第6話 女剣士と異形の剣士

 村長の家を出て、十分ほどが経った。

リノは泣き疲れて眠っており、今は自警団員のキールが背負っている。

村人たちは声を上げ、懸命に家族や友人を探していた。


「くっ、誰か! 誰かいないのか!」


 ガイウスが苛立たし気に叫んだ。

村のほとんどを回り終えたにも関わらず、彼の両親も含め、生存者は見つかっていなかった。


ふと、ルミルは風の音に剣戟の音が紛れていることに気づく。


「誰か戦っている! 皆、急ぐぞ!」


すぐにガイウスも気づき、一行は現場へと急いだ。



 そこには剣を持つ異形の怪物がいた。

そして、すぐ傍にはカイナという自警団員がおり、その妹のミイナを守りながら戦い続けていた。


「あの化け物、光で消えないのか…!?」


 一行が近づいたことで、灯火は怪物を照らしている。

だが、その異形の剣士は少し狼狽えたようなそぶりを見せるだけで、その存在を維持していた。


「第一小隊はカイナの加勢! 俺と第二小隊は周囲の警戒!

 ルミル殿! 一度下ろすぞ!」


 ガイウスは指示を飛ばし、ルミルを背中から下ろす。

数人の自警団員がカイナの援護へ駆け出していった。


「やあっ!」


 カイナは異形の剣士の剣戟をステップで躱し、その隙に斬撃や刺突を差し込む。

その実力は戦いに詳しくないルミルが見ても、研ぎ澄まされていると感じるほど流麗だった。


「っ…!」


 だが、カイナはひたすら眩しそうにしていた。

彼女はずっと暗闇の中で戦っていた為に、急に明るくなったことで弊害を感じていたのだ。

他の自警団員はそれを察してか、彼女のフォローに入り、異形の剣士と攻防を続けていく。

カイナは次第に目が慣れたのか、異形の剣士を圧倒していった。


「決めます! 援護を!」


 カイナの号令を受け、自警団員が異形の剣を受け止める。

その隙にカイナは連撃を叩きこみ、異形の剣士を切り裂いていく。

傷痕から闇を吹き出し、異形の剣士は霧散していった。



「はぁ…はぁ…やりましたよ!

 良い! とても良い緊張感と高揚感でした!」


 カイナは死闘を繰り広げたからか、かなり興奮していた。


「カイナ、無事か!?」

「団長! ええ、大した怪我はないです!」

「ミイナも無事か?」

「うん!」


 姉を信じていたのだろう、ミイナの笑顔に恐怖の色はなかった。


「カイナ、今の奴は?」

「わかんないです。

 ただ、最初は腕みたいな怪物だったんですが…」


 カイナは経緯を話す。

今日、非番だった彼女は妹と遊んでいたところを闇に包まれたらしい。

幸いにも帯剣していたことから、暗闇の中で妹を連れて逃走するよりも迎撃することを選んだ。

多少見えずとも問題は無かったが、怪物は斬っても切りが無く、いつの間にかあの剣士になったのだという。


「闇の怪物は再生すると強力になるのか…?

 いや、断定するには早いな」

「それより、私の両親を見ませんでした?

 礼拝に出ていたのですが…」

「ああ、それなら無事だ。

 礼拝堂に居た人たちは、ルミル殿が守ってくれた」

「本当ですか!? 良かったぁ…

 神官様、ありがとうございます…!」


 カイナはルミルの手を取り、ブンブンと上下させる。

少し困惑するルミルをそのままに、妹を連れて両親の方へと走っていった。


「光が効かず、カイナが苦戦する怪物…

 それに、住人はほとんど見つからず仕舞いか…」


 ルミルはガイウスが漏らしたつぶやきを聞いてしまった。

当初の目的だった『村人の捜索』の成果はほとんど出ていない。

だが、灯火というタイムリミットがある中で、いつまでも探し続ける訳には行かなかった。


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