第12話 消えかける灯火
闇の獣を撃退した一行は再び歩き始めた。
また闇の怪物に襲われないとも限らないという恐怖が一行の背を押していた。
「すまなかった。 今回は俺の判断ミスだ…」
ガイウスが謝るが、それほどまでに危機的な状況であったし、何より飛び出したのはルミルだ。
ルミルは首を振って反論する。
「だが、ルミル殿がいなくなれば、我々は全滅する。
村人を守る為に自分を差し出すような行動は控えてくれ」
そのガイウスの言い分に、ルミルは不快感を覚えた。
確かにその通りだが、それは村人を犠牲にしてでも、自分の安全を確保しろということだ。
疲弊し、そもそも話すことの出来ないルミルだったが、それでも拒否を示す為にガイウスの肩をつねる。
「痛っ…受け入れられないと言いたいのは分かる。
だが、頼む。 たとえ何を犠牲にしても生き残ってくれ」
ガイウスは優しい男だ。
そんな彼が何かを犠牲にする事を許容するのが嫌で、ルミルは何もリアクションを返さなかった。
「神官様、団長さん、喧嘩してるの?」
そんな空気を嫌ってか、リノが声を掛ける。
「そういう訳では無いが…」
「私、精一杯生きることにしたの。
生きて色んなものを見て、天国のお母さんや皆に、いっぱい教えてあげるの」
「そうか…!」
「だから、皆には笑っていて欲しいの」
「そう…だな。
済まない。 ルミル殿、俺は少し弱気になっていた…
団長としての責務を果たすことばかり考えて、多くを生かす道ばかり選んでしまっていた」
ルミルはガイウスがそこまで思い詰めていることに気づいていなかった。
彼は基本的に冷静で、的確な判断を下す。
だが、突如として起きたこの異常事態と村人の纏め役をせざるを得なくなった現状に悩まないはずは無かった。
謝罪の意味を込めてガイウスの肩を叩く。
「もう大丈夫だ。 誰も欠けずに隣街へ辿り着こう」
一行は隣街を目指して歩き続けた。
○
村を出て五時間ほどが経った。
「そは、人に与えられたげんしょの火、時代を紡ぐ、れいめいの灯火――」
リノがルミルの聖句に合わせて唱える。
ルミルの祈りをずっと聞いていたからだろう、彼女は一字一句間違いなく、聖句を唱えて見せた。
「凄いな。 覚えたのか」
「うん! 私にも、明かりを出せないかなって」
奇跡は聖句を唱えられれば発現するものではない。
信仰心を持ち、修行と徳を積んだ一握りの神官にしか発現できない御業だ。
「やっぱり出ないね…」
「神官にならなければ、発現しないのかもしれないな…」
一行は隣街へと近づいていたが、未だ街は遠いにも関わらず、既にルミルは限界を迎えていた。
灯火が、目に見えて小さくなる。
「其の…灯火…、…を…く…黎明の…」
「ルミル殿…!」
「神官様!」
ルミルはただ唱え続ける。
目が霞み、喉が痛み、渇き、体が自分の物とは思えないほど重く感じていた。
それでも、聖句を唱えることだけは止めなかった。
灯火は小さくなっていたが、それでもまだ揺らめいていた。
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