第9話 運命の人探して
家業は百年以上続く旅館となる。湯けむり立ち込めるおわらでも一番古いらしい。
「おわらは本当に良いとこや。元々は江戸時代に加賀百万石のお殿様が参勤交代の途中でお寄り頂いた
父親は酒を飲む度に金科玉条のごとくいつも自慢する。故郷自慢も聞き飽きている。つくづく夫婦は似た者同士だと思ってしまう。
おわらは京都との交易の拠点として発展したという。豊富な山海の恵を京に送り届けた旧鯖街道の宿場町である。
今でも、奉行所・番所・お蔵屋敷の跡が残り、情緒あふれる街道沿いには、昔ながらの用水路が流れて、日本再発見できる「一路一会」伝統的な古い集落が軒を並べている。
父さんはかつて若い頃に京都で修行を積んだ和食の料理人だと聞いたことがある。ところが、我が家に帰れば、声を大にしては言えないが、旅館の板前をしており、母親に頭が上がらないらしい。可哀想だが入婿の立場となる。
母さんは眼鏡を取り出し、お見合いの書類を真剣な眼差しで眺めていた。
「あんた、久しぶりのてんこ盛りや」
「母さん、何を言ってるの?」
「だって、釣書が三人から届いている。写真も入っとるでぇ。見るかい?」
母親は写真と履歴書を一枚ずつ交互に確認し、比べているらしい。
「ふう~ん。どうせ目一杯盛った写真やろ。写真はいい。履歴書の方を見せてよ」
素っ気ない返事をしたが、ここんところ三通なんてなかったはず。正直言うとビックリである。見合い写真は実物と異なり、信用出来ないと思っている。これまでも苦い経験をしていた。
外見だけでは人を判断したくない。運命的な男を探すならなおさらとなる。イメージにとらわれ先入観を抱くのもイヤだ。自分も同じ立場だけど仕方がない。
「変わった娘だこと。外見から一目惚れだって良いはずなのに……。」
母親は何か言いたげ風に首を傾げている。あまり期待せず、男の履歴書だけをひとつずつ覗いてみる。
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