やはり、ミステリにはミステリアスな美女がいれば、雰囲気が出る。
そして、その死の謎を追うストーリーとくれば、必然的にミステリである。
加えて、このハイクオリティな完成度にならば、私は文庫本を手にするくらいの金銭を支払ってもいいと思う。
読書量のある方であるならば、或いは、既視感のある設定や内容であるかもしれない。ともすれば、似た作品を既に発刊されたものから探せるかもしれない危惧は、確かにある。
しかし私は、タイトルに『女王蜂の嘘』と名付けた、そのセンスを買いたい。
拙い知識を頼りにさせてもらうので、間違っていたらご容赦願いたいが。
女王蜂の役割は、『産卵』だ。そして、栄養を与えられて育つので個体も大きい。そのイメージからか、主に創作の中ではリーダーシップを持つ女性の呼称に使われやすい。だが、それほど群れの中で君臨するような実態ではないようだ。
そして、産卵の役割を持つ『女王蜂の嘘』であるのだから、推して知るべし。
ここは、ストーリーラインともリンクする。
学園、そこに集う生徒の誰もが崇めるような完璧な女性。
事故か、自殺か、他殺かを探る内に、その虚像は剥がれ落ち。彼女と接点を持った人物たちから語られ、多面的に露わになる実像。
リアルな人間の二面性という描写にも触れ、昨今よく見る、過剰に盛られた設定による『キャラクター』としてではなく。真実、一個の『人間』としての描かれ方を読むこと出来る。
それは当然、女王蜂役の彼女だけでなく、主人公もその相棒を務める、彼女と彼、また取り巻く登場人物たちにも当てはまる。
学園という舞台柄、主に生徒と教師に分かたれるが、生徒側の人物が抱える矛盾や葛藤、鋭利な強さと繊細な弱さを、特にハイティーンの読者には、是非、共感してもらいたいと思った。
そして、女王蜂による『産卵』だけが、嘘ではないことに、物語の深みを感じ取って欲しい。
余談になるが。
雄蜂には針がないのだという。それが交尾のためにあるからだ。
働き蜂は雌がほとんどで、産卵気管を刺し針にしている。
針を凶器、或いは狂気と考えて、私は犯人は女性ではないかと考えた。
そして、蜂《bee》。
存在や行動《be》も同じく、ビーだ。
人間が描かれ、事件が起こる。
繰り返すが、タイトルに『女王蜂の嘘』と名付けた、そのセンスを買いたい。