第14話 街へ
リノが灯火を発現し、ルミルは少しの間休息を取ることができた。
それでも限界まで奇跡を発現した為に、体調は万全からは程遠い。
「ルミル殿、もう平気なのか?」
ルミルはガイウスの肩を叩き、肯定を示す。
まだ何時間も奇跡を発現させるのは厳しいが、街までなら問題ないだろうと判断した。
「そうか、良かった…」
ガイウスはルミルが気を失った後の事を話す。
リノは必死に灯火を維持し、村人たちを守ってくれたらしい。
リノの灯火は安定せず、消えかけることも多かった。
時には怪物が現れることもあったが、自警団員の尽力で被害は出なかったようだ。
「それにしても、リノが奇跡を起こすなんて驚いた。
ルミル殿、奇跡は俺にも起こせるのか?」
その問いに、ルミルは少し悩む。
奇跡の発現はリノがしたように確かに不可能ではない。
だが彼女はかなり特殊なケースであり、本来は一朝一夕に発現できるほど容易ではない。
実際に教会では奇跡を発現させられず、神官になれないまま生涯を終えた聖職者も少なくないのだ。
ルミルは自分の喉と口を指さす。
聖句が丁度一巡したこともあり、初めから聖句を唱え始めた。
「? ああ、真似しろって事か…よし。
其は、人に与えられた原初の火、時代を紡ぐ黎明の灯火――」
ガイウスは祈り続ける。
だが、灯火が発現する事はなかった。
「無理か… 人数が増えればルミル殿の負担も減ると思ったんだがな…」
こればかりは仕方ない。
ルミルは励ましの意味を込め、ガイウスの肩をポンポンと叩いた。
「まぁ、都合の良い時だけ神頼みをしても、聞いてくれるわけもないか」
口では奇跡の発現を諦めたガイウスだったが、その後も祈り続けていた。
○
それから一時間ほどが経った。
普段なら夕焼けが見える頃だが、今は暗闇が全てを閉ざしている。
当初の予定では街に到着しているはずだったが、一行は未だ街道を歩いていた。
視界の悪さと大人数、そして様々なトラブルによるものだ。
「一体、いつになったら街に着くんだ…」
「景色に見覚えがあるし、そろそろだとは思うが…」
「こうずっと暗いと、時間感覚がおかしくなるな…」
村人たちは疲弊していた。
もはや喋る気力の無い者も多く、限界を超えて歩いていた。
「大丈夫だ。 街に着けばゆっくり休める。
それまでもうちょっと頑張ってくれ」
ガイウスは村人たちを励ます。
だが、返事は少ない。
「あそこ、何か光っていないか…?」
先頭を歩いていた自警団員がそれに気づき、声を上げた。
ルミルがその方角を見ると、確かに光が見えた。
「街だ…! 街が見えたぞ!」
「うおおお! 着いた…! 着いたぞ!」
村人たちから声が上がる。
ルミルの記憶では確か、あの建物は教会だったはずだ。
眼前にはエルタス村とは比較にならないほど大きな石造りの街が広がっていた。
――――――――――――――――――――
一章完結です。二章はしばらく先になります。
沈黙の灯火 ー神官ですが、闇に閉ざされた世界で生き延びますー ピーター @peter_2
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