第69話 木戸と俊輔の間に

 馨は木戸と洋行中のことや世間話に花を咲かせていた。

「そういえば、ウィーンで政体に関して参考になる話を聞いたぞ。我が国でも憲法や法律を整備し、国権を縛り民の権を守るようにせんといかんと考えたんじゃ」

「木戸さんは一生の事務を見つけたんじゃな」

「聞多はイギリスで少しは学んだんだろう。手伝ってくれんか」

「俊輔だっておるでしょう。わしは、己のやりたいことをやるんじゃ」

「実は俊輔とは少し離れておるのだ。だから聞多のことも帰国してから知った」

「そうでしたか。まぁ俊輔のことは帰国してからでええでしょう」

「俊輔とは変わらずやっているようだな」

「文のやり取りはできとります。そうじゃ」


 少し暗くなってきた様子に気がついた馨は武子を呼んだ。


「失礼いたします。馨さんどうかされましたか」

「いや、木戸さんと一緒に夕飯をと思ったんじゃ。ええじゃろ。木戸さん」

「ぜひとも」

「はい、どうぞ。食堂へお越しください」

 待っていたかのようだった。馨と木戸を見た武子は笑っていた。


「いかがですか。西洋料理と日本の味でございます」

西洋おでんポトフ西洋風の魚の煮物アクアパッツァが中心になっております」

「ワインとウィスキーもどうぞ」

 武子はテーブルに並べた料理を説明していた。こうやってお客とは言え、馨以外の人を考えて食事を作るのは楽しかった。

「うん、これは美味い。西洋料理も日本人が作ると食べやすくなるものだな」

「木戸さんもそう思いますか。知っとる料理人に学ばせようかの」

 そんな料理についての話や、アメリカ・ヨーロッパの話を聞きながら、馨と木戸の関係が元通りになったようだった。難しそうな話からバカバカしい話まで、楽しそうに語り合っている二人を見て、武子も嬉しくなっていた。

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