10 悪い魔族じゃないよ
「お前の上官に伝えろ。もうこれ以上
生き残らせた金髪の騎士に脅しながら言う。
自治権さえあれば、ぶっちゃけ独立国家でもなんでも作れるでしょ。
そうすれば、この国で獣人の逃げ場所ができるわけだし。
身勝手かもだけど、この状況よりはマシだろう。
まだ俺の名前”ルキ・ガリエル”は脅しにもなっていないけど、もっと力をつけて恐怖の対象になることができれば、名前だけで獣人が庇護できるかもしれないし。
「必ず、必ずお伝えします! ですからどうか命だけは!」
泣き叫びながら命乞いをする金髪騎士。
こいつは本当に騎士なのか?
すごく情けないことになっているんだけど。
それに、こんな俺が言うのもなだけど、まだ子供じゃん。
前世基準で言うなれば中学生くらいじゃん。
でも。まぁ……。
無実で終わらせるつもりは無いけど。
俺は
「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
その痛みに堪えられるわけもなく、金髪騎士は右腕のぐちゃぐちゃな断面を抑え、泣き叫びながら必死になって逃げていく。
王都に着いて伝言を伝えるまでは生きていてくれなきゃ困るけど、ありゃ出血多量で王都まで持つかどうか。
はぁ。まぁいっか。
俺は完全に金髪が去って行ったのを確認してから、部下全員から見放された火傷に悶え苦しんでいる指揮官を目にする。
「あとはお前だけだな」
「ガッ……ウ…………ケロ……」
あと数分も放置しておけばコイツは死ぬだろうけど、コイツがこの地に与えたダメージは計り知れない。
たくさんの獣人が命を落とした。老若男女問わず無差別に。
それを加味すれば、放置して死ぬなんてのは生温すぎる。
できることなら、回復させて殺して回復させて殺して——…を百回くらい続けて、自分が仕出かしたことを悔い改めさせたいけど、それはできない。
とりあえず俺は
「——か゛あ゛はっ!?」
叫んでいるみたいだけど、声は出ていない。
壊死しているのか、それとも黒炎で血が固まっちゃっているのか、流血もしていない。
俺は深くため息をつき、指揮官の頭を鷲掴みにして持ち上げる。
「苦しいか? どうせ快楽のため、私欲のために罪を押し付け獣人達を殺したんだろ? 当然の報いじゃないか」
かろうじて目を開けている指揮官に、一箇所に集めらた傷だらけの獣人達を見せた。
うわ、子供が思った以上に多かったな……。
頃合いか。
本当はもっと苦しめるつもりだったけど、まだまだ俺の怒りは治まっていないけど。
それでも——
「刑を執行する」
俺は指揮官の頭を卵の様に握りつぶした。
今更な感じも否めないけど、周囲の子供達に悪影響を及ぼさない為に俺は渋々仕留めた。
元・人間の俺がここまで散々人に対して残虐な行為をしているのに、なんとも思わない。
相手の血肉や臓物を見ても、苦しもうが泣き喚こうがなんとも感じない。
俺はただ怒りに身を任せ動いていたに過ぎない。
強いて言うなら、学校の授業の1コマ、実験でカエルの解剖を不機嫌な時にしているくらいにしか思えないし感じなかった。
ふぅ、でもまだ正気はあるし、人間性は残っている……かな。
これで、怒りすら感じず無心だったら流石にマズいとは思うけど。
最初から最後まで見ていた村人達は終始無言だった。
あの泣いていた赤子も母親もツキも皆。
しかし、戦闘が終わるとたちまち村人達獣人は騒めき出した。
それは難が去った歓喜からのものじゃない。恐怖、怯えによる騒めきだ。
その原因は、目を見ればわかる。
俺だ。
容姿はキュートで一本角のロリ魔族。しかし、戦い方はまさに悪魔。
獣人達は、次に自分達に火の粉が舞うんじゃないかと、震えている。
手遅れだったか……。
どうやら俺はやり過ぎちゃったみたい。
フードを目深に被り直し、投げた
最後にツキの方に目を配り、その場からキリムを抱えて立ち去った。
※
俺は老婆達の元に戻った。
「……ごめん」
「キリムが自ら選んだ事です。貴女様は悪くないのです。気になさらないでください」
口ではそう言うが、どこか暗く哀愁のある笑みを見せる。
「敵は追っ払ったから、俺はもう行くよ。早く村に戻って、怪我人の治療をしてやってあげて」
名残惜しいけど、もうこの場に長居はできない。
あんな戦い方をしたのだ、軽いトラウマモノだろう。
「ですが——…」
何かを言いかける老婆だったけど、俺の考えを察してくれたみたい。
俺は奥にいる事情の知らない双子の元に行き、頭を優しく撫でながら「元気でね」と作り笑顔で伝える。
「またね」
「またー」
リスのような大きな尻尾がもう大変なことになっている。
またね、か。
果たしてこの子達に再び会える日は来るのだろうか?
俺は再び笑顔を作る。
「何かまたあったら、ルキ・ガリエルが庇護していると俺の名前を使うんだぞ。俺も名前だけでお前たちを庇護できるくらい強くなって見せるからな」
「「うんっ!」」
これは、俺のせめてもの償いだ。
口だけの無責任者にはなりたくないもんな。
「なにか困ったらすぐに狼煙をあげるんだぞ? 飛んで駆けつけるから」
空元気に告げると、老婆は深々と頭を下げ感謝を述べた。
失った人の数が多いのに、その感謝を俺は受け取れるのだろうか……。
はぁ、行くか。
俺は洞窟を出ようと踵を返し——
「僕も連れていってください!」
「……………………え?」
そこには村に居たはずのツキが息を切らして立っていた。
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