第6話 縁結びの試練


 だけど、さらに追い討ちを受けてしまう。

 いつもと変わらぬ叔母さんの悪いクセだ。


「圭子、すぐに三十歳。女としての魅力も必要やろう。色気ぐらい見せてみたら」


「そんなこと言われても……。」


 女の色気、アラサー以上に辛辣で恐ろしい言葉となる。


 世の男性が求めるものは、癒しのオーラと女らしさだという。恥ずかしいけど、どちらも持ち合わせていない。

 早く話が終わって欲しい。気もそぞろで返事をしてしまう。しかも、春子さんは謎めいた大きく厚い封筒を大切そうに抱えている。


 でも、封筒の中身は分かっていた。

 きっと、また、お見合いの誘いだろう。


 一枚の写真と得たいの知れない名前の釣書(つりしょ)だ。この名称を聞くといつも笑ってしまう。釣り上げるって誰を釣るんやろうか。


 なにぶん、「あんたにはもったいない男や」と云われながら、これまで彼女の紹介で十回のお見合いをしてきた。


 お見合い相手には老舗呉服問屋の御曹司や地元のホテル経営者のご子息もいた。春子さんの手前直ぐにお断りはできず、お付き合いだけはしてしまう。

 とは言うものの、ただ食事をするだけ。トキメキなど何ひとつなかった。


「なぜ、断わるの?」と皆から云われる。知らんがなそんなこと。「一生の問題やから」と答えてきた。


 私だって……。好きでこの歳を迎えた訳ではない。こればかりは縁結びの神さまが与える試練だと思ってきた。


 温泉街を浴衣でデートするカップルを見ると羨ましくなる。一緒に寄り添って歩ける恋人も欲しい。本音では結婚もしたいけれど、好きでもない男とはデートもしたくない。もう、見合いだけはええ加減に勘弁してくれと言いたかった。


 冷めたご飯に熱々のお茶をかけて戴く。


 やっぱりのどぐろのお茶漬けは最高のひと言に尽きる! まだ、口の中にはポリポリと沢庵が残っている。そう言えば、自分の存在も残り物のような気がしてくる。


 秋の季節は穏やかで爽やかなひと時と云われる。けれど、ここ数年は庭先の銀杏並木が色づくにつれ心が重くなってゆく。これは歳のせいばかりとは限らない。そんな気がしていた。

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