第11話 裁きの雷霆

 獣は気配を隠す生き物だ。

獲物を狩る、もしくは身を守る為に、その存在を気付かれないように身を潜める。

だが、その闇の獣は違った。

身を一切潜めず、破壊と殺戮のみを目的としているような威圧感を放ち、一行へと駆け出してきていた。


「こいつも光が効かないぞ!

 総員迎撃! 村人の方へ行かせるな!」


 自警団員たちは盾を構え、闇の獣を受け止める。

突進によって何人か跳ね飛ばされ、残った者も数メートル押し込まれたが、何とか止めることができた。


「ッ、一斉攻撃! 足を狙え!」


 ガイウスの号令で自警団員が各々の武器を足へ突き立てる。

闇の獣は黒い血の様なものを吹き出しながら暴れ始めた。


「狼狽えるな! このまま攻撃を続けろ!」


 自警団員は勇敢に立ち向かう。

だが、巨体で膂力のある獣は暴れるだけで、簡単に人を吹き飛ばす。

足を潰したことで何とか釘付けに出来ている状態だった。


「ぐあっ!」


 一人、また一人と戦闘から離脱する。

戦闘が始まって数分しか経っていないにもかかわらず、闇の獣の無尽蔵な体力に、自警団員たちは苦戦していた。

ルミルと村人は固唾を飲んで見守るしかできない。


「お、おい…あれ…!」


後方にいた村人が声を上げる。

ルミルがその方向を見ると、異形の剣士が村人たちの方に歩いて来ていた。


「不味いぞ…どうする!?」

「どうするったって…逃げるしか無いだろう!」

「逃げるってどこへだ!?」


 自警団員たちは闇の獣への対応で手一杯であり、予備の戦力などない。

ルミルが一歩前へ出る。


「待てルミル殿!

 カイナ! こっちは良い、ルミル殿を!」


 後方の異常に気付いたガイウスが声を上げる。

だが、異形の剣士がルミルを斬り付ける方が遥かに早い。

ルミルは覚悟を決め、聖句を切り替えた。


 灯火の奇跡は消え、辺りは闇に包まれる。


「其は闇を貫き、悪しきを滅ぼす裁きの雷―

 今ここに顕れ、我が敵を討て――『裁きの雷霆』」


 天から稲妻が奔り、闇の獣と異形の剣士へと降り注ぐ。

雷速で落ちるその稲妻を避ける術はなく、それらは一瞬にして塵となった。


「っ…」

「何という奇跡だ…!」


 ルミルは膝をつき、座りこんでしまう。

大きな奇跡を発現させたことで、消耗と脱力感で立っていられなかったのだ。

だが、このまま倒れる訳にはいかず、周囲を暗闇のままにもしておけなかった。


「其は…人が火を与えられた神話…

 夜闇を切り裂き、寒さに打ち克つ、獣を人へ導く始まりの灯火…!

 今ここに顕れよ…『黎明の灯火』…!」


 灯火が蘇り、辺りを照らす。

ルミルは再び灯火が発現できたことに安堵したが、その光はこれまでよりも暗く、弱弱しい光だった。


「ルミル殿! 何という無茶を…!」

「神官様!」


 ガイウスとリノ、そして村人たちがルミルに駆け寄る。

ルミルは大丈だと意思表示をする為に、笑顔を作って手を振った。


「とにかく、背負う!

 少しでも休んでくれ!」


 ルミルはガイウスの背に倒れ込む。

もはや自身で動くことすらできなくなっていた。

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