第7話 失った者、残された者
一行は村を一周し終えた。
だが結局、十三名は行方不明のままだった。
「これで捜索を打ち切る。
食糧や水などの物資を回収後、隣街へ全員で移動する」
ガイウスが決断を下す。
だが、その決断は家族との合流が出来ていない者にとって、受け入れられないものだった。
「待ってよ! 旦那がまだ見つかってないの!
もう少し捜索を続けて!」
リアンナという新婚だった村人が、ガイウスに食って掛かった。
「…それはできない。
我々はルミル殿の灯火が消えるまでに、隣街の教会へ辿り着く必要がある」
「別に神官様の奇跡じゃなくても、火は起こせるでしょう!
光があれば、移動する必要は無いはずよ!」
「それはさっき団員に試して貰った。
火は起こせるが、光が暗くて怪物が沸を追い払うことはできない」
ガイウスは自警団員に色々と検証させていた。
闇の存在が現れる条件や、行動を把握することで、状況の打開をできると考えたのだろう。
その中でも、奇跡の灯火で家屋に火を点けるという発想にはルミルも驚いた。
結果として着火は出来なかったが、もし出来れば無理して移動する必要はなかったし、やってみなければ分からないことだった。
「なら、もう少しだけ捜索してよ!」
「隣街までは半日かかる。 これ以上は時間をかける訳にはいかない」
「なんでよ! あんただって、両親が見つかっていないじゃない!?」
「…」
背負われているルミルにはガイウスの表情が見えなかったが、その雰囲気が変わった。
彼の家族仲はとても良好であり、捜索の中断は彼自身も納得していないだろうことは想像に難くない。
その上でガイウスは今を生きる者の為に、移動を選択したのだ。
「っ、悪かったわ…」
リアンナが気圧され、ばつが悪そうに俯く。
「けど、あの人は私にとって、一番大事なの。
だから、置いてはいけないわ」
リアンナが暗闇へ一歩近づく。
「待て、何をするつもりだ…!?」
「行くわ……あの人の元へ。
せめて、一緒に…」
リアンナは暗闇へ向かって駆け出す。
「誰か、リアンナを止めろ!」
その速度は速く、誰も止められなかった。
だが、リアンナが暗闇に消える直前に、その暗闇が消え去る。
ルミルが灯火の範囲を広げたのだ。
その隙に、近くにいたキールが止めに入った。
「駄目だよ義姉さん。
兄さんは、そんなの望まないでしょ」
リアンナの夫はキールの兄だった。
つまり、キールはリアンナの義弟に当たる。
「キールくん…
でも、もう私には…あの人のいない世界なんて考えられないの…!」
「俺は兄さんに続いて、義姉さんもいなくなるなんて嫌だ。
血のつながりはないけど、ホントの姉だって思ってる」
「けど…」
「頼むよ…頼むから…簡単に自分を、諦めないでくれよ…!」
キールはリアンナに頼み続ける。
ルミルは飄々として軽薄な印象がある彼が、真剣に頼み込んでいる姿に少し驚いていた。
「はぁ…分かったわよ…
そうね…可愛い義弟が婿に行くまでは、見届けようかしら」
説得の甲斐あって、リアンナは一行と共に行くことを受け入れた。
だが、家族や友人を失った者は彼女だけではない。
全会一致で村を出ることはできなくとも、無用なトラブルを避ける為に、ルミルは多くの者に納得して貰いたかった。
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