食い応えのある小説、結末を知る満腹感。
- ★★★ Excellent!!!
正義と悪、公と私、人と獣、記憶と忘却、個体と世界。
かようなアンチノミーを両軸に、1本筋の通ったクライム&デテクティブなストーリーをダークファンタジーに仕上げてしまった。
それもハードボイルドに!
火加減は半熟でお願いします、なんて野暮な気持ちで読み始めては、火傷するから予め忠告しておく。
この小説を食らうならば、こちらも食われる覚悟が要るというもの。
私は決して、美食家ではないが、味わうこの世界観の根底、隠し味はアカシックレコードと見た。
普通ではない、粗雑で、禁じられるような意 ――悪食―― シンプルかつダイレクトに名付けられたタイトルの、そこにある確かな存在を見よ。
結末の一歩手前、ヒーロー&ダークヒーローの、正義を志した白と悪と戒めた黒の交錯する拳もまた、アンチノミー ――二律背反――の余韻を持って、物語を締めているわけだが。
最終話によって、示されるオルタナティブこそカタルシスと呼ぶに相応しいものだ。
だから、私は敢えて、読了ともごちそうさまでしたとも口にしない。
ただただ、この満腹感に、行儀悪くも、ゲップをするのだ。