第9話 準備と旅立ち
ルミルは村の出口を目指して歩く。
村人たちはついて来ていたが、この行動が正しいのかは分からなかった。
「ルミル殿! 背負うから一度止まってくれ!」
ルミルはガイウスの声に足を止める。
自分が力を温存しなければ、皆を助けることは出来ない。
冷静さを欠いていたことに気づき、ルミルは自分の頬を叩くと、ガイウスの背に乗った。
「済まない。 嫌な役目を押し付けた」
ガイウスの背を軽く叩き、大丈夫だと意思表示をする。
彼も彼で大変なのに、これ以上負担をかけることはできなかった。
「だが、皆に纏まりが生まれたのは、ルミル殿の日頃の行いが良かったからだ。
それに、きっと皆もそのうち分かってくれるさ」
ガイウスは元気づけようとしてくれているらしい。
ルミルは感謝の意味を込めて、その背中をバシッと叩いた。
「神官様、怒ってるの?」
普段は見ないルミルの態度に、隣を歩いていたリノが勘違いをした。
首を振り、怒っていないと笑いかける。
「怒ってないの?」
「ああ、雰囲気からして、怒っている訳ではないだろう。
分かっていると言いたいんじゃないか?」
「神官様、そうなの?」
ルミルは再び首を振り、違うと意思表示をする。
「違うみたい」
「ふむ。 なら、余計なお世話だと言いたいのだろう」
ルミルはガイウスのずれた解釈に、力を込めて背中を叩いた。
○
一行は村を出る前に、貯蔵庫へと立ち寄った。
物資も持たずに隣街へ入れば、追い出されることは間違いなかったからだ。
貯蔵庫は村で共有する保存食や物資の保管場所であり、村長パルダムの方針で飢饉や村の放棄に備え、いざという時の蓄えがあった。
冬越えで食料は減っていたが、それでも貯蔵量には余裕があり、十日くらいなら持ちそうだった。
「台車は全部出して、足の悪い者は荷台へ乗ってくれ!
余ったスペースには食料と物資を積めるだけ載せるんだ!」
ガイウスが指示を出しながら台車を押す。
村人たちの多くは動き出したが、家族や友人などの大切なものを失った者は失意で動けなかった。
「…」
ルミルは悩んでいた。
彼らには心身が休まる時間と環境が必要だったが、現状でそれは不可能だ。
せめて彼らの心を落ち着かせられないかとも考えたが、捜索を打ち切ったのはルミル自身だ。
今、近づいても却って苛立たせてしまうのではないかと考えていた。
「よし、出発するぞ!」
準備が終わり、ガイウスが号令をかける。
「ルミル殿…? どうかしたのか?」
結局、ルミルは何も行動できなかった。
人々の心に安寧をもたらすという、自身の信条を果たせず、ただ座り込むことしかできなかったのである。
今この場には、生き延びようと必死に動く者と、ただ状況に流される者、そして自身の無力さに打ちひしがれる者がいた。
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