第5話 残り物には福がある


 ────午後二時半。


 今朝から色んなことが起きたけど、待ちに待ったランチタイムとなる。ひと切れの沢庵と梅干し、味付け海苔、ご飯釜からほかほかの白飯を取り出してくる。


 職場では仕事柄なのか、皆一緒に昼食を取ることが少ない。いつからか決まったように最後が自分の出番となっていた。


  “色気より食い気。残り物には福がある”


 母が伝えてくれたことわざで唯一良い言葉だと信じている。本当にそうだ。座右の銘にしたくなるほど。調理場にはまかないで食べて良い食材が残ることがある。

 後だしじゃんけんの方が残り物を貰えることが多い。しかも、香ばしいほうじ茶さえあれば、湯けむりのご褒美が得られる至福のひとときとなってゆく。


 大好物なのは、熱々のお茶漬けである。


 ポイントは清々しい香りのわさび。忘れてはいけない大切な薬味となる。加賀のお茶漬けは香り豊かで美味しいのだ。何杯もおかわりしてしまうほど。

 まさに、残り物でベストなマリアージュが出来上がってしまう。しかも、残り物が変われば日替わりメニューすら食べれる優れものとなる。


 今日も例外ではなく、調理人から「少しだけど、食べてや」と焼き魚の切れ端が届く。なんと、のどぐろの塩焼きである。トロトロに脂がのって美味しそう。思わずお礼を言って、笑顔を振りまいてしまう。


 さらに春子さんからは秋鮭の焼きおにぎりの差し入れがあった。ほうじ茶をかけると焼きおにぎりの食感が楽しめ、二度美味しい鮭茶漬けの完成となるはず。

 けれど、旨い物には食べ時がある。慌てない、慌てない。出来上がるのが待ち遠しい楽しみとなり、両手を合わせてしまう。

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