第5話 保証会社 4

 いつしかその怒涛の日々もなんとか落ち着いていった。2ヵ月もの間、2人死に物狂いで頑張った甲斐があったというものだ。もっともその副産物もあったのだが。貸付残高が爆発的に増えたのである。まぁそりゃ増額やらなにやらとやってきたからな。社長にいくらか持って来てもらったりもしてたのだが、




「これ以上は動かせん。」




と、社長からストップがかかるくらいだった。まぁ俺たちにはわからん社長のお金の流れもあったのだろうけど、こっちは急いでんねん。




 そこで俺と西島さんが目を付けたのが社長の車だった。社長はまぁまぁの高級車を2台所有してたのだが、それを売っぱらってもらった。社長を説き伏せ、仕事終わりに本店へ行き、社長の知り合いの車屋さんが会社に来て書類などの手続きをしていった。その時現金も持って来てくれてたのだが、手続きが済み机の上に現金が積み上げられた。社長の確認が済み次第、強盗のように西島さんと俺がそれをかっさらっていき、2人で分け前の話をしてヤマダの分はそのまま金庫へ、アサヒの分は俺がそのまま会社に持ち帰り、金庫に仕舞われた。社長のションボリしてた顔が未だに忘れられない。




 他所もだいたいこんな感じでやってたみたいだった。おかげで飲み会の時、社長さん達の恨み節が方々から聞かれる事となった。




 貸付に回すお金は原則自分で構えなければならない。まぁ手段は問わずなのだが。ただ銀行などの金融機関から借りて貸し付けることは禁じられていた。これは法律だったか自主規制だったか忘れたのだが、街金風情にはなかなかお金を貸してくれなかったのである。理由は銀行みたいなトコで安い金利で借りて、それを高い金利で貸す事は社会通念上許される事ではないという事らしいのだが。銀行はどうなんだろう?と少々考えてしまうのである。まぁ俺らが何を言ったとこで聞いてくれるわけでもないのだがね。




 そんなこんなでやっと落ち着きを取り戻してきたある日、今度は保証会社で少々問題が出てきた。税金の問題である。これは税理士さんからの指摘でわかった事なのだが、保証会社に振り込まれたお金は全て会社の収入となる。事務手数料云々はあくまで各社にプールする金額を決める割合だと思っても差し支えないだろう。




 では経費は?っというと、会社の経費はもちろん社員たちの給料など、この辺は普通の会社と変わらない。が、もう一つ大きい経費がプールされてるお金から請求によって各社に支払われる弁済である。




 初年度は各社ともプール金を貯める事に焦点を置く。さらには各社からの請求件数自体が少ないのである。つまり、保証会社は初年度大黒字、翌年からは大赤字である。もっとも保証会社自体は赤字であってもリスクはない。問題は初年度の黒字である。当然のように法人税が、しかもべらぼうな金額で来るのである。これには社長も水口さんも困り果てていた。厳密に言えば、プールされてるお金は保証会社が勝手に使えるお金ではない。まぁ簡単に言えば預かってるだけである。しかし弁護士さんの話では、預かってる事には出来ないらしい。可能性としては出資法違反を問われるかもしれないとの事。だから振り込まれたお金は全て会社の収入となるのである。翌年からは各社から弁済の請求件数が多くなるので、赤字になるという話だ。




 結局支払われる法人税は、社長が水口さんにお金を貸すという形を取り、事なきを得た。法人税って高いんだなというのが、俺の率直な感想だった。結構な金額だった事を後ほど聞いた。




 翌年以降はあまりにもプール金を貯めこんでる会社には水口さんから、




「だいぶ貯まってるんで、決算前にある程度請求出してくださいね。」




 と言われるようになった。保証会社は赤字じゃないといけないのである。プール金が貯まり過ぎると、保証会社が黒字になってしまうかもしれないからである。




 保証会社に加入してもらう事によって、俺や西島さんの貸し付ける客層も広がった。以前ならこれは保証人付けとこうというような客も、保証人無しで貸すようになった。まぁ利息も半分になったので、それなりに客を拾っていくしかないのだろうけどね。




 そして取り立て自体も変わっていった。本人や関係者がいたら話もするが、それ以外はムチャをしなくなってきた。これは社長からの通達で、あまりムチャをし過ぎて、刑事事件になる事を避ける為でもあった。




 この頃からかなぁ。お金借りてる客の質が変わっていったのは。借りた物は返す。当たり前の事だと思うのだが、借りたお金は返さなくていい方法があるって感じになっていったな。ない袖は振れぬ。そんな事を言う客が多くなってきたのもまた事実である。そしてなんかあれば被害者面するヤツも多くなっていった。




 そんなこんなで順調とは言い難かったが、半年一年が過ぎるとそれなりの通常営業になっていった。が、やはりいろいろと問題は出てくるものである。それは保証会社の方でもそうだが、そっちは基本タッチはしない事にしている。だってわからないんだもん。そして本業の方でもそれなりに問題を持った客が出てくるのである。

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