食い応えのある小説、結末を知る満腹感。

 正義と悪、公と私、人と獣、記憶と忘却、個体と世界。

 かようなアンチノミーを両軸に、1本筋の通ったクライム&デテクティブなストーリーをダークファンタジーに仕上げてしまった。

 それもハードボイルドに!

 火加減は半熟でお願いします、なんて野暮な気持ちで読み始めては、火傷するから予め忠告しておく。
 この小説を食らうならば、こちらも食われる覚悟が要るというもの。

 私は決して、美食家ではないが、味わうこの世界観の根底、隠し味はアカシックレコードと見た。

 普通ではない、粗雑で、禁じられるような意 ――悪食―― シンプルかつダイレクトに名付けられたタイトルの、そこにある確かな存在を見よ。

 結末の一歩手前、ヒーロー&ダークヒーローの、正義を志した白と悪と戒めた黒の交錯する拳もまた、アンチノミー ――二律背反――の余韻を持って、物語を締めているわけだが。
 最終話によって、示されるオルタナティブこそカタルシスと呼ぶに相応しいものだ。

 だから、私は敢えて、読了ともごちそうさまでしたとも口にしない。
 ただただ、この満腹感に、行儀悪くも、ゲップをするのだ。

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