第2話 灯火の対価
奇跡は修行を積み、神官となった者だけが起こせる神話の再現だ。
だが、それは世を意のままに操れる万能な力ではない。
まず、発現が安定しない。
たとえ神官に危機が迫ろうが、発現しないことは多いのだ。
理由は分かっておらず、教会内では『神の意思』が介在しているのではないかと考えられている。
そしてもう一つ欠点として、奇跡を維持するには聖句を唱え続ける必要がある。
「うわああん! 神官様ぁ!」
異形の怪物を消滅させると、掴まれていた少女が駆け寄ってきた。
彼女は村長の孫で、ルミルが礼拝堂で読み書きを教えているリノだ。
ルミルはひとまず胸をなでおろし、リノの頭を撫でる。
「神官様…?」
リノは言葉を掛けてくれないルミルを不思議そうに見る。
だが、ルミルは話さないではなく、話せないのだ。
『聖句を唱え続ける必要がある』とはつまり、話せないということだ。
ルミルが普段通り話せば灯火が消え、また暗闇に逆戻りしてしまう。
そうなれば暗闇から怪物が現れ、村人を襲うことは想像に難くなかった。
そして、次も奇跡が発現するか分からない以上、ルミルに灯火を消すことはできなかったのだ。
「村は、皆は大丈夫なのか…?」
村人たちは光を得たことで落ち着きを取り戻しつつあった。
だが、今日は休日で、多くの村人が礼拝堂を訪れていたが、ここにいない者も多い。
皆、自分の家族や友人が無事か不安なのだろう。
「神官様、村へ行きましょう…!」
村人の一人がルミルに提案する。
外にいる村人たちが暗闇で動けないのは間違いなく、そして怪物に襲われれば撃退する手段はない。
ルミルはとにかく急がなければと考え、村人全員を連れて礼拝堂の扉を開いた。
「これは…」
「なんか…怖い…」
村人たちとリノは外の様子に動揺していた。
外は暗く、空には太陽も星も見えない。
黒一色に塗りつぶされたようなその空に、ルミルは不吉なものを感じた。
「…! ……!」
その時、近くから助けを呼ぶような声がした。
ルミルは奇跡の灯火に力を込めて高く掲げ、さらに周囲を明るく照らす。
「いたぞ! あそこだ!」
村人の一人が声を上げ、声のした方へと指差す。
だが、奇跡の力を増幅させたことで、ルミルを虚脱感が襲っていた。
奇跡はその維持に体力や精神力などの対価を捧げる必要があり、発現させ続けるには限界がある。
教会にはその限界を超えて奇跡を発現させ、廃人になった者は少なくなかった。
「皆! 礼拝堂を目指して走れ!」
そんな時、近くから声が上がった。
声のした方を見ると、数名の村人と『自警団員』たちが闇の怪物に追われていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます