おそろしく精緻に再現された、田舎の空気の重苦しさ……と救い

重苦しい「田舎の空気」が、おそろしく精緻に再現された作品です。
家族は朗らかなのに、親は気さくなのに、だからこそ感じる息苦しさ。
寂れていくローカル線、閉まったシャッター……情景の欠片のひとつひとつが、田舎特有の陰鬱さや息苦しさを精緻に演出しているのが見事というほかないです。

ストーリーも終始重い空気を漂わせていますが、最後にはやや空気感が変わり、希望の灯りのようなものが垣間見えます。
自分も田舎在住の人間なので、「名無しの権兵衛」となれる都会の自由さへの憧れは強いのですが、その部分も含めて主人公の心情がしんみりと伝わってきました。これも、随所に散りばめられた精緻な情景の醸し出す力ではないかと思います。

良いものを読ませていただきました。ありがとうございました。

その他のおすすめレビュー

五色ひいらぎさんの他のおすすめレビュー130