第8話 役目と覚悟
聖職者の役目とは人々に心の平穏をもたらすことだ。
言葉や態度、時にはその在り方で、人々の心に希望の火を灯す。
聖職者によって考えは様々だろうが、ルミルはそう思っていた。
「待て! 俺たちはまだ納得していない!」
家族が見つかっていない村人が、ガイウスに食って掛かる。
当然だが、捜索を諦められない者は多く、話が纏まらない。
そもそも全員が納得して行動するのは最初から不可能なのだ。
捜索に灯火が必要不可欠である以上、二手に分かれることはできなかった。
「しばらくすれば、この暗闇が晴れるかもしれないだろう!」
「それは楽観的過ぎる! 前例が無いこの現象に、収まる保障は無い!」
「そんなこと言ってる場合か! こうしている間にも、俺たちの時間は無くなってるんだぞ!」
次第に村人同士の議論は白熱し、喧嘩腰になっていく。
「神官様…私たち、どうなっちゃうの…?」
横を見ると、いつの間にかリノが議論を不安そうに聞いていた。
内容を理解しているかは分からないが、大人が言い争う雰囲気に飲まれ、不安を覚えているのだろう。
「灯火は神官様にしか出せないんだ。
どっちにしろ着いて行くことになるだろうが!」
「ならば、神官様に決めてもらおう!」
「神官様、なにとぞ捜索を!」
「神官様、もう出発しましょう!」
村人たちがルミルを見る。
確かに、灯火はルミルにしか出せないのだから、最終的にはルミルについて行くしか無い。
だがそれはルミルにとっては、救いを求める手のどちらかを振り払う、聖職者としてあるまじき行為だった。
「ルミル殿…!」
ルミルは止めに入ろうとしていたガイウスを手で制す。
話すことは出来なくとも、意思を示すことはできる。
いずれは決めなければならないことであり、こんな姿を子供たちに見せ続ける訳にはいかない。
「神官様! どちらへ!?」
ルミルはリノの手を引き、村の門へと向かって歩き始める。
振り返って頭を下げ、ついてくるようにと意思を示す。
それは、家族を見つけられず、捜索の続行を望む者たちへの謝罪の意味も込めていた。
「待ってくれ、神官である貴方が我々を見捨てるのか!?」
ルミルはこれまでずっと奇跡を使い続けている。
まだ余裕はあったが、この異常事態に何が起きるかは分からない。
少しでも生存の確率を上げる為に、移動しなければならなかった。
「神官様! 頼む! いや、待ってください…!」
村人がルミルの元へ走り、掴もうとする。
その手はガイウスによって押しとどめられた。
「日頃から人命を優先する神官殿が、出発を選択した意味を分かるだろう」
「それは…! だが! 待ってくれ、神官様!!」
ルミルは自分が捜索を望む者から恨まれても、今を生きる者を優先することを選んだ。
たとえ恨みでも生きる原動力になるのなら、自分に向けて構わないと、受け入れる覚悟が決まっていた。
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