第10話 男たちの履歴書
「母さん、お土産付だって。すごいやろう」
思わず口にしていた。男たちは歓心を買うためにか、賄賂(袖の下)のメッセージが添えてある。初めての経験だ。最近の見合いの流行りなのかしら……。
下心がいっぱいの釣書らしいと内心ビックリ驚いてしまう。ひとつずつ履歴書をゆっくりと見ながら重ねてゆく。
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最近はボルダリングのスポーツにはまっている。一緒に屋内の施設で岩登りに挑戦してみませんか。良い運動になりますから。
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職業は加賀野菜を四季を通じて作る農家。別に色とりどりの野菜を送っておくので食べてください。加賀太きゅうり、金時草、加賀つるまめ等、僕と野菜作りしませんか。将来の夢は地場野菜の美味しいカフェレストランをやること。
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金沢の大学で先生をしており、日夜教壇で天体物理の楽しさを学生に話している。毎年クラブ合宿は九頭竜湖の静かな畔でやっている。(准教授なので偉くありません)好きなことは論より証拠、添えてある記録メディアをご覧ください。
履歴を読み進むにつれ、ひとりひとりの個性が感じられ、いずれも自分にはもったいない贅沢な男かもしれないと思えてくる。ボルダリングやカフェレストランにも夢を感じている。生まれつき身体だけは丈夫となる。
もう、写真なんてどうでも良く感じてしまう。なにぶん隠すこともないアラサーのお茶漬けちゃんである。
一方母親は自分の気持ちに関係なく、相も変わらずひとりの男の写真にうっとりしているようだ。いくつになってもイケメン好きに思えてしまう。お節介なのに口まで開き、写真を自分にも見せてきた。
「同郷の和真さんがイチオシや。何か韓流スターみたいやろう。父ちゃんの若い頃にそっくり。野菜作りも良い仕事、婿養子になったら加賀野菜も届くしなあ……。」
「もう、母さんたら」
「バツイチはちょっと勧められん。大学の先生は旅館の若旦那になれるだろうか」
一見徳重さんはイケメン風な男性に見えるが、母さんの言葉には打算的な匂いすら感じてくる。まして料理など得意とは言えない。好物はお茶漬けだ。笑ってしまう。
普段の父親は酒に酔わなければ、寡黙でもっと渋めの男である。そう言えば、ふたりの馴れ初めは聞いたことがない。何故かお見合い談議しているのに興味をそそられていた。
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