第3話 保証会社 2

 今営業を掛けてきている保証会社というのは、九州地方に本社がある保証会社だ。九州地方は日払いの激戦区と聞いたことがある。激戦区というのは店舗数が多い事もあるのだが、なかなか商売としては厳しいという意味合いもあるらしい。あくまで聞いた話だが、普通の一般の人がお金を借りに来て、金融会社はその人にお金を貸した。翌日怖いお兄さんが来て、




「●●さんの借りたお金、3掛けでよろしく。」




 ってのが日常茶飯事であるらしい。ひどい時には1掛けってのもあるみたいだが。まぁ借りに来た人と怖いお兄さんはグルなんだろうけど、いろんな人がいるもんだ。おそらくヤミ金が回収する為にしているんだろうなと推察は出来る。




 その保証会社と取引をするのか否か、社長の答えは・・・。




「よし!保証会社、作ったろうやないか!」




 俺と店長は少々驚いてしまったが、こういった行動力は見習うべきだとも思う。それから準備に入ったのだが、いくつか問題が出てきた。そもそも自分たちの為だけに作る保証会社は、自分たちにとっては都合のいいものではあるが、いざという時には重しになるのではないかという懸念。保証会社を自社の子会社にするという事は、そこの収入はこちらの収入と考えられるかもしれないという事である。つまり、払い込まれた保証料はいざという時(過払い請求される時etc.)、利息分に充当されるのではないか?これは社長の知り合いの弁護士からの指摘である。出資法の金利を飛び越えた特例金利でやってるウチらにとっては、なかなか厳しいものである。また独立した保証会社であっても、契約してる会社がウチ1社(正確にはヤマダとアサヒで2社なのだが、社長がアサヒの株を持ってるので一緒の会社と見られる)だと子会社認定されて利息に充当される可能性があるとの事。その発想は無かったが、そもそも過払い請求してくる時点で、重箱の隅をほじくって来るのは間違いないだろうし。ウチではまだ裁判までいった例はないのだが、これから先はこの件も持ち上がってくるだろう。この事は社長や俺たちの頭を悩まし続けた。




 悩んだ挙句、作る保証会社はウチからは全く独立した会社として作る事となった。また参加がウチらだけというのは都合が悪いとして、ウチの考えに賛同してくれたいくつかの会社に参加してもらう事となったのである。




 次に悩んだのは人選である。主導がウチの社長なので、当然のように社長が人選するのだが、




「そこまで能力は必要ないのよねぇ。しっかり管理だけしてくれたらいいだけだし。ただ、お金を扱う仕事だから、それなりに信用出来るやつじゃないとダメなのよねぇ。」




 白羽の矢が立ったのは、社長のいとこにあたる人物であった。社長よりはちょっとだけ年上で、トラックの運転手をしてると言っていた。そこでもう一つ問題が持ち上がった。仮にこの人を保証会社のトップに据えるとなると社長に近すぎる為、他社から情報漏洩の可能性を指摘されるのではないか?保証会社に他社から申し込んできたヤツの個人情報が、ウチに流される可能性があるって事だわな。まぁこの辺は信じて貰うしかないし、顧客データは他に漏らさないという約束しか出来ない。まぁ信じるか信じないかは参加する会社の判断によるが。もちろん、旨味がある事も匂わしている。これから作る保証会社は、契約してる金融会社が何をしてもそこにはタッチしないという旨味。まぁこれについてはいずれ話すとしよう。




 参加する金融会社から了承を取り付けた社長は、みんなを呼んでいとこさんをお披露目する事になった。当然のように現場を仕切っている俺らも呼ばれて、ウチも含めて5社総勢20人のお披露目会となった。社長はともかく、他の社長も面識はあるみたいで、俺ら現場の人間は全員が初対面であった。




 全員が席に着き、社長に連れられたいとこさんが部屋に入ってきた。俺はその顔を見て驚いた。何と表現すればいいのか・・・。一言で言い表すなら、




【majiで本職になる5秒前!って言うか、本職じゃね?】




ってトコである。超強面。顔面凶器という言葉を何度か耳にした事があるが、それをはるかに飛び越えていく超弩級の強面である。社長も西島さんもまぁまぁの強面だが、そんな2人が県庁の職員並みに見えてしまう。なかなか想像がつきにくいとは思うが、俺にはこういった言葉しか浮かんでこない。ボキャブラリーの無さが悔やまれる。




 全員が座って自己紹介を始めた。社長のいとこさんは水口さんという。超強面なのに、少々声のトーンが高い。が、怒らせたら怖いんだろうなという印象だった。まぁ実際怖いらしいけど。社長の話では昔本職さんと揉めた事があり、5人の本職さんとやり合ったらしいが、一歩も引かなかったみたいだ。その時はそちら方面に知り合いのいるウチの社長が間に入り、痛み分けという感じになったらしい。その後スカウトされたみたいだったが、本人は勝手気ままなトラックの運転手を選んだという経歴の持ち主。一応奥さんと子供もいるらしいが、聞けるもんなら奥さんとの馴れ初めを是非聞いてみたいものである。




 一応の顔合わせも滞りなく終わり、翌日からは社長と弁護士さんが書類の作成に取り掛かり、社長は連日疲れ切った顔をして本店に出てきていた。そんな社長を横目に、西島さんはいつもの通常営業と言っていた。まぁこればっかりは俺らが入り込む余地は無いからなぁ。金融関係はそれなりに勉強もしてたのだが、さすがに保証会社関連の法律なんぞ、俺も西島さんも知ってるわけがない。




 そして、すったもんだはあったものの、社長と弁護士さんが書類を仕上げ、全ての関連作業と手続きが終わり、ついに開店(?)と相成ったのである。

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