12  一人目の仲間

 ツキは一頻り泣き、泣き止んだと思ったら俺に身を預けたまま眠っていた。


「……」


 異世界こっちに来てから、何度か殺されてはいるけど差別も迫害も受けていない。

 ま、敵ではあるけど。

 あとは、強いて言うならゲイルからの嫌がらせ?

 いや、俺なんかの苦労話じゃ比べものにならない。


 俺は眠るツキを横にしてから、周囲を見渡した。


「とりあえず、今日はここで野営だな」


 一応、魔法も使えるみたいだし。

 黒炎を使えば、火起こしなんて余裕でしょ。


 そう思っていた自分が憎い。


 黒炎は威力が高すぎて、薪が一瞬で消し炭になっちゃったよ。

 クソッ。


 俺は薪を拾い集め直し、少しだけ残っている火種を時間をかけて育てて火を大きくした。


 疲れたし、ささっとご飯を狩って休憩にするか。


 俺はローブを毛布代わりにツキにかける。


「よしっと。また王猩々キング・エイプでも出てきてくれないかな。あいつ美味いし、可食部も多いし」


 まぁ、そうポンポンとあの筋肉ゴリラはいないか。

 近くにいるのは、あれだけか。


 角は鋭くクリスタルのように半透明で輝いている……、鹿? あれ鹿だよな?

 牛、ではないけど大きいな。


 俺は影の手シャドウハンドの練習の意を込めて、バレないよう死角から鹿を捕縛し首を捻って仕留めた。

 まだ、不慣れな魔法という存在にも早く慣れなきゃいけないし、練習はしていこう。






「ん、ここは?」

「おっ、おはよっても、もう夜だけど。大丈夫か?」

「ルキ様? んぅ〜、大丈夫です」


 日はすっかり暮れ、綺麗な星空が樹々の間から見え隠れしている時間帯にツキは目を覚ました。

 目を擦りながら上体を起こすツキに頬を緩める。


「あーっ!?」

「ど、どうしたん!?」

「ご飯!? お肉ーーっ!」


 ツキは俺が焼いている肉を見た途端に目の色を変えて飛び上がった。

 ツキに対する最初のイメージは大人びていてしっかりとした子だったけど、こうしてみると普通に年相応な元気な女の子だ。


 ハムスターみたいに頰をパンパンにして、可愛い。


「んんっ……そういえば……んぐんぐっ……この……」

「食べるか喋るかどっちかにしなさい。何言っているか分かんないから」


 ツキは、でっかいブロック肉を口いっぱいに詰め込んだ。

 もう見ているだけで癒される。


 口に放り込まれた肉を飲み込むと、膝にかかっているローブを持ち上げ、尋ねてきた。


「このローブってどうしたんですか? あんなに人間の魔法とか攻撃受けていたのに」

「あぁ、それ? ツキが知ってるか分かんないけど、村に着く前に王猩々キング・エイプって魔物に襲われちゃってさ」


 俺は肉にかぶりついた。

 美味い、けどあのゴリラの方が俺好みだったかな。

 ん?


 手にした肉にかぶりつきながら、返事のないツキの方へ目線だけ向けると、口を開けたまま食べる手を止めている愛らしい姿が目に入った。


「えっ?」


 どしたん?


 ……


 …………


 ………………


 どうやらあの猿はここいらの森を縄張りにしているヌシのような魔物だったみたいで、何人もの犠牲者を出していると有名らしい。


「サ、サスガ、ルキ様デスネ」


 棒読みだし、俺と目が合わない。

 何もない空間を掴み、まるで肉を食べているかの様に口をパクパクさせている。


 王猩々キング・エイプは魔物であるにもかかわらず、魔人の集団すら屠ったこともあるんだとか。

 ま、実際俺も一回潰れたトマトにさせられたけど、格好がつかないので話してません。はい。


 俺はツキにこっちに来てから今に至るまでの事を少しばかり脚色して話した。

 説明が難しい日本とゲイルのことは伏せたけど。


 ツキにとって、俺の話はワクワクの詰まった冒険モノのような物語のように感じたんだろう。

 ツキは先程までの態度とは一変させ、終始目をキラキラと輝かせていた。

 当事者の俺からしたら、ロクな冒険じゃなかったけど。


「ルキ様ルキ様! 面白かったですよ。王都で、その、と、突然裸とか……。よく思い付きましたね! でも、僕が子供だからってあまりからかわないで下さいよね。いくらなんでも、作り話ってことくらい気付きますよ!」


 あれ? 信じてない。

 なんだろ、なんかすごく寂しいんだが……。




 話を終えしばらく経った後、ツキは再び眠りについた。




 俺にも仲間ができた。

 彼女はまだ幼い子供だけど、憧れのケモ耳っ子のツキ。


「よろしくな」


 寝ているツキの頭を撫でながら、俺はボソッと呟いた。


 んー、そういえばツキの服ボロボロだな。


 俺はこっちに来てから二度目の服作りを始めた。

 と言っても、鹿しか素材はないから、似た様なローブだけど。

 鹿の頭部がちょうどフードになるようにして、前脚の皮で首元を固定。

乾かす作業とか必要かと思ったけど、何故か俺が触れる部分に熱が集まり急速的に乾いていった。

これは鹿の特性か?

 何はともあれ、最後に装飾でクリスタルの角を砕き、満遍なく散らす。


 二度目なだけあり、手際良くツキの服を作り終えた俺は夜更けに眠りについた。

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