概要
その男は暗く黒くどこまでも深く染め上げられた外套に身体をすっぽり隠していた。
頭巾から見え隠れする双眸の瞳もやはり黒曜石のように黒く、左腕の鱗籠手は黒鋼で背中の両手剣の刀身、柄、全てが黒鋼だ。
幾重もの剣戟のなか白刃を受け流し叩き返してきた籠手。その傷跡は死合う相手に幾度も死を呼び込んだことを伺わせた。槍襖を食い破るよりも多く首を跳ねたであろう黒鋼の大剣は切先から柄まで鋭く、黒光の珠が滑り落ちた。
世界はあまりにも曖昧で境界線が朧げとなった。
リードランを放浪するアッシュ・グラントは空を眺めそんなことを考えた。
今日この日を迎えるまでの出来事がそう思わせたのだ。それは昨日のことでもあったし、気が遠くなるほど昔の話でもあった。アッシュ・グラントの名を含む英雄譚は幾つかあったが、その始まりは
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!剣戟と格闘 魔導と魔術 情報と量子 全てが溶け合い揺蕩う土地リードラン
圧倒的な情報量。
複雑に絡み合ったプロットと伏線。
一度読んだだけでは 処理しきれるモノじゃないとある程度諦めて読み進める。
そして 一度ストーリーを追ってから もう一度戻って反芻し その緻密な構成と世界の真実に震える。
そんな読み方をお奨めしたいと思うのです。
もちろん流麗な文章と火花の散るような剣戟と格闘。
おぞましい亡者共が蠢く荒野を征く〈宵闇の鴉〉アッシュ・グラントを廻る英雄譚としても出色の出来なのです。
リードランを生きる赤髪の姫君 〈色欲〉の吸血鬼 防衛隊の隊長 酒場の親爺 貧民街の少年少女 名も無き市井の人々に至るまで 血肉のある存在として 時に気高く 時に美しく 或いは…続きを読む - ★★★ Excellent!!!異世界ファンタジーの枠に嵌りきらない圧巻の物語
世界の其処此処で英雄譚として謳われるアッシュ・グランド。
主人公がそんな英雄だと聞けば、どんな壮大な物語が始まるのかと思うでしょう。
しかし、この物語はただの英雄物語の異世界ファンタジーではありません。
タグに書かれてある「近未来」。
これがこの物語の鍵であり、物語の世界観に厚みを増し、深い謎と絡み合う人々の価値観や生き方を味わい深いものにしています。
ダークファンタジーとしてシンプルに楽しめる反面、今自分達が生きている現実社会が、今後どの様に変わっていくのかという期待や恐れも交じり、これはファンタジーなのか、それとも近未来ドラマなのか…、気付けばこの物語に没入してあれこれ考察する自分に…続きを読む - ★★★ Excellent!!!没入させてくれる魅せる大人のダークファンタジーここにあり!
最新話まで拝読してのレビューです。
本作はまさに魅せるダークファンタジーです。
物語はしっかりとした土台の上で構築され、硬質で研ぎ澄まされた文章で紡ぎ出されていきます。
今風の要素がないため、読み手を選んでしまうかもしれませんが、少なくとも物語に没入したい方にはまさに打ってつけの作品です。
1話当たりのボリュームもたっぷりあり、読み応えを与えてくれます。
ながら読みや隙間時間に、といった読み方には向いていません。
じっくり腰を据えて堪能したい作品でもあります。
描写は繊細かつ丁寧でありながら、本当に情け容赦なし、という表現が最適です。
狂おしいばかりの残忍さ、悲哀に満ちた世界をたっぷ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!本格、重厚、ダークファンタジー!
はじめの「セントバ大図書館[設定編]」は、本当に設定だけで、恐るべきボリュームと情報量を誇ります。
読んでて、「あっ、覚えきれんやつ……!」となった馬鹿がここにいます。
世界観がきめ細かく重層的に作り込んで……つまり、いくつかの国と、いくつかの神話と、魔法のいくつかの流派(成り立ち含む)です。
こういうのが好きな方は「くっはー! 燃えるぜ!」となると思います。
まあ、覚えきれなくても、なんとかなります。
でも、一読しておくことをオススメします。
次の「Kissing a fool (before the epiloge)」は、物語のクライマックス、最後のちょっと手前が切り取ら…続きを読む - ★★★ Excellent!!!導入が・・・
とてもおもしろいです。
物語の道筋を綿密に決めた上で執筆されているのではないか、と思わせてくれます。
中心人物を切り取った写真を見ているように周りの情報が提示され、またキャラも上手く利用してボカしているので、興味を失うことなく読み進めることができます。
また、行間の取り方が読み手にとても配慮されており、繊細な文章とあわせて断片的な物語が取りこぼすことなく頭に滑り込んでくる感覚がとても気持ちよいです。
ダークファンタジーとして世界観が確立されており、しっかり伝わってくる分、惨劇が描かれる場面も緊迫感や悲壮感もより深く味わえるので心しておくことをお勧めします!
世界観に没頭するため、かなり…続きを読む - ★★★ Excellent!!!「救いがない世界」に「わずかな救い」を求めるダークファンタジーの決定版
えっと「真・女神転生」が好きな人は、こういうの好きだと思います。ストーリーというか、雰囲気が「ちょっと」だけ「真・女神転生2」に似ていますので
ただ内容は残念ながら「シビア」なダークファンタジー。主人公とヒロインの恋愛だけが「唯一の救い」と思える物語は久しぶりに読みました。でも、私はこういうの方が好みかなぁ。「救いがない世界」に「わずかな救い」を求めて頑張る小説って、私はかなり好きなので・・・
最後に「注意」事項。この作者は描写力がとてつもなくうまいのに「容赦」なく「残酷なシーン」をねじ込んできます。なので「ホラー」とか読めない人は、ちょっと無理かもしれないですね。気をつけてくださ…続きを読む