青年の葛藤を、圧倒的な密度で真っ正面から描いた作品です。
舞台は北海道の古びた町。
青年の鬱屈した心の機微と町の寂れた雰囲気、そして「俺のクローン」をはじめとする、文学的な味わいを感じさせる言葉選び。けれど難解ではないこの匙加減。
全てが絶妙に絡み合い、始終読者の胸を締めつけます。
心理描写が素晴らしい作品はたくさん読んできましたが、本作のように漂う空気にまで重さを感じるような物語には、あまり出会ったことがありません。
これぞまさに文学! 私はそう思いました。
地方暮らしの空気感をご存知の方もそうでない方も、上質な物語に浸りたい読者のみなさま、ぜひご一読ください。
重苦しい「田舎の空気」が、おそろしく精緻に再現された作品です。
家族は朗らかなのに、親は気さくなのに、だからこそ感じる息苦しさ。
寂れていくローカル線、閉まったシャッター……情景の欠片のひとつひとつが、田舎特有の陰鬱さや息苦しさを精緻に演出しているのが見事というほかないです。
ストーリーも終始重い空気を漂わせていますが、最後にはやや空気感が変わり、希望の灯りのようなものが垣間見えます。
自分も田舎在住の人間なので、「名無しの権兵衛」となれる都会の自由さへの憧れは強いのですが、その部分も含めて主人公の心情がしんみりと伝わってきました。これも、随所に散りばめられた精緻な情景の醸し出す力ではないかと思います。
良いものを読ませていただきました。ありがとうございました。