第3話 自警団と方針

 自警団は村の戦士が所属する小さな組織だ。

魔物や盗賊といった脅威を撃退し、村の平穏を保つことがその役目だった。

自警団を束ねるのは、ガイウスという筋骨隆々の偉丈夫だ。

彼はルミルにとって神官という特殊な立場に気後れせず、色々と相談し合うことができる希少な友人だった。



ルミルの灯火により、自警団と村人たちを追っていた怪物が霧散した。


「ルミル殿! この光は『奇跡』か!?」


 ルミルはガイウスの問いを首肯で返す。

声を上げて返事をすることが出来なかったからだ。

それよりもルミルは村の現状を聞きたかったが、それを伝える手段はなかった。


「明かりがあれば、皆を助けられる…!

 皆、ルミル殿、捜索に協力して欲しい!」


 ガイウスがルミルと礼拝堂にいた者たちに頼む。


「おう! 団長がいてくれれば心強いぜ!」

「よし、まずは村長の家から村を一周しよう!

 皆、ついて来てくれ!」


 ガイウスの号令に異を唱える者はいなかった。

ガイウスは日頃から自警団の団長として貢献し、村人から信頼されている。

そして彼自身、自身の家族よりも村長との合流を優先している為、他の者は何も言えなかったのだ。

一行は村長の家を目指して移動し始めた。


「あんた…! よかった、無事だったのかい…!」

「ああ、自警団の若いのが助けてくれたよ」


 一方で、ガイウスら自警団員との合流により、無事に家族と再会できた者もいた。

自警団はどうやら外にいた村人を救助しつつ、礼拝堂へ避難してきたらしい。

ルミルは突然訪れた異常事態の中で、少しだけ救われた気持ちになった。


「お母さん、皆、大丈夫かな…」


 それを見ていたリノは家族を心配する。

彼女は今日、文字を教わる為に、礼拝前に一人だけ早く来ていたのだ。

ルミルは不安そうにしているリノの手を少しだけ強く握った。


 ○


 一行は村長の家を目指して移動する。

光があるとは言え暗闇で足元がおぼつかず、大人数であることもあって、その速度はゆっくりだった。


「ルミル殿、そちらの状況は礼拝堂に居た者たちから聞いた。

 こちらの状況を話すから、そのまま聞いて欲しい」


情報交換が必要だと思ったのだろう、ガイウスがルミルの元へ駆け寄り、現状を話し始める。


「一つ分かったのは、怪物共は剣で倒せるってことだ。

 だが幾ら倒しても、次から次へと沸いてきりがない」


 ガイウスが闇の怪物について話す。

やはり、あの怪物は暗闇から生まれ続けるらしい。

だが、剣で対抗できると分かったのは、何一つ分からない現状で唯一の幸いだった。


「ところで、この『奇跡』はいつまで維持できる…?」


 ガイウスがルミルに小声で耳打ちをした。

 やはり、一番重要なのはそれだろう。

 灯火が消えれば怪物が沸き続け、自警団が応戦しても全滅するのは時間の問題だ。


「そうだ、話せないんだったな。

 それなら時間を言うから、維持できるなら頷いてくれ」


 ガイウスが一時間ずつ時間を増やして聞き、ルミルがそれに頷いていく。

六時間と言った所でルミルは首を横に振った。


「そうか…いや、まだ五時間ある。

 だが、それまでに何とかしないとな…」


 ルミルは五時間も奇跡を発現させ続けたことはなかったが、維持できる限界はそのくらいだと思っていた。

何より奇跡を維持できなければ全滅する以上、限界でもやらなければならなかった。


「捜索後の方針だが、隣街の神官様を頼ろう。

 たぶん、村長も同じことを言うはずだ」


 考え込んでいたガイウスが結論を出す。

 隣街の『グラ―ゼン』には三人の神官が赴任しており、街が存続している可能性は十分にある。

 そこまで辿り着けば、受け入れてもらえる可能性があった。


「だが、この大所帯でグラ―ゼンまで行くのに、五時間では心元ないな…

 何か、奇跡を長く維持する方法はないのか?」


 ルミルはガイウスの問いに頷く。

奇跡に捧げる体力や精神力を減らすことはできないが、ルミル自身の消耗を避けることはできる。


「で、その方法は… そうだ、喋れないんだったな……」


 ルミルは両手を伸ばし、おぶさるジェスチャーをする。


「? 抱きしめろと?」


 違う。

ルミルはガイウスの肩を押して屈ませると、リノの手を一度離し、背中に無理やり飛び乗った。


「うおっ…!?

 ああ、背負えって事だったのか…」


 ルミルは村の皆が歩いている中で、自分だけ背負われるのはどうかと思ったが、そんな事を言っていられる状況ではない。

そう考え、すぐに気にすることを止めた。


「この状況で両手を塞ぐのは避けたいが、確かに灯火の維持が最優先だな。

 分かった。 責任を持って俺が背負おう」


 ガイウスはこの状況で不平不満一つ漏らさず、ルミルの意図を汲んだ。

ルミルは村人たちが彼を信頼する理由の一端を改めて感じていた。

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