第11話 現代風のお見合い
「どんな風に父さんと知り合ったの?」
「二十歳でお見合いや。写真を貰って京都の料理屋に内緒ですっ飛んで行ったんや」
「じゃあー、母さんの方から一目惚れ?」
「イケメンの板前、旅館の婿養子にもちょうど良い。運命の人と思ったわ」
本当に母さんらしい。どこまでも、打算的な答えだ。若い頃から思い立ったらイケイケの母親にも驚いてゆく。少しだけ、羨ましい気持ちを懐きながら、また憎まれ口を叩いてしまう。
「怖いもの知らずの母さんやな」
「この男やと思ったら逃がしてはいかん」
「えっ……。でも、ありがとう」
意外な返事が届き、初めて耳にする言葉にビックリし頷いていた。
「まあー誰でもええわ。圭子が良いと思う人とお見合いしたら良い。和服用のポーチ持ってえんかったやろう。買うたげるから頑張っといでな」
珍しいことに、母親が和服に似合うバックを買ってくれると云う。欲しい物には目が輝いてくる。お金と持ち物にはうるさいのだ。
でも、男性に興味がない訳ではない。憧れだけは大きい。幼い時に女の子なら誰でも一度は抱く大切な夢があった。
ぬいぐるみを抱く頃から、サン・テグジュペリの「星の王子さま」の童話をバイブルのようにしてくる。それはフランスのメルヘンで有名な話だ。「僕達には、ものそのもの、ことそのことが、大切ですから」その冒頭の言葉は今でもしっかりと覚えている。
「ものそのもの」は王子さま、「ことそのこと」は空に光輝くお星さまである。
遥か彼方の銀河に漂う流れ星に願いを込めて、湯けむりの里でのんびりと大人になってきた。
もういつまでも返事を引き延ばすことは許されない。
ずるずるとお見合いを続けることも出来ないだろう。ならば、運命の人を選ぶ三択となる。女性の特権を利用して三股のお付き合いなんてイヤになる。
「圭子、いつも美人ばっかり見ていると、たまにはお茶漬け娘が気に入る星の王子さまが現れるかもしれん」
「もう、言いたいこと口にして」
母親は失礼なことまで口にしてくる。半ば冗談だとしても、娘をなんて思っているのだろうか。少なくともあんたの子供だよと言いたくなる。顔をしかめて「結婚を最後に決めるのは自分なんだから」と言い返してゆく。
お見合いでは四回目のデートが特別な意味合いを持つらしい。結婚を前提とするお付き合いを承諾し、半年後には結婚式を挙げるのが習わしだという。さらに母親曰く「男性への愛は後から付いてくるもの」とも聞かされていた。
何か変じゃないかしら……。
四回目で結婚の約束なんて、可笑しな男女の出会いだ。プロポーズは神聖なもの。
もう母親たちのお見合い全盛時代はとっくの昔に通り過ぎ、イマドキの恋愛の姿は大きく変わっているはず。お見合いだって現代風で良いと思っていた。
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