第10話 暗闇の街道

 街道とは人体でいう動脈だ。

人が物や金を運んで経済を循環させ、その地域を活性させる。

だが、一方で街道は人目が少ないことから犯罪が起こりやすく、商人を狙う山賊は後を絶たない。

更には魔物が食料を求めて人を襲う、常に危険と隣り合わせの場所だった。


 このローテル街道はエルタス村とグラ―ゼンを結んでおり、普段は旅人や商人、そしてそれを狙う魔物や稀に盗賊がいる一般的な街道だった。

だが、今の街道に生物の気配は無く、ただ静まりかえっていた。


「自警団員は列の前後左右に分かれて警戒しろ!

 絶対に誰もはぐれさせるなよ!」


 ガイウスが号令を出す。

灯火の光は街道を照らしていたが、前後を歩く者の影で足元が見えにくい。

そして普段から村の外に出る者は少なく、慣れない道に怪我をする危険があった。


「何だか、不気味ですね…」


 近くを歩いていたカイナがガイウスに声をかける。


「ああ…盗賊の心配はなさそうだが、いつ怪物が現てもおかしくない。

 警戒して進もう」

「団長は心配症ですね。

 私はまた強敵と戦えるんじゃないかと、うずうずしてますよ」

「お前な…」


 冗談なのか本気なのか分からないカイナの発言に、ルミルは心強さと呆れを覚えた。


 ○


 移動を始めて三時間ほどが経った。

避難は足元の暗さや大人数であることから、当初の想定よりも進んでいなかった。

ルミルは長く奇跡を維持しており、疲労感が強くなってきていた。


「一体どうしてこんなことに…」

「疲れた…家に帰りたい…」


 村人たちが状況を嘆く。

士気は下がり、移動速度は移動を開始した当初よりも下がっていた。

自警団員を中心に励ましてはいたが、それも焼石に水だった。


「皆、一度、休憩を取ろう。

 座って少し休んでくれ」


 ガイウスはこのままだらだらと進むより、一度休憩を取ってペースを戻そうと考えたのだろう。

その号令を受け、一行は倒れ込むように地面へ座り込んだ。


「足がもうパンパンだ…」

「ここはどのあたりだ? 街はまだなのか?」


 休息を取り始めたことで、わずかだが話す気力を取り戻したのだろう。

村人たちは現状について話し合う。


「日が出ていれば、丁度昼食の時間だ。

 少し、腹に入れよう」


 ガイウスが食事を提案した。

自警団員を中心に、村の備蓄庫から持ってきた食糧と水を皆に配り始める。

だが、ルミルは聖句を唱え続ける必要がある為に、食事をとれなかった。


「ルミル殿…その済まない」


 ルミルは首を横に振る。

灯火を絶やさない為には仕方ないし、食事という気分でもなかった。


「ん?」


 その時、近くの見張りをしていたカイナとキールが何かに気づく。

 ルミルは何となく、その様子を目で追っていた。


「どうしました?」

「いや、血の匂いがする。 風上は…あっちか」


 キールが道を逸れ、手斧で茂みをかき分けて進んでゆく。


「うおっ…!? 魔物の死骸だ!?

 かなり新しいな……ん? 向こうにもあるぞ」

「このタイミングで縄張り争いじゃないですかね?」

「いや、そんな偶然あるか…って

 ヤバいぞ! 敵襲!!」


 キールが突然、声を上げた。

その方角を見ると四足歩行で歩く、大きな闇の塊があった。

闇の獣は一行の方へ駆け出した。

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