じないだろうし。


 俺はその場に腰を下ろし、今後の異世界生活のプランについて考え込む。


 なによりも、今の状況を整理理解しなくては。

 まず、お金は?

 うん、無い。


 なにか所持している物は?

 うん、無い。


 服も?

 無い……か。


「ああああぁぁぁぁーーーーっ!?」


 俺は自分の髪を揉みクシャにしながら頭を抱えた。


 いや、いやいやいや! 訳が分からんって!

 こう言う時って、せいぜい金がないとかそんなんんじゃないの!?

 服が無いって何だよ!

 これじゃ、ただの変質者じゃんか! おかしいだろ!?


 ついでに言わせてもらうけど、息子も返せ!

 誰が性別を変えたいって言ったんだ!

 これから、どうしろと? 俺にどうしろと!?


 周りがうるさい、なんか無性にイライラしてきた。


「もうっ、うるさいよ! こっちはそれどころじゃ——」


 俺は憂さ晴らしでもするかの様に、周囲の人間に声を荒げた。

 しかし、その騒ぎの原因は俺だったみたいで。


aibhn#i何が目的だ kjdihao答えろ!

「——え? なんて? ってか服……どころじゃないですね、これ」


 気がつくと、円を描く様に首元に多種多様な武器の矛先が向けられていた。


 うん、俺が、悪いのか?


 とりあえず、ゆっくりと両手を上げ、反抗の意が無いことを示す。


 こんなことで慌てるのはまだ尚早。

 主観を捨て客観的に物事を見なくてはいけない。

 そう。街中に全裸の幼女が光と共に現れる。

 うん、不審だ。

 その幼女は額に角を生やしており、少なくとも周囲の人たちとは違う。

 うん、不審だな。


 ここは冷静に、真摯に状況を説明しよう。


「待ってくれ。俺は敵じゃ——…」

djhjf;lj^詠唱を始めたぞ!

*kv1l)撃てーっ!


 一人の男が叫ぶと同時に、複数の鋭利な武器で喉元を貫かれた俺は、血飛沫をあげながら倒れ伏した。




        ※




『き、消えただと!?』

『おい、どういうことだ!』

『わかりません』


 その場から粒子状に分散していった謎の魔族ルキ・ガリエルの無き死体を目の当たりにし、周囲の人たちは困惑した。




        ※




 そして冒頭に戻り、今に至ると言うわけだ。


「おいっ」

「なんだ?」

「早速死んだんだけど」

「フッ、だろうな」


 笑ってんじゃないよ。

 それと俺の着ていた服の匂いを嗅ぐのをやめろ!

 気持ちが悪い!

 俺の父親はいつからそんな高度な変態へとなっていたんだ。


「つーか、特別な力や神器はおろか、金もなければ言っていることも分からない。テンプレだろ!」

「お前は何を言っているんだ?」

「っ……。ふぅ。それは、まぁ、百歩譲って我慢するとしても、この状況だけは我慢できん!」

「だから何が不満なんだ?」

「服だよ服! 衣服! なんで身包み剥がされなきゃいけないんだよ! その手に持ってる俺の制服を返せ!」

「ダメだ」

「何故だ!?」


 ゲイルはニマニマしていた気色の悪い顔を元に戻し、色々と語り始めた。


「いいか、ルキ。特別に一つずつ説明してやる」


 特別って何だよ……。

 最初からしてくれりゃいいのに。


「まず、お前に言ってもしょうがないが俺は娘が欲しかった」

「知らねーよ!」


 こいつ、マジではっ倒すぞ。

 この後に及んでふざけているゲイルに殺意を覚える。

 元・実の親子とか関係ない。一発ぶん殴ってやりたい。


「あと、特別な力が無いとお前は言うが、力はあるぞ。現にここに居ることが何よりの証拠だ」

「っ!?」

固有ユニークスキル【状態異常完全無効】。俺は早く死んじまったから、親として何もしてあげられなかったからな。せめてもの償いだと思ってくれ」


 ゲイルは然もありなんな顔で、平然と言い放った。

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