文系理系のバディ・コンプレックス

 理系とミステリの相性は良い。
 その専門性は勿論のこと。
 やはり知識によるキャラクターの格差は、事象における認識のズレを産み出し、文章で伝わる読者に対して、トリックや伏線の重要な部分を担うことが出来る。

 理系最強か! などとやっかみ、「あぁ、すうがk・・・・・・算数や理科のどこまで遡れば、理系としてやり直せただろうか」とお嘆きのアナタ。
 分かる分かりますよ完全に文系に属する私のような方々は、理系に憧れにも似たコンプレックスを抱えること幾星霜。

 ただ、こちらの作品。
 理系と文系のバディものとして、非常に優れたバランスを保っておいでだ。
 また、一話ごとの文字数と展開の区切りも良いおかげか、ストーリーのテンポも良い。知識の専門性を保ちつつも、文系が安心して読めるミステリというのは、とても有り難い。オススメしやすい。

 キャラクターに対しても言及しておこう。
 金髪ギャルの白衣モノ、と。新たな性癖をくすぐられた諸兄は今すぐ処刑といきたいところだが、まず真っ先にレビューの書き手たる私が処刑なので寛大な処置を願いたい。

 ぎゃ・・・・・・失礼、ギャルについて語りそうになってしまったので割愛するが。

 ギャルという属性が持つ本来のファッショナブルな最先端な流行の軽薄さと、物語の根底にある田舎という地域性が持つ社会の停滞感が、秀逸だ。

 新聞記者の父を持つチャールズの社会派、なんて表現もそのひとつ。
 或いは、引っ越し先の、買い物のシーンに訪れる大型ショッピングモールや、燃費や排気量を気にしない車を用いたガジェットもそのひとつ。

 キャラクターが持つギャップ、というのは、当たり前のようで。現実的にも誰もが型に嵌まる人物像ではないように。だからこそ、それぞれが魅力に富むわけだが。
 設定を盛ってばかりのキャラクター小説とは違って、リアルな形で、マイルドに舞台に溶け込む、そんなリアルさをストーリーに表現できている。

 例えば、理系と文系もそうだし、都会や田舎、ギャルとチャールズを取り巻く環境を含め、青春のエッセンスを散りばめたバディ・コンプレックス。きちんと価値観の天秤に触れていることも好感が持てる。

 タイトルにも触れておこう。

 天網恢々疎にして漏らさず、老子曰く、となるか。行われた悪事に対して、きちんと天罰が与えられる。
 勧善懲悪というと、スケール的に言い過ぎな気もするが。そこは、いい塩梅で不正や悪意や犯罪に対して、きちんとしたアプローチによる、正義が行われていることで、カタルシスを得ることが出来る。

 アルケミー、錬金術には、やはり虚実が付きまとう。
 そもそも、金をも及ばず、不完全から完全を産み出すことは出来ないのだ。
 事件、犯人側はもちろん、この構図の落とし穴にハマるわけだが。

 だが、幼きメインキャラクターたちには、夢を旅する少年、少女であって欲しいと願わずにはいられない。
 恢々には、大きく包み込むという意味があるそうだ。
 物語全体がそうであり、少年少女たちを取り巻く大人達もまたそうである。

 最後に、この作品に、このタイトルを、そう名付けた作者に。
 敬意を捧げたい。

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